会社の不良資産の処理は、利益が黒字のときにこそ行いましょう。
不良資産とは、焦付いた売掛金、売れない不良在庫、使わない機械・設備などの固定資産をいいます。
黒字の期であれば、損失分だけ法人税を削減できます(ただし、損金に認められるための要件は揃えておかなくてはいけません)。
それに何より、損失を計上しても利益が出ていれば、銀行の評価が下がることはありません。
その結果、融資に支障を来すことはないでしょう。
赤字と黒字では、銀行の評価が180度変わることを忘れてはいけません。
業績に問題がない「黒字」のときこそ、不良資産を処分するチャンスです。
業績で変わる銀行の評価
銀行の評価は、黒字と赤字では180度変わります。
黒字のときは問題とされなかったものが、赤字のときは一転して厳しく見られます。
貸借対照表の左側の資産(借方)は、その最たるものです。
黒字のときは詳しく調べられなかったのに、赤字のときはしっかり調べられて、「実態」に引き戻されて評価されます。
その評価により、返済資力がないとされると、融資を受けられなくなってしまいます。
それつまり、事業の利益から返済できない、ストックした資産から返済できない、とみなされるからです。
2つの返済財源
企業が返済財源に充てられるものには、
- 損益計算書の利益(事業からの返済)
- 貸借対照表の資産(ストックした資産からの返済)
の2つがあります。
損益計算書の利益とは、
・税引き後利益+減価償却費
です。
事業の利益から返済
売上から売上原価、販管費、営業外損益を足し引きし(期によっては特別損益も加わわります)、そこから法人税を支払った後に残る利益、そこに減価償却費を足したものが、その期の収益から支払える返済額です。
減価償却費とは、固定資産の購入金額を利用可能期間(法廷耐用年数)で按分した費用のことで、別名「お金の支出がないのに発生する費用」といわれています(ここでは割愛しますが、実際はお金の支出はあります)。
資産からの返済
銀行への年間返済金額が上記額を超えると、貸借対照表の資産(借方)から返済することになります。
その資産は、キャッシュだけではありません。
キャッシュの一部が、売掛金や棚卸資産(在庫)、不動産、機械・設備などの固定資産に換わっています。
銀行への返済は、これらの資産をキャッシュに換金して行われるわけですが、それは必ずしも貸借対照表に計上された金額(簿価)と一致するわけではありません。
売掛金なら回収不能な不良債権、棚卸資産なら売れることのない不良在庫、不動産・機械・設備なら実勢価格が帳簿価格を下回っているものもあります。
つまり、資産を精査してみると、実態は換金できない資産が含まれていて、実質の貸借対照表では返済能力が極めて低いとうこともあるのです。
赤字のときに銀行の評価が厳しくなる理由
業績が黒字のうちは、利益から返済できる目途がつくため、銀行の査定も厳しくなりません。
それが赤字になると、損益計算書から出てくる返済原資がなくなり、その次は貸借対照表から返済原資をねん出することになります。
返済の最後の砦が貸借対照表にある資産です。
銀行にしてみれば、本当に帳簿通りの資産があるかは、返済を決める重要な情報です。
そのため、黒字のときには問われなかった資産内容が、業績が赤字になるとしっかり精査されることになるというわけです。
調査の結果、実際は資産がないとなれば、返済の見込みがなくなるのですから、融資の審査も厳しくなります。
業績は赤字、換金して返済に充てる資産も乏しい。
これでは審査が通らないのもやむなしです。
黒字のときに不良資産を処分する2つのメリット
回収不能の売掛金、売れない在庫、利用しなくなった機械・設備などは、処分しなければ貸借対照表の資産を大きく見せることはできます。
しかし、結局のところ、お金が必要なときには、実質価値に引き戻されて「資産価値なし」と銀行から判断されるわけですから、平時でもなくても良い資産といえます。
であるなら、業績が黒字のときにこそ、処分して身軽になっておきべきでしょう。
1.お金の出ていかない節税になる
黒字のときに処分すれば、法人税を節税できます。
- 売掛金の不良債権→貸倒損失
- 売れない不良在庫→棚卸資産の評価損
- 使わない機械・設備→固定資産の除去損
節税にはお金の出ていく節税と、お金の出ていかない節税がありますが、上記はお金の出ていかない節税で、積極的にやるべき節税です。
売掛金や棚卸資産の処分は手痛い出費ですが、損失の一部が法人税で返ってくると思えば、そこが一番の落としどころです。
返ってこないものに固執していても、いつまでもお金は戻ってきません。
ただし、貸倒損失棚卸資産の評価損、固定資産の除去損も、税務署から認められるには要件を揃えておかなくてはいけませんので、顧問税理士の先生に相談して進めましょう。
2.銀行からの評価を落とさない
先述した通り、業績が赤字になれば銀行からの評価も厳しくなり、融資を受けられない可能性が高くなります。
だから利益に余裕のあるうちに損失分を処理ておくことに意味があります。
損失をカバーできる利益があれば、黒字を保つことができるからです。
業績が傾てくれば、利益も少なくなり、資産を処分で損失を計上すれば赤字になるケースも考えられます。
こうなると処分したくても処分できず、不良資産が塩漬けになります。
しかし、不良資産はあったところで役に立たず、むしろ余計なキャッシュを流出させます。
・例)不良在庫→管理費、保管料、人件費など
銀行の評価も、業績悪化時には資産価値を査定され、実質の価値に引き戻されるわけですから、これこそただの張りぼてです。
やはり不良資産は、黒字のうちに処分しておくが正しい選択です。
融資は赤字になる前に申込む
ちなみに、赤字になると銀行から融資がむずかしくなることを思えば、赤字が出た後の決算書を持って申し込んでも手遅れです。
であるなら、赤字が確定する前に融資を申し込んでおく方が、借りられる可能性は高いといえます。
つまり、期の途中で赤字になると予測したら、早めに決断をして融資を申し込んでおく。
これこそが、資金調達の最上の方法といえます。
決断が遅れれば遅れるほど、時間の経過と共に財務状況も悪化するため、融資の可能性は下がっていきます。
経営者が試算表から数か月先の業績を予測することは、資金調達を考えるうえでも重要なことです。
まとめ
不良資産は事業を続けていけばどうしても出てくるものです。
せっかくお金出したものですから、損失を認めたくないお気持ちも察しますが、あって得することはありません。
業績が黒字のときこそ処分のチャンスです。
コメント