会計の本を読むと、「経営者は貸借対照表(B/S)を読めなくてはいけない」とよく書いてあります。
では、なぜ経営者は貸借対照表を読めなくてはいけないのでしょうか?
その大きな理由の一つが、「3ヵ月、6か月先の資金繰りを読めるから」です。
会社の存続がキャッシュのあるなしで決まることを思えば、数か月先の現預金残高の数値をこそ、経営者が知っておかなくてはいけない数字です。
だからこそ、経営者は貸借対照表を読めなくてはいけないのです。
貸借対照表の関係図
貸借対照表には、資産と負債が計上されています。
向かって左側(借方)が会社の資産、反対の右側(貸方)が負債です。
※厳密にいうと、右側の貸方は調達した資金を指します。調達した資金には「他人資本」と「自己資本」があり、上が他から集めたお金の他人資本(負債)、下が自分で用意したお金の自己資本(純資産)となります。
資産の代表的なものでいえば、現預金、売掛金、棚卸資産(在庫)、不動産などです。
一方の負債は、買掛金、銀行からの借入金が計上されます。
貸借対象表と資金繰りの関係とは?
では、なぜ貸借対照表が資金繰りと関係してくるのでしょう?
それは、現預金、売掛金、棚卸資産、買掛金、借入金(主に銀行からの)という資金繰りと直接関係してくる勘定科目が貸借対照表に計上されるからです。
この科目の数値を抑えておかないと資金繰りは読めません。
損益計算書で資金繰りは読めない
ちなみに、損益計算書で資金繰りを考えるのは間違いです。
損益計算書でわかるのは、売上から仕入れや経費を引いた残りの利益です。
一見すると利益とキャッシュはイコールに思えますが、利益の金額とキャッシュの残高は一致しません。
その理由は、利益がキャッシュに替わるまでに「時間差」があるからです。
詳しくは下記記事をお読みください。
したがって、損益計算書で資金繰りを考えると、資金ショートを誘発してしまうから危険です。
では、それぞれの勘定科目と資金繰りの関係を説明していきます。
現預金
現預金は手持ちキャッシュの残高です。
キャッシュが尽きれば会社の活動は止まります。
必ず確認しなくてはいけない科目です。
現預金の残高は、最低でも月商の2か月分は用意しておきたいところです。
余裕を持たせるなら、月商の3か月分以上です。
1か月分を切ると資金繰りに赤信号です。
御社の経常利益を調べてみてください。
仮に5%なら、売上の95%は支払いで消えてしまいます。
にもかかわらず現預金が月商の1か月分を切るということは、支払いの資金が足りないということ、どれだけ危険な状態かわかります。
ちなみに、現預金は自己資金だけでなく、借入のお金も含まれます。
であるなら、借入でも手元を資金を増やし、月商の2か月分以上キープしておけば、それだけ資金繰りは楽になるということです。
借入を敵視していると、逆に資金繰りに詰まることになります。
売掛金
売掛金は、掛けで売ってまだ未回収の債権です。
売掛金は、債権という資産であり、回収すればお金に換わります。
だからお金に近い感覚を持ちますが、忘れてはいけないのは、売掛金は未回収であることです。
未回収であるがゆえに、回収までは自社でその分のお金を立替なくてはいけません。
つまり、売掛金分は手元からお金が消えるということです。
売掛金が増えれば増えるほど、それに比例して手元資金が消えていきます。
売掛金の基準を作り、それ以上に増えてないかチェックすることが大切です。
棚卸資産(在庫)
棚卸資産とは在庫のことです。
在庫も販売すればお金に換わりますが、売れるまではお金が在庫に換わった状態、いわゆる「お金が寝た状態」となりす。
したがって、売掛金と同様に、棚卸資産の分だけ手元資金が消えます。
在庫も資産ではありますが、ご存じのように、増え過ぎた在庫は資金繰り悪化の原因となります。
ちなみに、売掛販売なら、代金を回収してはじめてお金に換わります。
ということは、仕入れから販売するまでの期間、販売から代金回収までの期間、この2つを足した日数分だけ、手元からお金が消えるということです。
この日数を縮めないと、資金繰りが苦しくなるのが理解できるでしょう。
買掛金
買掛金は、仕入れを掛けで待ってもらっている状態です。
平たくいうと、仕入れ先に対する借金(負債)です。
借金と聞くと聴こえは悪いですが、この借金は資金繰りを良くしてくれます。
支払いを待ってもらうということは、その分だけ手元の資金が残ります。
仮に仕入れの支払いを販売代金回収の後にできれば、回収した代金で買掛金を支払うことができ、資金繰りの心配をしなくて済むことになります。
資金繰りが苦しくなる理由は、販売代金回収の前に支払いがくるからです。
前述した通り、売掛金や在庫が増えるとその分手元資金は消えていきます。
手元資金が減った中で支払いをしなくてはいけないので、資金繰りは余計に苦しくなるのです。
だから買掛金の支払期間は延ばす資金繰りは楽になります。
もちろん自分のメリットは相手のデメリットですから、簡単に条件を飲んでくれないでしょうが、買掛金の支払いはなるべく延ばすが基本戦略です。
借入金
借入金は主に銀行からの融資です。
借入金の返済ですから、当然資金繰りに影響してきます。
ただし、短期継続融資(手形貸付、当座貸越)と長期借入では返済原資が異なってきますので気をつけましょう。
短期継続融資は売上から返済されるもので、事実上借りっぱなし状態になります。
それに対し長期借入の返済原資は、「税引き後利益+減価償却費」の中から行われます。
短期継続融資の場合、元本部分は借りっぱなしであるため、資金繰りに与える影響は支払利息程度です。
一方の長期借入は、税引き後利益から元本を毎月返済していきますので、着実に現預金を減らしていきます。
だから長期借入で銀行から融資を受けているときは、返済で現預金がどれくらい減るかをしっかり確認しておかないといけません。
期首に予測を立て、3か月後、6か月後に現預金が月商の2か月分を切るようなら、その段階で銀行から借りておきます。
大事なのは借金を増やさないことではなく、現預金を安全水準まで積み増しておくことです。
売掛金、棚卸資産、買掛金から運転資金を求める
以上のように、貸借対照表には資金繰りに直接関係する勘定科目が詰まっています。
それすなわち、貸借対照表を読めなければ資金繰りも読めないということです。
とくに、売掛金、棚卸資産、買掛金の関係は覚えておきましょう。
なぜなら、この3つを足し引きしたものが、事業を回していくために必要な運転資金になるからです。
運転資金の計算式は下記の通りです。
・売掛金+棚卸資産-買掛金
※厳密にいうと、「売掛金+受取手形+棚卸資産-買掛金+支払手形」になります。
なぜ売掛金と棚卸資産を足したものから、買掛金を引くのか?と疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。
先述した通り、売掛金と在庫は資産でありながら、その分だけ手元の資金は消えます。
一方の買掛金は、負債でありながら、その分は手元にお金が残ります。
手元から消えたお金と手元に残るお金、この差額が、仕入れ→支払い→販売→代金回収というサイクルの中で不足するお金であり、すなわち事業を回していくうえで必要なお金、運転資金となります。
売掛金、棚卸資産、買掛金の金額を貸借対照表から把握するということは、運転資金がいくら必要かを把握するということです。
運転資金が足りなくなれば、会社の事業はストップします。
貸借対照表は読み方自体はわからなくても、現預金、売掛金、棚卸資産、買掛金、借入金はしっかり把握しておくべきです。
まとめ
繰り返しになりますが、お金が尽きれば会社は最悪潰れます。
そうならないためには、お金がいくらあって、これからどれくらい不足するかを知っておかなくてはいけません。
その情報を読み解くのに、貸借対照表が必要になります(さらにいえば、資金繰り表で管理しなくてはいけません)。
貸借対照表を読むとは、3か月先、6か月先の資金繰りを読むことなのです。
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