ご存じのように、法人保険による節税は、2019年の税制改正により、その効果をほぼ封じ込められました。
その他の節税方法も通用する範囲はどんどん狭まっており、ほとんどは繰延べ効果しかないとはいえ、節税スキームでお金を残すことは年々むずかしくなっています。
銀行融資、財務基盤の安定など、経営的見地から考えると、節税に走るのはナンセンスですが、節税効果を得られつつ、リスク対策として「支払っておいた方がいい経費」もあります。
それがリスクに対する費用です。
「万が一」が起こったときにお金を用意できなければ、会社は潰れてしまいます。
節税スキームの通用する範囲は狭まっている
法人保険を含めた節税法は、年々、通用する範囲が狭まってきています。
2022年の税制改正でも、足場レンタル、ドローンレンタル、LEDレンタルの節税スキームが封じ込められました。
ただ、節税方法が少なくなることは、悲しむべきことではありません。
節税に目を向けるのではなく、「正しいお金の使い方」に取り組むチャンスだからです。
同じ節税でも、万が一に備えたリスク対策に経費にお金を使う方が、余ほど賢い選択となります。
余談ですが、節税スキームには「元本割れリスク」の他に、「否認リスク」もあります。
否認リスクとは、税制改正や新たな判例により、既存の節税スキーム自体が否認されてしまうことです。
節税スキームには、一般の投資にはない否認リスクがあり、それを考慮すると、果たしてその利回りで、リターンに見合う投資商品かは甚だ疑問です。
おススメ節税法3選
企業が事業活動を行えば、それに伴ってさまざまなリスクが発生します。
そして、こういったリスクは起こってからではすでに遅く、何も備えていないと、これまで自社で貯めた内部留保から資金が流出していきます。
何百万なら耐えれても、何千万、何億となると、内部留保だけでは会社存亡の危機になります。
はっきりいえば、節税でお金を浪費しているどころの話ではありません。
そこで、節税スキームに代わる新たな経費の使い方として提唱したいのが、支払利息、与信管理、労災補償です。
1.支払利息
支払利息とは、銀行融資で借りたお金に支払う利息です。
「支払利息がなぜリスク対策なのか?」と疑問になる社長もいらっしゃると思いますが、銀行に利息を支払ってお金を借りることで、確実にお金を調達できます。
これにより、社長は資金繰りの悩みから解放されて、本業に専念できます。
手元に1,000万円しかないのと、借入でも1億円あるのとでは、安心感が違います。
会社が倒産する原因は、手元の資金が尽きてしまうこと、借金が増えたから潰れるわけではありません。
むしろ借金を嫌がって、自己資本のみで事業を回すことの方が、資金繰りが詰まるリスクを高めます。
この資金繰りの安心を買うための保険料が、銀行への支払利息なのです。
借入が1億円としても、利息が1%なら100万円です。
これで資金繰りの不安から解放されるなら、高い買い物ではないでしょう。
さらに、手持ち資金が1,000万円と1億円では、事業の成長スピードも変わります。
手元資金が厚い方が、圧倒的に有利です。
銀行への支払利息は、資金繰りへのリスク対策となります(もちろん、誰でも借りられるわけではありません)。
2.与信管理
与信管理とは売掛金の焦げ付きへの対策です。
商売では販売することも大事ですが、それと同じくらい売掛金を回収することも重要です。
もし売掛金が回収できなければ、それに掛かった仕入れや経費の損失を、自社で被らなくてはいけなくなります。
それで資金が足りなくなれば、連鎖倒産もあり得ます。
ですから、万が一売掛金の焦げ付きが起こった場合に、その損失をカバーする対策は重要です。
与信管理は、焦げ付き防止と焦付き後の対策がありますが、ここでご紹介するのは、売掛金が焦付いてしまった後の対策用です。
経営セーフティ共済
経営セーフティ共済は、取引先が倒産した場合、掛け金の10倍を上限として、無利息・無審査で共済金を借り入れることができる共済制度です。
掛金は全額損金にでき、節税商品としてよく紹介されますが、本来の使い方は、取引先倒産時の売掛金焦付きによる連鎖倒産を防ぐための商品です。
銀行は雨の日に傘は貸さないという話があるように、取引先倒産という緊急事態に必ず貸してくれる保証はありません。
であるなら、経営セーフティ共済に加入し、緊急時に資金調達できる体制を整えておくことは大事です。
経営セーフティ共済の会計処理は2通りある
ちなみに、経営セーフティ共済には、2通りの会計処理があります。
一つは、掛金を保険料として販管費に計上する方法です。
もう一つは経営セーフティ共済の掛金を損益計算書の販管費には計上せず、貸借対照表の「保険金積立金」に計上する方法です。
貸借対照表に計上したら「全額損金に計上できない」と思われるかもしれませんが、法人税申告書で減算調整することができ、結果として掛金全額を損金にすることができます。
何のことかよくわからないと思いますが、どちらの会計処理を採るにしても、掛金は全額損金になることは変わらないということです(詳しくは顧問税理士の先生に聞いてみましょう)。
ただし、2つの方法の違いは損益計算書の税引き前利益が変わることです。
前者の会計処理は販管費に計上されるため、利益は少なくなります。
したがって、銀行融資対策で利益を多く見せたい場合は、後者の会計処理の方が有利となります。
取引信用保険
取引信用保険とは、損害保険会社が取り扱う商品で、取引先が万が一倒産したとしても、売掛金の一部を保険金として受け取ることができます。
経営セーフティ共済は、あくまで連鎖倒産を防ぐためにお金を借りられる制度です。
未回収となる売掛金分の損失は、自社で被らなくてはいけません。
それに対し取引信用保険は、焦付いた売掛債権を保険金で補てんできるため、焦付きの損失を最小にできます。
さらに売掛金の保全ができているということで、銀行からの信用力もアップします。
ただし、保険料が割高なこと、取引先を選んで保険を掛けることができないといったデメリットがあります。
個別債権保証
保証会社が貸倒れ等による損害をカバーしてくれるサービスです。
取引信用保険ではできない1社単位から契約が可能です。
3.労災補償
労災は主に通勤中や業務中に発生したケガや病気について補償される制度ですが、場合によっては損害賠償に発展するケースもあります。
その際、賠償金の額が億単位になるケースがあり、これを内部留保のみで対応しようとすると、会社の財務基盤は一気に揺らぎます。
政府労災以外の賠償も使用者が負うことになる
労災事故が発生した場合、事業主は労働基準法により補償責任を負うことになります。
それ以外にも、使用者に安全配慮義務違反や不法行為等があった場合、使用者は被災労働者や遺族に対して損害賠償責任を負うことになります。
労災保険には、国が運営する政府労災から給付もありますが、治療費や休業補償などの必要最低限の補償しかなく、安全配慮義務違反や不法行為で生じた慰謝料には対応していません。
そのため、労災について不法行為・債務不履行(安全配慮義務違反)などの事由により、被災労働者から事業主に対し民法上の損害賠償請求が認められると、その部分の支払いは使用者が負うことになります。
この損害賠償額が億単位になることもあり、自前の資金だけでは資金繰りに多大なダメージ与えてしまいます。
そのリスク対策に、労災上乗せ保険を活用します。
労災上乗せ保険は、政府労災では補償できない部分をカバーする保険で、慰謝料や死亡・後遺障害などを保証してくれる保険です。
どんなに気をつけていても事故を完全に防ぐことはできません。
また、ケガだけでなく、パワハラ、セクハラ、長時間労働を起因とするメンタルヘルスも労災と認定されます。
労災事故は複雑多岐に亘っています。
まさかに備えて保険でリスクカバーしておくのが賢い選択です。
節税で3割は国が負担してくれる
ちなみに、保険料や支払利息で節税すると、その分だけお得になる理屈を説明しておきます。
たとえば融資の支払利息が年間で100万円ある場合、これは全額経費になります。
したがって、法人税率を30%とすると、節税できる金額は30万円です。
・100万円×30%=30万円
逆にいえば、実質の支払利息の負担は70万円で済むということです。
経営セーフティ共済や取引信用保険、労災上乗せ保険も同じ理屈となります。
大きなリスクに備えて、支払利息や保険料を節約できる、これこそが理に適った節税のあり方ではないでしょうか?
まとめ
企業が抱えるリスクは、想像以上に大きいです。
それを自前の資金だけでカバーするのには、あまりにも危険です。
損失の桁が変われば、一発で倒産すらあり得ます。
節税で30%の法人税を少なくするよりも、リスク対策として経費を支払い、それが結果として節税になる方が賢明です。
「万が一」が起こってからでは、すでに遅いです。
無駄な節税ではなく、リスク対策に経費をかけて節税しましょう。
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