上場株式の配当の税金は、
- 源泉分離課税
- 総合課税
- 申告分離課税
の3つから選ぶことができます。
この3つの課税方式の中で、どれを選ぶのが一番得するか?実に迷うところですが、それにはそれぞれの課税方式のメリットとデメリットを知っておく必要があります。
ベストな選択をするために、この記事の内容をご参考にしてください。
※なお、ここでいう「株式」は「上場株式」を指し、「非上場株式」は含まれませんので、混同しないようにお願いいたします。
「源泉分離課税」「総合課税」「分離課税」 どれがお得か?
結論からいえば、次の関係になります。
課税方式 | メリットある人 |
源泉分離課税(申告不要方式) | 所得の高い人で株の譲渡損失のない人 |
総合課税(要確定申告) | 所得が一定水準以下の人 |
申告分離課税(要確定申告) | 株の譲渡損失のある人 |
この関係を理解するためには、それぞれの課税方式の特徴とメリットを理解しておく必要があります。
配当所得の計算法
課税方式の前に配当所得の計算方法について解説しておきます。
配当所得の計算方法は次の通りです。
・収入金額(源泉徴収税額を差し引く前の金額)-株式などを取得するための借入金の利子= 配当所得の金額
※収入金額から差し引くことができる借入金の利子は、株式など配当所得を生ずべき元本のその年における保有期間に対応する部分に限られます。
上記計算で求めた金額に対し、
- 源泉分離課税
- 総合課税
- 申告分離課税
の3つのうちから、課税方法を選ぶことができます。
株の配当金の課税方式
株式の配当金を受け取るときは、原則、所得税と住民税の合計、20.315%が源泉徴収されます。
所得税および復興特別所得税 | 15.315% |
住民税 | 5% |
合計 | 20.315% |
※ただし、発行株式の3%以上を保有する大口株主は除きます。
そのうえで、配当金の課税方式を下図のように3つの中から選ぶことになります。
1.源泉分離課税(申告不要方式)
株式の配当金は、支払い時に源泉徴収されて、そこで課税関係は終了するのが原則です。
申告不要方式とは、確定申告を選択せず、20.315%を源泉徴収されてそのまま課税関係を終わらす方式です。
一方で、申告不要とせず、確定申告を選択することもできます。
確定申告を選択すると、さらに「総合課税」か「申告分離課税」を選びます。
2.総合課税(要確定申告)
源泉徴収された後に、確定申告することを選択した人は、総合課税か申告分離課税か選ぶことができます。
総合課税とは、給与所得など、他の所得と合算した課税所得に、所得税の税率をかけて所得税額を算出する課税方式のことをいいます。
所得税は所得が増えるほど税率が高くなる超過累進税率なので、他の所得が多いと、総合課税を選んだ配当所得も税率が高くなります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円~3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000~6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円~8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円~17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円~39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円~ | 45% | 4,796,000円 |
一見すると不利に思える総合課税ですが、その年の所得によっては、源泉徴収された20.315%より税率が低くなります。
さらに総合課税を選択すると「配当控除」を受けられます。
また、その株式等の元本を取得するためにした借入金の利子を、配当の収入金額から引くこともできます。
まとめると、源泉徴収された20.315%より税金が安くなる(還付される)場合は、総合課税を選択するメリットがあります。
3.申告分離課税(要確定申告)
申告分離課税とは、その名の通り、他の所得と分離されて課税される方式です。
申告分離課税のメリットは、他の所得と合算しない代わりに、上場株式の損失を「損益通算」できることです。
先に説明した損益通算をできる場合とは、申告分離課税を選択した場合です。
さらに、申告分離課税を選択すると、その年に控除しきれない株式の損失を、翌3年間に渡り「繰越控除」もできます。
また、申告分離課税も、株式を取得するためにした借入金の利子を配当金の収入から引くことができます。
まとめると、株式で損失が出たときは、申告分離課税を選択した方が有利になることがあります。
ただし、申告分離課税を選択すると、総合課税でできた「配当控除」をすることはできなくなります。
NISAは申告不要
ちなみに、NISA(少額投資非課税制度)の非課税口座で取引した株式の配当金や投資信託の分配金は非課税です。
そのため、税金が源泉徴収されることはなく、確定申告の必要もありません。
上場株式の配当金の2つの特例
「源泉分離課税」「総合課税」「分離課税」 の3つの選択肢のうち、どれを選べば得するかは、それぞれのケースによって異なりますが、それを理解するには、
- 総合課税で受けられる→配当控除
- 申告分離課税で受けられる→損益通算・繰越控除
の2つの特例を知っておく必要があります。
1.配当所得控除
株式の配当金について、総合課税を選択すると「配当控除」を受けることができます。
配当控除は、源泉徴収された所得税から法人税が二重課税にならないための措置で、二重課税になってしまった部分を出資者(配当を受取る人)に還付するための仕組みです。
※配当金は、法人税を引かれた後のお金で分配するため。
配当控除は、国内株式の配当金について総合課税を選択して確定申告をした場合に、配当金に一定率を掛けた金額が所得税・住民税から控除されます。
配当控除を受けることができる配当金とは、日本国内に本店のある法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配、証券投資信託の収益の分配などです。
配当控除の対象にならないもの
次の配当などは配当控除の対象になりません。
- 外国法人から受ける配当等
- 基金利息
- 私募公社債等運用投資信託等の収益の分配に係る配当等
- 国外私募公社債等運用投資信託等の配当等
- 外国株価指数連動型特定株式投資信託の収益の分配に係る配当等
- 特定外貨建等証券投資信託の収益の分配に係る配当等
- 適格機関投資家私募による投資信託から支払を受けるべき配当等
- 特定目的信託から支払を受けるべき配当等
- 特定目的会社から支払を受けるべき配当等
- 投資法人から支払を受けるべき配当等
- 確定申告不要制度を選択したもの
- 申告分離課税制度を選択したもの
上場株式の配当控除率
株式の配当控除は「課税所得金額等※」がの3パターンのケースで分けられます。
- 1,000万円以下
- 配当所得を加えると1,000万円以上
- 配当所得を加えなくても1,000万円以上
※課税所得金額等=総所得-所得控除
配当控除の有利・不利の判定ラインは900万円
配当所得で総合課税を選択すると、その年の課税所得金額によって税率が変わります。
所得が多くなると税率も上がり、所得が少なくなると税率も下がります。
その結果、配当控除の有利・不利ラインを計算すると次のようになります。
判定 | 課税所得の金額 | 所得税率 | 住民税率 | 配当控除 | 実質所得税負担率 | 実質住民税粉炭率 |
申告しない方が有利 | 4,000万円以上 | 45% | 10% | 所得税:5% 住民税:1.4% | 40% | 8.6% |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 10% | 35% | 8.6% | ||
1,000万円超~1,800万円以下 | 33% | 10% | 28% | 8.6% | ||
900万円超~1,000万円以下 | 33% | 10% | 所得税:10% 住民税:2.8% | 23% | 7.2% | |
695万円超~900万円以下 | 23% | 10% | 13% | 7.2% | ||
申告した方が有利 | 330万円超~695万円以下 | 20% | 10% | 10% | 7.2% | |
195万円超~330万円以下 | 10% | 10% | 0% | 7.2% | ||
195万円以下 | 5% | 10% | -5% | 7.2% |
結論からいえば、課税所得金額が900万円以下の人です。
課税所得金額が900万円の人の税率は所得税が23%、住民税が10%で、合計33%になります。
配当控除を選択した場合の税額控除額は、所得税が配当所得の10%、住民税が配当所得の2.8%で、合計12.8%です。
つまり、配当所得にかかる所得税と住民税の実質的な税率は、33%-12.8%=20.2%。
配当金の源泉所得税の税率は、20%(所得税15%、住民税5%、ほかに復興特別所得税0.315%引かれている)なので、900万円がラインになるというわけです。
完全に下回るのは所得が695万円以下のときです。
・695万円以下:17.2% 20.315%-17.2%=3.115%のお得
したがって、所得が一定以下の人は、総合課税を選択をして確定申告をした方が節税になってお得といえます。
国民健康保険への影響を考える
ただし、所得が695万円以下でも、個人事業主や年金受給者といった方は、配当控除を受けることで「国民健康保険料が上がる」可能性があります。
国民健康保険料は「所得が増えると保険料も上がる」という特性があります。
国民健康保険料の計算は、扶養控除や配偶者控除、生命保険料控除などを控除する「前」の所得金額が、国民健康保険料の対象です。
そのため、配当所得を総合課税で申告すると、この総所得金額にプラスされることになるので、税金は減っても、国民健康保険料は上がることになります。
扶養控除から外れる可能性がある
配当控除を総合課税で申告すると、総所得金額に配当所得がプラスされます。
所得税の扶養控除対象の合計所得金額48万円を超え、扶養控除の対象から外れるケースも出てきます。
その結果、節税額以上の税額負担を扶養者に負わせてしまい、世帯全体でみると損することもあります。
節税は、総合的に考える必要があります。
2.損益通算・繰越控除
損益通算とは、黒字と赤字を相殺することでです。
その結果、赤字の分だけ利益が小さくなり、税金を減らす効果があります。
損益通算の詳しい内容は、下記記事をご覧ください↓
この損益通算は、株式の売買で出た損失でも行うことができ※、株投資の失敗を税金の分だけリカバリーできます。
ただし、株式の譲渡損失と損益通算できるのは、同じ「譲渡所得」の株式の譲渡益と、株式の配当金(公募株式投資信託の収益分配金、2016年以後の公社債等の利子・分配金を含みます)のみです。
さらに、株式の配当金との損益通算については、「申告分離課税」を選択したときだけとなります。
※株式の譲渡が「事業所得」や「雑所得」に該当する場合は、株式の「譲渡所得」と損益通算することはできません。
3年間の繰越控除ができる
株式の譲渡損失について、損益通算をしても、なお損失が残る場合があります。
たとえば、株式の譲渡益と配当金が100万円、株式の譲渡損失が200万円だった場合、損益通算しても100万円の損失の余りが出ます。
このその年の内に控除しきれない損失は、翌3年間繰越すことができます。
これを「繰越控除」といいます。
仮に下記のようなケースがあった場合、100万円の損失が出た翌年以降3年間は、利益のトータルより損失が上回っているため、税金は0円となります。
利益 | 損失 | |
今年 | 100万円 | |
1年目 | 50円 | 0万円 |
2年目 | 30万円 | 0万円 |
3年目 | 10万円 | 0万円 |
合計 | 90万円 | 100万円 |
ただし、繰越し控除は3年間ですので、3年で控除し切れなかった損失は、4年目以降に繰り越すことはできません。
また、この特例の適用を受ける場合には、上場株式等の譲渡損失が生じた年分はもちろんのこと、その後に取引がない年があっても、その損失を繰り越す期間は引き続き確定申告をしなければならないことに注意が必要です。
上場株式の配当金の課税方式と特例についての関係一覧表
上場株式の配当金の課税方式と特例についての関係は、以下の通りになります。
大口株主以外の上場株式 | 源泉分離課税 | 総合課税 | 申告分離課税 |
確定申告 | 不要 | 必要 | 必要 |
税率 | 20.315%を源泉徴収されて終了 | 所得税:累進税率 住民税:10% 確定申告で源泉徴収税額と清算 | 所得税:15.315% 住民税:5% 確定申告で源泉徴収税額と清算 |
借入金の利子控除 | できない | できる | できる |
配当控除 | できない | できる | できない |
上場株式との損益通算 | できない | できない | できる |
源泉分離課税、総合課税、分離課税の有利・不利判定
以上のことから、株式の配当金の3つの課税方式を比較すると、有利・不利の判定基準は、冒頭で述べた通り次のようになります。
課税方式 | メリットある人 |
源泉分離課税(申告不要方式) | 所得の高い人で株の譲渡損失のない人 |
総合課税(要確定申告) | 所得が一定水準以下の人 |
申告分離課税(要確定申告) | 株の譲渡損失のある人 |
1.源泉分離課税(申告不要)の判定
源泉分離課税は20.315%の税率で、それ以上でもそれ以下でもありません。
したがって、所得が900万円以下の人では配当控除をできずに不利になり、所得が900万円以上の人も累進課税になると20.315%以上の税金が課せられるので不利になります。
また、株式の譲渡損失がないのであれば、損益通算の必要性もありません。
そのため、所得が高く、株式の譲渡損失のない人は、源泉分離課税(申告不要)を選択した方が有利となります。
2.総合課税の判定
総合課税は、他の所得と合算された合計金額で、所得税の税率が決まります。
そのため、合計の所得が高いと、配当金に対する税率も高くなってしまいます。
その一方で、「配当控除」という還付制度を利用できるメリットがあり、これを利用すると、源泉徴収された20.315%より低い税率になるケースがあります。
その境が、900万円以下で20.2%の約トントン、695万円以下で17.2%の3.115%の得になります。
したがって、一定以下の所得の人は、総合課税を選択すると得となります(ただし、国民健康保険料や配偶者控除に注意)。
3.申告分離課税(要確定申告)の判定
申告分離課税は、20.315%より税率が上がらない点と、損益通算と繰越控除を受けられることがメリットです。
したがって、高所得で税率が高い人は、申告分離を選んだ方が良く、なおかつ、その年に株式の譲渡損があれば損益通算で税率を下げられる可能性があるので、こちらを選んだ方がメリットを享受できるといえます。
まとめ
上場株式の配当金の課税方式は、ややこしいですが、節税をするには理解を深めておかなくてはいけません。
むずかしいことは抜きにして、自分はどうなんだ?と知りたい方は、上の有利・不利判定の表を参考にしてみてください。
上場株式の配当金は節税に役立ちます。
賢く活用しましょう。
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