青色事業専従者給与を経費に認めてもらうには、事業に従事する期間が6ヶ月を超えなくてはいけません。
その場合、事業とプライベートをしっかり線引し、なおかつそれを証明する「書類を残す」ことが否認対策となります。
もし、事業とプライベートがごっちゃ、書類がない、書類があってもいい加減だと、青色事業専従者として従事した期間が「6ヶ月を超えない」と判定されかねません。
青色事業専従者は「6ヶ月を超える」期間が要件
青色事業専従者に認められるには、事業に従事する期間が「6ヶ月を超える」ことが条件の一つになっています。
居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。
所得税法施工例165条
今回ご紹介するのは、青色事業専従者が1年間で事業に従事した「日数」は6ヶ月以下でしたが、自ら付けた「出勤簿」によると、年間の事業に従事した「時間」は1455時間で180日以上になると更正処分の取り消しを求めた事例です。
・青色事業専従者である妻が、夫の事業に「6ヶ月を超える期間、専ら従事」していないと否認された事例
結論からいえば、納税者の主張は認められませんでした。
それは、時間換算にすると事業に従事した期間が6ヶ月を超えるかどうかが問題ではなく、そもそもの作業時間が
「社会通念上、夫婦の相互扶助の範囲の行為」
だったという理由からです。
要するに、勤務実態がないにもかかわらず、日常生活の一部を労務時間と称して、無理やり青色事業専従者にしようとして否認されたパターンです。
「6ヶ月を超える期間、専ら従事」していないと否認された事例
この事例は、弁護士業を営む夫から、青色専従者給与を受け取っていた妻(以下、請求人)が、その給与を「青色専従者に当たらない」として処分庁から否認されたものです。
個人事業に従事した家族に支払う給与は、必要経費にできないのが原則です。
家族への給与を無制限に経費に認めてしまうと、恣意的に利益を操作し、税金を少なくすることが可能になるからです。
(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
所得税法第56条
第五十六条 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
ただし例外として、青色事業申告者の場合、家族であっても青色専従者として下記の条件を満たす場合は、必要経費にすることができます。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
- その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること。
上記要件を見てもわかるように、青色事業専従者給与の要件には、「6ヶ月を超える期間、専ら従事すること」という要件があり、今回の事例ではこの要件が争点になりました。
請求人は、「日数」で計算すれば6ヶ月に満たないが、労務時間をトータルで計算すると、6ヶ月を超えるという主張です。
しかし原処分庁からは、
「請求人の労務内容、所要時間、頻度からすれば、社会通念上、請求人の労務の提供は“夫婦間の相互扶助の範囲の行動”、あるいは“日常生活の一環”として行われたもの」
と否認されてしまったのです。
第五十七条 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
所得税法第57条
青色事業専従者である請求人の主張
原処分庁の主張に対し、請求人は次のような労務を行っていて、トータルで計算すると、夫の弁護士業務に「6ヶ月を超える期間、専ら従事した」と主張しました。
- 毎年の総勘定新元帳の作成
- 試算表の作成等
- 確定申告書作成準備顧問税理士に提出する所得内訳書等の書類の取り揃え、依頼状の作成、発送
- 税務署への申告書等の提出
- 銀行に出向く業務
- 現金の出納業務
- 伝票、元帳等の整理
- 住所録の管理(900名の住所録の管理)
- 挨拶状等の返信
- 年賀状のデザイン
- 年賀状の宛名書き・発送(営業活動として出す900通の年賀状の宛名書き及び発送業務)
- 年賀状による住所の確認
- 贈答品の送付等
- 研究室における業務(別宅での夫の法律業務を補助するため、本件研究室の清掃、来訪者の接遇、書類のコピー作成、夫Cに対するお茶出し等の業務)
- 自動車の運転(夫Cが所属事務所へ出勤したり、顧問先へ直行する場合等、自動車を運転して同人を送る業務)
- スケジュール管理等の秘書的業務
ざっと見るとかなりの仕事量で、正当な主張のように思えます。
しかし、国税不服審判所の判断では、ことごとく否認されてしまいました。
青色事業専従者給与を否認された理由
請求人に対する事細かな反論は元ページをお読みなっていただければわかりますが、否認のポイントを大まかにいうと次のとおりです。
- 作業量自体少ない
- 労務内容も日常生活の一環で行うものの範囲を超えてない
- 夫が行っている業務が含まれている
- 請求人は夫の事務所に出勤してない(自宅での作業)
- 労務時間の根拠となる「出勤簿」は、請求人の「自宅」に備え付けられている
- 出勤簿にある出勤日と実際の出勤日の整合性が取れてない
これのら状況から勘案するに、妻は自宅で夫の作業の一部を手伝っていただけで、それを無理筋に青色事業専従者給与の要件に当てはめようとし、いろいろ理屈をつけてみたのですが、実態を暴かれ否認されてしまったという次第です。
とくに出勤簿をいい加減に運用したのは致命的で、実際の出勤日との整合性が取れない以上、請求人の主張の裏付けとなる証拠力も著しく乏しくなります。
出勤簿をつけるなら、少なくとも夫の事務所でということは必要だったでしょう。
自宅で出勤の有無を確認していたというなら、それは世間一般でいう出勤簿には当たりません。
以上このような理由を持って、請求人の「作業時間で換算すると事業に従事した期間は6ヶ月を超えている」という主張は認められませんでした。
証拠には書類が絶対
この事例のように、無理筋のものを青色事業専従者の基準に合わせようとしても、証拠が揃ってない以上どうあがいても無理ですが、教訓として得られるものは「書類」です。
事例でいうと「出勤簿」です。
出勤簿をしっかり管理していれば、青色事業専従者として事業に従事していたことの証明になるのです(※この事例のように実態のないものは無理です)。
それが杜撰であれば、主張自体に信憑性がなくなります。
そして疑われないためには、事務所に出社するというのも必要だったでしょう。
家庭の事情で出社できないことがあるかもしれませんが、そうした場合でも、事業とプライベートのはっきりした区分けを書類に残して運営すべきです。
書類がない、あっても書類が杜撰では、否認を招くばかりです。
否認の理由をしておくこと対策になる
ちなみに、今回の事例で否認の理由で参考になるものをピックアップしてみました。
否認の理由を知っておくと対策になります。
銀行に出向く業務について
弁護士の夫は、弁護士業務以外に個人所有の建物を法人に貸し付けていました。
その不動産賃貸業の通帳の記帳業務も、夫に代わって請求人が行っていたと主張していました。
それに対し国税不服審判所は、
「所有する建物1棟(4室)を貸し付けているだけであり、事業的規模で行われているとは認められない」
とし、
「請求人が夫の事業に従事しているとはいえない」
と判断しました。
不動産賃貸を事業規模として認められるには、5頭10室という基準がありますから、それに満たない貸付は事業に従事しているとはいえない、というのは参考になるのではないでしょうか。
現金の出納業務について
請求人は、弁護士事務所の現金の出納業務も管理していました。
それに対し国税不服審判所は
「現金の出納業務は、事業用と家事用が明確に区分されていない現金箱の現金の出し入れをいうものであり、それを業務というのは、請求人らが所持する財布から現金を出し入れする行為を業務というに等しいものである」
としています。
事業の通帳と個人の財布を同じで管理しているなら、別々にしておかないと、否認の材料になりかねません。
現金の管理も業務と個人は分けておくのが無難です。
自動車の運転について
請求人は夫を事務所まで送るなど、週3回程度(約2.5時間)送迎業務を行っていたと主張していました。
しかし夫は国税不服審判所に対して、
- 請求人が自動車を運転できない場合はタクシー又は地下鉄を利用して所属事務所に出勤している
- 請求人は、必要な日常の家事、友人との交際、趣味で行う各種教室への参加、病院への通院など、他に用事がある場合は、自動車の運転業務を行っていない
と当述していました。
これらの理由により、請求人の主張は否認されたわけですが、注目すべきは、たとえ週3回程度妻が夫を職場に送っていたとしても、それは「夫婦相互扶助の範囲の行為で、日常生活の一環として行われたもの」と判断されたことです。
要は、この程度の労務で事業に従事したとはいえないということですが(内容や頻度、妻が自宅で業務に従事していたことも理由に挙げられています)、たしかに週にいく日かの夫の職場への送り迎えは一般家庭でもあることですし、ましてやそれが毎日や定期でない場合や妻の都合でできたりできなかったりとなれば、やはりそれは業務とはいえないでしょう。
もし、車での送迎を業務に入れているのなら、業務とプライベートはきっちり分けて管理しないと否認の材料となります。
まとめ
家族である青色事業専従者の場合、自宅が職場ということもあるでしょう。
そいう場合は、プライベートと事業をしっかり分けて管理しないと、否認の元となります。
とくに証拠の裏付けとなる書類の管理は重要です。
この事例のようにいい加減な運用をすると、証拠能力はなくなります。
- プライベートと事業をはっきり線引する
- 書類で管理する
- 書類の管理は杜撰にしない
青色事業専従者の事業に従事した期間が「6ヶ月を超える」ことを証明する場合は、これらは最低限行いましょう。
青色事業専従者を活用した節税方法の詳しい解説は下記リンク先記事をご覧ください↓
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