節税より前に自己資本を貯めなくてはいけない理由

融資対策 財務改善

節税という言葉は甘美ですが、これに酔うほど会社の財務体質は弱くなります。

その理由は、自己資本が貯まらないからです。

無駄な節税で余分なキャッシュが流出し、毎年の蓄積ができず、単年の赤字でも簡単に債務超過に陥いる体質になってしまうためです。

債務超過になると、銀行からの融資はほぼ絶望的になります。

節税の前に、簡単に債務超過にならない財務基盤を構築しておくことの方が重要です。

債務超過になると銀行からお金を借りられなくなる

債務超過は会社経営を行う上で避けなくてはいけない財務状態です。

それは、銀行からの資金調達が極めて困難になるためです。

債務超過とは、企業が持つ負債(買掛金、借入など)の総額が、資産(売掛金や在庫、不動産などの固定資産)を上回った状態をいいます。

つまり、資産を売却して借入を返済もなお、借金しか残らない状態が債務超過です。

正常な会社は債務超過とは逆の状態(資産超過)となり、資産を全部売却して借金を返済しても、純資産(自己資本)の分だけお金が残ります。

いい換えれば、資産超過の状態の会社なら、銀行は融資の回収の目途が立つといえ、貸しても大丈夫という計算ができます。

その一方、債務超過は資産を売却しても借金を返しきれない状態ですから、銀行から見れば回収の見込みが立たない企業、すなわち「貸すべき相手ではない」と判断されます。

債務超過、即倒産というわけではありません。

しかしながら、資金調達の大部分を銀行融資が占めている中小企業にとって、銀行からお金が借りられなくなると、債務超過から資産超過への正常化もむずかしくなります。

売上を作るには、お金の先出しが基本で、その資金がなければ事業は先細りしていきます。

債務超過から抜け出すのは、簡単ではありません。

だから、銀行からの資金調達が断たれる債務超過は、何としても避けなくてはいけない事態なのです。

債務超過にならないための自己資本金額とは?

では、債務超過に陥らないには、どれくらい自己資本を蓄積しておけばよいのでしょう?

財務の本では「自己資本は30%以上」あれば安全圏といわれていますが、このとき「率」で考えるのは危険です。

ちなみに自己資本比率とは、総資産に対する純資産の割合で、これが高いほど、自前の資金が多く、借金体質ではないことを表します。

仮に総資産1,000万円で純資産が300万円の場合、率で見れば30%で安全性の高い会社と思えます。

しかしこの会社に年商6,000万円という情報が加われば、見方はガラリと変わります

売上の5%以上の赤字が出ると、すぐさま債務超過に陥いる財務基盤の弱い会社となります。

「率」で考えるのは危険といったのはこういう意味で、自己資本比率何%以上というのは、必ずしも正解ではありません。

ですから自己資本を考える際は、単純に「率」で観るのではなく「額」で考える必要があり、なおかつ、売上の数値を加えて、簡単に債務超過に陥らない目標値を定めなくてはいけないのです。

先の例でいうなら、たとえば自社の過去のデータから、売上げの10%の赤字は起こり得るとの想定したのなら、そのリスク回避のためには、自己資本は最低でも600万円以上貯めておかなくてはいけないことになります。

・6,000万円×10%=600万円

そしてこの自己資本を貯めるには、毎期の損益計算書(以下、P/L)から生み出される利益剰余金を増やすのが基本で、それには無駄な節税は足かせとなります。

節税するほど自己資本は貯まらなくなる

利益剰余金とは、その期に稼いだ利益の合計額のことをいいます。

B/Sの自己資本を貯めていくには、出資以外は利益剰余金からしかできません。

したがって、自己資本を多く貯めたければ、利益剰余金を増やすしかないのです。

そして、利益剰余金はその期に稼いだ利益のことですから、売上高から、売上原価、販管費、支払利息、法人税を引いた後の利益となります。

たとえば、売上高1,000万円、売上原価600万円、販管費200万円、支払利息10万円、法人税率30%だとした場合、その期の利益剰余金は133万円となります。

しかし、節税をして経費を100万円増やせばどうなるでしょう?

たしかに税金は57万円⇒27万円に減らせますが、利益剰余金も同時に63万円ま減少してしまいます。

これでは、自己資本を貯めるのに時間が掛かってしまいます。

その間、業績不振で赤字にでもなれば、あっという間に債務超過に陥る危険性もあります。

節税ができて喜べるのは、会社が存続しているからです。

その肝心の法人が潰れてしまっては、本末転倒、何のための節税かという話です。

だから法人税の節税より、自己資本を安全域まで厚くするべく、利益剰余金を太くすることを優先しなくてはいけません。

そのためには、利益を無駄に減らす余計な節税は足かせになります。

節税に一生懸命になるのは、安全域まで自己資本を貯めた後です。

まとめ

財務基盤の弱い中小企業にとって、銀行とお付合いしていくことは不可欠です。

ただし、会社が債務超過となってしまうと、銀行とのお付き合いは遮断されてしまいます。

債務超過になることは、悪い意味でそれぐらい重みのあることです。

その債務超過を防ぐには、余計な経費を使わず、利益剰余金を毎期コツコツ計画的に積立てていくしかありません。

節税で無駄に利益を減らしている場合ではないのです。

しっかり貯めて、将来の万が一に備えましょう。

節税はその後です。

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