銀行融資対策を考えるときは、まず借入の中身を分析する

融資対策

借入の情報を整理すれば、自社の採るべき銀行融資対策が見えてきます。

財務基盤の弱い中小企業が、資金繰りを安定させつつ投資をして事業を育てるという経営戦略を実現するには、銀行からの融資は不可欠です。

そんな企業にとって、「どの銀行とどうお付き合いをしていくか?」「いつ、いくら借りればよいか?」は重要な財務戦略といっていいでしょう。

そのために分析すべきが自社の借入情報です。

銀行とは切っても切れない関係だから主導権を取る

銀行と中小企業は切っても切れない関係です。

無借金経営は理想ですが、目指すべきかといわれれば、甚だ疑問なのが正直な感想です。

銀行から借入しても、いつでも余裕で返せる「実質無借金経営」は目指すべきですが、関係を断ち切ってきまうのは、いささか無謀といえるでしょう。

借入をする必要がなくても、あえて借入をして、銀行とのパイプを築いておくのが、中小企業の財務戦略としてはベターです。

それにより、資金繰りの安定と事業への投資という2大経営課題を、バランスを取りながら行うことができます。

ただし、「とりあえず借りておく」では、銀行にいいように扱われてしまいますし、信頼関係の築けない銀行と取引をしても、業績悪化時に支援を期待できませんから、その銀行と取引を深めても無駄となってしまいます。

そのため銀行との取引は、自社が主導権を取って築いていかなくてはいけません。

たとえば1億円の借入があるなら、どの銀行と付き合い、どの銀行に借入を振り分けるか?各行からいついくら借りるか?

これを戦略に従って実行するから、自社の資金調達を安定的に行えるようになります。

そこで重要になるのが借入情報です。

借入情報を分析してみることで、現状で自社が採るべき銀行融資対策が見えてきます。

銀行融資対策を考える

銀行融資対策で考えるべきことは、主に次のものがあります。

  • どの銀行(政府系も含めて)とより深く付き合うか?
  • 借入総額の各行への振分はいくらにするか?
  • 各行ごとで、いつ、いくら借りればよいか?
  • 短期か長期?何年で返済するか?
  • プロパーか信用保証協会付きか?
  • 信用保証協会の枠はいくらあるか?
  • 担保の有無?担保価値はどれくらい?

これらのことを考えて、自社の銀行融資対策、いわば資金調達戦略を組立てるわけですが、それにはまず自社の借入の情報を整理することからはじめなくてはいけません。

今現在、どの銀行と取引し、各行から、いつ、いくら借りているか?などの情報がなければ、それを基に戦略を組立てられないからです。

銀行や信用金庫の担当者からの提案のタイミングで借りるのは、彼らの都合で借りているのと同じで、そこに自社の意思が入っているわけではないでしょう。

銀行のいうがままの取引を続ければ、彼らにとって有利な借入が増え、反対に自社の主導権は失われていきます。

銀行は民間企業で、自行の儲けのためにやっていることを忘れてはいけません。

銀行に主導権を渡さず、借入をコントロールしていくには、現状の借入の中身を知っておくことが重要です。

それを知らなければ、戦略的な意図を持って資金調達を進められないでしょう。

分析する自社の借入の内容

借入から分析する内容は次の通りです。

1.どの銀行と付き合っているか?

どの銀行と付き合うかは大切です。

それは、業績悪化時に資金繰りを支えてくれる存在になるからです。

いわゆるメインバンクと呼ばれるものですが、これは単に「融資残高が多いから」で決めていいものではありません。

メインバンクを決める基準の一つに、「どれだけリスクを負っているか」があります。

たとえば、融資残高が次の通りだったとします。

  • A銀行:5,000万円
  • B銀行:3,000万円
  • C銀行:1,000万円

この融資残高を見れば、A銀行がメインバンクのように思います。

しかし、A銀行は全額信用保証協会付融資、B銀行は全額プロパー融資なら話は変わってきます。

リスクを取って融資をしているのはB銀行で、A銀行は信用保証協会付きばかりで実は消極的なことがわかります。

どちらがメインバンクにふさわしいか、融資残高だけで測っていては見誤るでしょう。

A銀行をメインバンクだと思っていたら、いざというとき支えてくれないかもしれません。

繰り返しになりますが、安定的な資金調達を目指すには、どの銀行とより深く付き合うか?は重要な戦略です。

いわばパートナー選びですが、そのためには融資残高とプロパー融資の割合を見比べてみて、どの銀行がリスクを取って融資をしてくれているかを見極めなくてはいけません。

メインバンクの定義には「預金残高」も

ちなみに、銀行が考えるメインバンクの定義には、「預金残高が多い」があります。

理由はいろいろありますが、一つには「保全」として見ていることが挙げられます。

仮に5,000万円の貸出しで、その企業から3,000万円の預金があった場合、実質2,000万円の貸出しと考えることができますし、万が一の場合でもその預金分を回収に充ててもらえるかもしれません。

貸す側の銀行にとってみれば、預金が自行にたくさんあるほど回収が安心になります。

そのため、預金残高の多さをメインバンクの定義にしているのです。

したがって、関係性を深めたい銀行があるなら、その銀行に預金(借入の割合に応じて。定期預金以外)を積んでおくようにしておきます。

大事な情報は勘定科目内訳明細書にあり

預貯金の行き先は、融資に大きく関係することですから、銀行も注視しています。

その情報をどこから見るかというと、決算書ではなく、勘定科目内訳明細書の「預貯金等の内訳書」です。

融資先の企業が、自行以外にどう預金を振り分けているか、社長の意図はどうあれ、実はしっかり観られているということです。

2.各行ごとに、いつ、いくら、何年で借りているか?

各行ごとに、いつ、いくら借りて、何年返済かを整理します。

この情報を整理することで、今後どこに融資を振り分けるか、銀行融資対策の叩き台となる情報となります。

もちろん、社長自身が既存の借入の全体像を把握する上でも、借入情報を整理しておくことは大切です。

3.プロパー融資か信用保証協会付き融資か?

プロパー融資か信用保証協会付き融資かは、先述した通り、メインバンクを見定める材料となります。

それ以外にも、「信用保証協会の枠がいくら残っているか」を把握しておくために知っておかなくてはいけません。

それは有事の際の対策だからです。

信用保証協会の保証枠を、業績悪化時に備えて残しておきます。

中小企業の信用保証協会の保証限度額は、担保付融資が2億円(組合は4億円)、無担保融資が8,000万円の合計2億8,000万円となっています。

※ただし、この数字は保証額の限度額であり、どの会社も一律に受けられるわけではありません。限度額は各企業によって異なります。

土地や建物といった担保を提供できるなら別ですが、担保を提供できない企業にとって無担保で8,000万円保証してくれる枠は貴重です。

この限度額を業績悪化時に使えるよう、普段はなるべく使わないようにしておくのがベストです。

そこで平時は、可能であればプロパー融資を借り、信用保証協会の限度枠を残すようにします。

リスクを取りたがらない銀行のために、貴重な保証枠を使ってしまってはいけません。

リスク管理のために、プロパー融資か信用保証協会付き融資かは大事な情報です。

4.個人保証の有無

銀行融資と社長個人の連帯保証はセットのようなものですが、「経営者保証に関するガイドライン」もあり、ケースによっては連帯保証を外せることもあります。

連帯保証が外せるタイミグとは、すなわち「業績が好調なとき」ですが、そのためには、どの借入に個人保証をしているか把握しておかねえばなりません。

ちなみに、連帯保証人制度は思う以上に厳しい制度で、その重い責任は、事業承継時や社長が死亡したときに、残されたご家族に降りかかります。

ご家族のためにも、会社存続のためにも、できるときに連帯保証人を外しておくのがベターです。

5.不動産担保の有無、担保の価値

担保の有無、担保の価値を調べます。

不動産を担保にしている場合は、その不動産を担保にして借りている融資残債を調べておきます。

これにより、借入余力がわかります。

担保の有無は、その不動産の登記簿謄本で確認します。

根抵当がある場合は、極度額の何割かを減らしたものが融資金額の上限となります。

大きな金額の根抵当がついている場合は、他の銀行では担保として評価されないケースもあります。

6.毎月の返済額

毎月の返済額がいくらかを把握しておくことは大切です。

資金繰りで詰まらないためには、まずここを押さえておくこが第一歩です。

また、借入額に対して「毎月の返済が重すぎないか?」を見る指標ともなります。

とくに借入の本数が多くなっているのなら要注意です。

同じ金額の借入でも、借入を見直すことで毎月の負担がグッと楽になることもあります。

それを考えるときに、ここで整理した情報が役立ちます。

借入の内容も銀行に見られている

借入金の金額と内訳も、勘定科目内訳明細書の「借入金及び支払利息の内訳書」から銀行に視られてしまいます。

その企業が、どの銀行から借りているか?その割合はどれくらいか?がわかってしまうわけですから、銀行も気にしないわけにはいきません。

「借入金及び支払利息の内訳書」は、銀行が必ずチェックする資料といっていいでしょう。

逆にいえば、「借入金及び支払利息の内訳書」にどのように記載されるかによって、銀行側から有利な融資の提案を引き出すきっかけになるということです。

そのためには、ここまで解説してきた借入の分析を行い、社長が意図を持って銀行と付き合っていくことが必要となります。

まとめ

自社の借入を分析して、それを銀行融資対策に活用する方法について解説してきました。

中小企業の資金調達では、銀行との関係が切っても切れないものになります。

しっかり準備しておけば、いざというとき転ぶ確率を下げることができます。

何も意図しなければ、銀行のいうがまま、業績悪化時も支援を期待できません。

銀行融資対策の準備は、自社の借入の分析からです。

情報を整理して、銀行融資対策に役立てましょう。

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