社長が貸借対照表を読めないと、適切な投資判断はできません。
なぜなら、会社の投資用資金は貸借対照表に眠っているからです。
いくら余剰資金があって、その内いくらなら投資に回せるか?
これがわからずして、適切な投資判断なんてできないでしょう。
投資不足も過剰投資も、やがて会社の業績を傾けます。
投資判断は社長にしかできない仕事です。
その判断を適切に行うのに必要なのが貸借対照表です。
投資をしなければ企業に未来はない
ここでいう投資とは、株式や国債などの有価証券への投資ではありません。
新たな収益源となる事業への投資、既存の事業への投資、新規顧客開拓への投資、品質向上への投資、人への投資など、事業を育てるための投資です。
既存の事業も投資をしなければ、競合との競争に負け、いずれ衰退していきます。
また、新たな事業を育てなければ、少子高齢化、人口減少で国内市場が縮小していく日本では、売上は先細りです。
あるいは、リーマンショック、コロナのような経済危機もどこで起こるかわかりません。
厳しい経済環境でも、投資をして事業を育てることは、経営戦略として必須です。
その投資を行う原資は、貸借対照表の中に眠っています。
投資資金は貸借対照表のどこに眠っている?
貸借対照表のどこに投資資金が眠っているかというと、純資産の部の中にある「利益剰余金」です。
利益剰余金とは、過去の事業活動の利益の蓄積です。
たとえば創業10年で利益剰余金が1億円貯まっているなら、平均して毎年1,000万円の利益を積立てていた計算になります。
利益剰余金は多いほど自己資本が多く、毎年の利益をしっかり残している会社です。
つまり、それだけ投資できる資金力があり、なおかつ投資で支出しても、財務基盤が簡単に揺らがないことを意味します。
ただし、利益剰余金は「金」とつくのでお金のイメージをされるかもしれませんが、必ずしも現金で残っているわけではありません。
売掛金や在庫、不動産などの固定資産に換わっていたりしますので、そのままの金額を投資として使えるわけではないので気をつけましょう。
キャッシュがどれくらいあるかは、貸借対照表の勘定科目、「現預金」で確認します。
3つの投資指標
たくさん利益剰余金が貯まっているとしても、投資を自己資金のみに頼るのは危険です。
設備投資の場合は投資額が多額になり、それを全部自己資金で購入しようとすると、財務基盤がいっぺんに傾いてしまいます。
何より投資ですから、必ず利益が出るわけでもありません。
利益が出ず自己資金が減少すれば、資金繰りは圧迫されます。
そうかといって銀行からの借入に頼るのも、これはこれで問題です。
借金が多くなれば支払利息も増えますし、設備資金は長期借入になりますから、元本部分を利益から支払うことになり、毎月の返済がぐんと重くなります。
投資で予定していた利益が出なければ、あっという間に債務超過に陥ります。
だからこそ、自己資金と借入のバランスを見つつ、投資を行うことが重要になります。
そのバランスを見る際、貸借対照表を読むことは欠かせません。
借入金依存度
銀行からの借入金がいくらあるかは貸借対照表に計上されていますし、それを貸借対照表の総資産(負債と純資産の合計)で割れば、借入金の依存度を見る指標となります。
・借入金依存度=銀行借入金÷総資産(負債+純資産)
借入月商倍率
それ以外にも、「借入月商倍率」という指標もあります。
これは借入金(短期借入金+長期借入金)を平均月商で割った数値で、事業規模に対して借入が多いか適正かを判断する基準となります。
一般的な基準としては下記のものがあります。※業種によって異なります。
- 2ヵ月以内安全→安全圏
- 3か月以内→黄色信号
- 3か月以上→危険ゾーン
総資産回転数
また、投資効率を見る指標としては、「総資産回転率」もあります。
計算式は下記の通りで、その売上高を作るのに、総資産を何回転させたかを見ます。
・総資産回転数=売上高÷総資産
回転数が多いほど、効率よく売上げをつくっていることになります。
このような指標を使って、採算性と資金繰りをシミュレーションしていけば、大きな失敗は回避できるでしょう。
いずれにしても、その数値をだしてくるには貸借対照表の情報が必要です。
法人税というコスト
ちなみに、貸借対照表の利益剰余金を増やすには、損益計算書の税引き後利益を増やすしかありません。
税引き後利益を多く残すと聞くと、節税を思い浮かべるかもしれませんが、節税をすると逆に利益は減ります。
その結果、利益剰余金に貯まる利益は少なくなり、財務基盤はいつまで経っても弱いまま、将来への投資の話どころでなくなります。
詳しくは下記記事をお読みください↓
約35%の法人税というコストを支払い、コツコツ貯めるのが利益剰余金なのです。
投資判断は経営者にしかできない
中小企業の社長は、経営者と株主がイコールです。
出資したお金はほぼ社長の個人マネーであり、会社のお金といえど、社長のお金といっても過言ではありません。
そのお金を何かに投資するとは、他でもない社長にしかできない決断です。
貸借対照表を読むとは、その決断を助けるために必要なスキルです。
まとめ
会社を存続させていくには、投資していくことは必須です。
その投資を進めていくには、貸借対照表を読めなくてはいけません。
投資用の資金は貸借対照表の中に眠っていて、それを資金繰りの安定を保ちつつ事業に投入していくには、借入とのバランスを見ていかなくてはいけないためです。
貸借対照表を読めるスキルは、経営者にとって必要です。
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