1年に1回の棚卸が社長の経営判断を歪める。正しい在庫回転数の求め方

在庫管理

在庫は利益にも資金繰りにも影響を及ぼす、重要なファクターです。

にもかかわらず、棚卸は1年に1回の決算前のみ。

これでは適正な数値は把握できないでしょう。

それどころか、数値は歪められ、誤った管理情報をもたらすことになります。

売れない在庫には「金利」が発生する

余分な在庫を持ちたくないのは、社長なら常に考えていらっしゃると思います。

ただ、その理由を「在庫を持つとお金が寝る」とお考えなら、答えはまだ足りていません。

お金が寝ると同時に発生する「金利」という存在も忘れてはいけないのです。

お金が在庫に換わって寝てしまえば、その分だけキャッシュが不足します。

それを補うには借入が必要で、そこには支払金利が発生します。

余分な在庫を抱えてしまったがために生まれた、まさに無駄な金利です(無借金なら大丈夫という問題でもなく、お金が寝たことで他へ投下して収益を得る機会を失っていることに変わりありません)。

さらに、在庫は保管料というコストももたらします。

実に厄介な存在です。

売れない在庫の負の連鎖

実際、損益計算書では「在庫金利」なる勘定科目は出てきませんが、計算してみると利益を奪うことに気づきます。

たとえば、仕入1,000万円の商品が1年間売れなかった場合、運転資金を2%で金融機関から借りていたとすると、その金利の損失は20万円です。

・1,000万円×2%=20万円

厄介なのは在庫が売れない限り、この金利を支払い続けることです。

仕方なく100万円分値引きして売れば、その損失は120万円(20万円+100万円)にまで膨れます。

売れない在庫は、利益を生まないだけでなく、損失をどんどん増やしてしまうことがよくわかります。

赤字は税金で回収

ただし赤字覚悟で値引きして販売することで、節税効果も生まれます。

上記の例では100万円の赤字が出ていますが、法人税率30%とすると、その節税効果は30万円となります。

仕入値を割って販売するえば、たしかに赤字になりますが、その分の一部を税金で還付してもらえると思えば、不良在庫の損失も軽減できます。

在庫管理だけでなく売掛金も考える

ちなみに、在庫がキャッシュに替わるまでには、もう一つ次の段階を踏まなくてはいけません。

それが売掛金です。

現金商売や前払のビジネスは別ですが、キャッシュを仕入商品に換え、そこから商品がキャッシュに換金されるには、売掛期間を計算に入れなくてはいけません。

売掛金とは、いわば相手に貸付けているお金で、その間、自社がお金を立替ていることになります。

そのお金が借入金なら、そこにも支払金利が発生します。

したがって、在庫削減だけでなく、売掛金額も同時に見直さなければ、在庫管理を改善したとはいえないのです。

木を見て森を見ずにならないよう、全体から在庫管理を考えなくてはいけません。

買掛金は除く

金利について付け加えておくと、売掛金は取引相手に対する貸付で、これに対し金利が発生します。

その反対にある買掛金は、取引先に対する借入で、いい換えると、その期間は金利を免除してもらっているといえます。

売掛金と買掛金はこのような関係があるため、在庫と売掛金を含めた金利を計算するときは、買掛金分を引いてやらくなていけません。

在庫(材料、仕掛品、製品、商品)+売掛金-買掛金

たとえば調達資金が2%だった場合で、在庫1億円、売掛金1億円、買掛金5,000万円とすると、仕入から換金までの間に発生する金利は300万円となります。

・(1億円+1億円-5,000万円)×2%=300万円

それに対し在庫の保管料は、在庫のみに発生する費用です。

したがって在庫が1億円、保管料率が5%だったとすると、保管料は500万円と求められます。

・1億円×5%=500万円

1年の1回の棚卸が在庫の数字を歪める

さて、ここからが本題です。

資金繰りにも利益にも影響を与える在庫ですが、これを管理する指標に「在庫回転数」があります。

在庫回転数とは、売上をつくるために在庫が何回転したか見る指標で、回転数が多いほど良いとされます。

・在庫回転数=年間売上高÷期末在庫高

仮に1年間の売上高が3億円、期末の在庫高が7,500万円なら、このときの在庫回転数は4回転となります。

・3億円÷7,500万円=4回転

もし、期末の在庫高を6,000万円に削減できれば、在庫回転数は5回転に上昇し、お金を無駄に寝かせることなく、効率的に売上げを作ったとなります。

ところがです。

かえってこのことが、数字を歪める原因ともなるという事実があります。

たとえば、在庫高をカウントする棚卸を1年に1回しか行わない企業は多いですが、期末の在庫高を減らしても意味はありません。

むしろ、期末日に合わせての

  • 在庫の生産調整
  • 在庫の投げ売り

が起こるから問題です。

これらは、改善のサインを隠蔽し、調整による在庫不足から販売機会を失うことにもつながります。

数字の調整で資金繰りは改善できない

これでは一体何が何やら、在庫回転数というKPIが独り歩きしてしまった格好です。

1年に1回の棚卸など、ITが発達していなかったときの発想です。

今やITは一般化し、日々刻々と変化する在庫高を管理するシステムも登場しました。

このような新鮮なデータで在庫管理しなければ、適正な数値を掴むことはできません。

1年に1回の棚卸は、数字を歪める原因となり、社長の経営判断を誤らせる元となります。

そして何より、期末日だけの在庫調整ではお金が寝ることの解決になりません。

適正な在庫管理には、ITで毎日の在庫高を把握し、その1年間の平均によって在庫高を算出し、実態に近い在庫回転数を求めるべきでしょう。

棚卸資産を使った節税法

先に触れましたが、不良在庫がある場合、赤字で売ってしまえば、節税にもなる上、資金繰りを回復させる効果もあります。

それ以外にも、評価損を計上して節税する方法があります。

在庫の評価損とは、何かしらの理由があって普通に販売できない商品を、棚卸資産の評価損として計上する方法です。

評価損として計上するには、次のような条件を満たさなくてはいけません。

  • 災害等により在庫品が著しく損傷した
  • 季節商品の売れ残りや新商品の発売による機能劣化等により在庫品が著しく陳腐化した
  • 破損、型崩れ、棚ざらし、品質劣化等によって通常の方法では販売できない

上記条件からもわかるように、作り過ぎて売れなかった、物価の価格変動で安くなったといった理由での計上は認められません。

売れ残りの在庫がある場合は、節税という方法で代金の一部を回収することを考えてみましょう。

まとめ

在庫は資金繰りに大きな影響を及ぼします。

それだけに、在庫管理はしっかり行わなくてはいけません。

ただそれが、1年に1回の、しかも数値調整のために実態から離れた数字になっては、弊害すらもたらします。

ITによる管理が容易になった現在では、毎日データを採って管理会計に役立てることが望ましいです。

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