不確実リスクに備える人件費の変動費化で儲かる事業にシフトチェンジ

人件費対策

社会保険料の負担が給与の約30%で、その内、法人側の負担は半分の15%にもなります。

それに加えて、日本は少子高齢化と人口減少が進み、国内市場は縮小していきます。

売上を上げるハードルは高くなる一方で、人件費の負担は増しています。

中小企業の経費の大半は人件です。

であるなら、利益を稼げる事業へ人件費をシフトチェンジし、儲からない事業は外注化して人件費を変動費化するなど、思い切った選択と集中が必要でしょう。

売上から利益にシフト

ご存じのように、日本の市場は、少子高齢化と人口減少によって今後縮小していきます。

となれば、既存事業での右肩上がりの売上は期待できず、むしろ、現状維持でも良い方かもしれません。

新規分野に進出するにしても、基礎財務体力をつけ、余力を備えた状態で挑むべきでしょう。

投資が成功するのは10に1つでもあれば良い方で、財務体力がないまま投資をすれば、2つ3つの失敗で資金繰りが尽きてしまうかもしれません。

銀行融資を新規事業の投資に活用するにも、返済を担保する利益と資産の蓄積は必要です。

売上を伸ばす要素が少ない中、未来に向けて投資を実行するには、売上げ主義から利益主義へのシフトチェンジが必要です。

そうです。

売上は減っても目標とする利益は確保する、「減収増益」体制です。

原則、売上は減っても利益を確保さえすれば、仕入や経費の支払いはできます。

支払い後にお金が残れば、それを貯められます。

それには、儲からない商品・サービス、成長率の低い分野での事業を続けていては、到底無理でしょう。

利益の出ない事業はあえて捨てる。

売上げ主義から利益主義へ、経営者の発想を変えなくては、パイが小さくなる市場では生き残りはますます難しくなるでしょう。

人件費をどの事業へ振り分けるか?

そのうえで、社員を儲かる事業や既存の稼ぎ頭となる事業へ重点的に振り分ける、選択と集中戦略が必要になります。

儲からない事業や成長が見込めない事業は、思い切って撤退するか、継続するなら人件費の変動費化を考えるべきでしょう。

財務体力の弱い企業があれもこれもと事業に手を出せば、資金は簡単に尽きてしまいます。

そこで考えなくてはいけないのが「固定費の削減」です。

少ない利益で事業を回していくには、固定費の最小化をしていくことが一つの条件となります。

それには「人件費の変動費化」が必要です。

人件費の変動費化で損益分岐点売上高を下げる

固定費とは利益に関係なく毎月一定額支出されるお金のことで、これが高いほど、固定費をカバーするために必要な売上高は高くなります(これを損益分岐点売上高といいます)。

最近では社会保険料という固定費の負担感が増しています。

給与の約30%の保険料率で、そのうち会社側は15%の負担です。

しかも社会保険は利益に関係なく支出されるお金で、支払いができなければ強制徴収というおまけ付きです。

まさに資金繰りを直撃する固定費です。

社員を増やせば、社会保険の負担も同時に上がります。

同一労働同一賃金で調整弁も塞がる

また2021年4月から、同一労働同一賃金もはじまりました。

社会保険の負担を避けて、パート社員などの非正規雇用に切り替えても、「不合理な待遇差」をつけることは禁止されています。

人件費を調整弁として利益をコントロールしていくこと自体、段々とむずかしくなってきています。

社会保険を含めて、企業の人件費は増していくばかりです。

一方で、固定費が下がれば、損益分岐点売上高は下がり、少ない売上でも固定費分の支出をまかなえます。

変動費は、売上げに比例して増減する費用なので、売上が減れば変動費も減少しますから、売上の増減で困ることはありません。

資金繰りで困るのは、利益に関係なく支出する固定費です。

したがって、売上が減っても資金繰りを回すには、固定費を下げるしかありません。

中小企業の固定費の大半は人件費です。

総人件費は同じでも、人件費の一部を変動費化すれば、固定費の支出が減って資金繰りは楽になります。

人件費は調整がむずかしい費用

ご存じのように、人件費は費用の中でも調整のむずかしいお金です。

もし業績悪化により赤字になった場合でも、従業員の給料や人員は、労働基準法などの制約によって守られています。

人員整理や給与を下げることができても、社員のモチベーションの低下や、優秀な社員の離脱もあり、業績がますます悪化することも考えられます。

業績が好調のときでも、経営悪化時のことを考えると、おいそれと社員を増やしていいとはいえないでしょう。

それに対し人件費を変動費化すれば、売上に合わせたチーム体制を築くことができ、調整のむずかしい人件費を柔軟にコントロールできます。

コロナ過やロシアのウクライナ侵攻、資源インフレなど、日本の経済状況は刻一刻と大きく変動しています。

世界規模でつながるサプライチェーンの中で、不確実性リスクは以前より高まっています。

そんな経済環境に置かれているからこそ、柔軟性のあるチーム体制で、売上の変動に備えておくことは重要です

人件費の変動費化の方法

人件費の変動費化には次の方法があります。

1.正社員の役職や賃金の見直し

正社員の役職を年齢によって見直したり(60歳以上はいったん退職していただき、その後、有期雇用で再雇用など)、各種手当の見直し、賃金の一部を賞与や退職金に振り分けるなどのして、変動費化を図ります。

手当の見直しは、同一賃金同一労働への対応になりますし、賞与や退職金に賃金を切り替えることで社会保険料対策にもなります。

2.外注や業務委託契約への切り替え

繁忙期や閑散期によって、必要な人数は変わってきます。

繁忙期に合わせて社員を増やしてしまうと、繁忙期では人が余ってしまうこともあるでしょう。

そこで繁忙期は外注や業務委託契約で、外部の事業者に受注してしまえば、固定費となる人件費を増やすことなく業務を回せます。

ただし、何の業務を外注や業務委託契約に切り替えるかは、よく考えなくてはいけません。

社外に業務を委託するということは、そこに対するノウハウや技術を蓄積できないことを意味します。

これは長い目でみると、競争力の低下になり、企業の衰退を招きます。

コアとなる事業の業務は自社で行い、生産性の低い業務や自社の弱い業務などは外注化するなど、ここでも選択と集中が必要になります。

※外注化や業務委託契約に切り替える場合は、税務上の問題をクリアしなくてはいけません。形だけの外注化や業務委託契約は否認されてしまいます。詳しくはこちら↓

3.派遣社員やパート社員などの導入

派遣社員や期間従業員、パート、アルバイトといった流動的な雇用契約の社員と契約し、人件費を変動費化します。

とりわけ派遣社員は、一定のスキルを持った優秀な人材を確保しやすく、即戦力を適材適所に配置できるというメリットがあります。

人件費は投資

ただし、人件費を変動費化しただけでは単なる経費削減策になってしまいます。

一時的にはしのげても、結局は元の木阿弥、新事業に進出する、新商品・新サービスの開発、既存の製品・サービスの品質向上など、新たな収益を確保しないと同じことの繰り返しになります。

経費削減でなく、創意工夫による粗利益アップこそが、市場が縮小していく中で企業の生き残る道です。

そのためには、固定費となった人件費をコストと考えてはいけません。

固定費となった人件費は、粗利益を増やしてくれる唯一無二の会社の経営資源です。

経営者の仕事は、経営資源を活かして利益を増やすことです。

お金をかけて人材を育てて、将来の収益の種を撒く。

そして付加価値(粗利益)を高めてくれる人材の層を厚くし、それが継続していくように育成していかねばなりません。

事業から上がる利益が増えれば、それを再投入し、さらに先を見据えた事業を育てていけます。

固定費となる人件費とはすなわち社員のことですが、社員は企業の成長を担う存在です。

その中核となる部分を育ていくお金は、コストでなく投資といってしかるべきでしょう。

だからこその選択と集中です。

どの事業にも万遍なく人もお金も投資し続けられるほど、余裕のある企業は多くないでしょう。

経営資源は限られていますし、弱みもあれば強みもあります。

であるなら、利益の出る事業に絞って集中的に投資を行う方が、リターンも多くなるでしょう。

戦略とは、つまるところ、ヒト、モノ、カネ、情報という経営資源を、どこに振り分けるかの選択です。

少ない資源で大手を含めた競合と渡り合うには、一点突破の集中型戦略の方が適してします。

まとめ

中小企業にとって人件費は固定費の中の最大の支出です。

社会保険料の負担、同一労働同一賃金など、人件費は上がる要素はあっても下がる要素は皆無です。

そんな中、どの事業に人件費を振分けるかは重要です。

それは変動費化によるコスト削減と同時に、将来の収益に関わる話になるからです。

コスト削減だけが目的で人件費の変動費化に走れば、将来の収益も失うことにもなります。

人件費変動費化は社長の経営戦略ともリンクします。

人件費の選択と集中で、自社が勝ち残る戦略を描きましょう。

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