青色事業専従者の給与は
- 労務に従事した期間
- 労務の性質
- 労務の提供の程度
- その事業に従事する他の使用人の給料との比較
- 同業同規模の青色事業専従者の給与との比較
- 事業の収益の状況
によって、適正額かどうかの判定をされます。
その結果、青色事業専従者の給与が高すぎれば、「相当と思われる金額を超える部分」は必要経費に計上できなくなります。
この記事で紹介するのは、同じ事業所内で働く従業員との給与の比較で、青色事業専従者の給与が「高すぎる」と否認された事例です。
青色事業専従者の要件
青色事業専従者の給与は、下記の要件を満たすことで必要経費とすることができます。
- 青色事業専従者に払われた給与であること。
- 青色申告者と生計を共にしている配偶者、またはその他の親族であること。
- 12月31日現在で年齢が15歳未満でないこと。
- その年を通じて6ヶ月以上、その青色申告者の営む会社で働いていること。
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること。
- 前記届出書に記載した指定の方法により給与が支払われおり、支払われた金額の総額も前記届出書に記載した範囲内であること。
- 給与の額が一般の常識を考慮し、妥当であると認められる金額であること。
1~6まではわかりやすい基準ですが、7の「妥当であると認められる金額」がいったいいくらなのか?は、何を基準に設定すれば良いのかわかりにくいです。
※4のその年を通じて「6ヵ月以上」という基準も、「専ら事業に従事した期間」とはどういう基準なのか?あるいは副業していた場合はどうなのか?を知っておかないと後で問題になる場合があります。
青色事業専従者給与の「適正額」の判定基準とは?
青色事業専従者の給与の適正額については、所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》には、
- 労務に従事した期間
- 労務の性質
- 労務の提供の程度
- その事業に従事する他の使用人の給料との比較
- 同業同規模の青色事業専従者の給与との比較
- 事業の収益の状況
といったことを総合的に勘案して判定するとされています。
(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)
青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
所得税法第57条第1項
青色事業専従者の妻の給与が「労務の対価として相当でない」と経費に認められなかった事例
では具体的な事例でどのように判定されるかをみていきます。
問題となったのは、税理士業を営む税理士(以下、請求人)が、妻(以下、G)に支払った青色事業専従者給与です。
このGへの青色事業専従者給与が
- その事業に従事する他の使用人の給料
- 同業同規模の青色事業専従者の給与
との比較で、「著しく高額」として、「妻の労務の対価として相当と認められない」と否認された事例です。
Gへの給与は、3年間の平均で約1,267万円でした。
原処分庁が適正とする金額は、3年間の平均で607万円でしたので、実に2倍の開きがあります。
それに対し請求人は、
「妻Gの労務の性質及びその提供の程度に照らし、その全額がその労務の対価として相当である」
と主張し、争うことになったのです。
高い給与を支払う根拠が認められなかった
Gは税理士資格のない補助員で、Gが担当する件数は、同じ事務所内で働く職員とおおむね同程度かやや上回るくらいでした。
Gの労務の内容も、従業員と大きく異なる程ではありませんでした。
この点に対し請求人は
- 税理士補助業務に従事した経験年数が27年ある
- Gの担当は、専門的な知識を要するため各従業員では対応できない医療法人・学校法人
- 事業所得の申告のための会計帳簿の作成及び決算手続に関する事務、給与などのお金の管理や、職員の労務管理はGが行っている
と特殊性があることを主張していました
ですが、国税不服審判所は
「Gの労務の内容は、税理士の下で税務会計事務に従事する者にとって特異なものとは認められない」
と特殊性を認められませんでした。
類似の税理士事務所より2倍の給与
ただし、同事務所内で働く職員の中で、一番勤務時間が長かった人(以下、H)より、Gは1.21倍ほど業務時間が長かった事実がありました。
そのため、この勤務時間が考慮されてなかった原処分庁が提出した適正値は、基準として採用されませんでした。
そこで国税不服審判所は、GがHより1.21倍長く事業に従事していた事実に着目し、Hの年間給与を1.21倍して数値を算出しました(1.21倍後の3年間の平均は約535万円)。
さらに、同じ税務署管内で、同業・同規模で、同じ業務内容、かつ税理士資格のない青色事業専従者の給与と、Gの青色事業専従者給与を比較しました。
その結果、Gの給与は類似青色事業専従者の給与より、2倍以上高いことがわかりました(類似の青色事業専従者の給与の3年間の平均は約371万円)
つまり、同じ事務所内で働く業務内容の変わらない職員と比べても、類似の同業の青色事業専従者と比較しても、共に2倍以上の開きがあり、明らかにGの給与は高額だったことがわかりました。
そして最終的な判断は、同事務所内で働くHの給与を1.21倍した額が採用され、それを超える部分の金額、各年度700万円以上が、
「妻Gの労働の対価として相当と認められない」
と裁決されたのです。
青色事業専従者では高額給与に限度がある
事例の税理士の先生がどのような意図で、妻Gに同事務所内で働く職員より、2倍以上の青色事業専従者給与を支払っていたのかはわかりません。
もしかしたら主張のとおり、妻Gの職務内容は特殊で、他の職員より2倍以上支払うことは「適正」と本気で思っていらっしゃったかもしれません。
しかし、現実的にいって、2倍以上の給与を支払うことは、客観的にみても業務内容に相当な差がないと認められないでしょう。
Gは税理士資格を持っていなかったので、あるいは資格取得者なら、解釈はガラリとかわったかもしれませんが(2倍以上給与が認められたかどうかはわかりません)、やはり一般的な職員として高すぎの感は否めません。
青色事業専従者の比較対象は、あくまで一般社員です。
同族会社の役員とは違いますので、一般従業員と比べて(あるいは同業と比べて)給与を根拠なく高く設定してしまうと、否認される確率は高くなると思われます。
まとめ
親族に高額の給与を支払いたいなら、法人を設立して役員になってもらうなどの方法を考えなくてはいけません。
個人事業主で青色事業専従者だと、高く設定したくても支払い給与の額にも限界があります。
「専ら事業に従事した期間」の問題も出てきますので、短時間で高額報酬だと、なおさら無理です。
事例でみてわかるとおり、比較対象が一般従業員のため、どうしても高くできないのです。
逆にいえば、従業員がいるなら、それに青色事業専従者の給与を合わせないと、そこからかい離するほど否認される怖れがあるということです。
青色事業専従者給与の「適正額」についての解説でした。
参考になれば幸いです。
青色事業専従者を活用した節税方法の詳しい解説は下記リンク先記事をご覧ください↓
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