青色事業専従者への給与を経費と認めてもらうためには、「専ら事業に従事した期間」が「その年を通じて6か月以上」という縛りがあります。
しかし、青色事業専従者が副業やパートで収入を得ていた場合は、その期間は「専ら従事していた期間」に入れることはできません。
ただし例外があり、
- その職業に従事する期間が短い者
- その他当該納税者の事業に専ら従事することが妨げられないと認められる事情が存する者
の場合は、青色申告事業者の事業に「専ら従事した期間」に含めて問題ないとされています。
この記事では、青色事業専従者が副業やパートをした場合の「専ら従事した期間」について、事例を交えながら解説します。
原則、個人事業主が支払う家族への給与は経費にならない
個人事業主が家族に支払う給与は、基本的に経費になりません。
家族は家計の財布を同じにしている場合もあり、現実的に「個人事業主の所得=家族の所得」ということもあります。
社長の奥様が、接客や経理を担当したりしている場合です。
このような状況で労働の対価を経費に認めてしまうと、恣意的に家族に給与を支払って、一家の所得を分散できてしまいます。
それに加え、適正な対価(家族の労働への対価)の認定もむずかしい面もあります。
そうなると節税が簡単にできてしまいます。
このような事情から、個人事業主が家族へ支払う給与は、原則、経費に認めないとされています。
(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
第五十六条 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
所得税法第56条
しかし、個人事業主でも家族を「事業専従者」にすれば、
- 白色申告者の場合→控除を受けることができる
- 青色申告者の場合→給与を経費にできる
とすることができます。
青色事業専従者への給与が経費に認められる理由
青色申告事業者の場合、税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することで給与に認めてもらえます。※青色事業専従者の要件を満たさなくてはいけません。
なぜ青色事業専従者への給与が経費に認めらるのかといえば
- 帳簿の正確な記録を通じて、事業と個人の家計が区分されていること
- 同族会社(法人)でも家族に支払われる給与が、妥当な金額であれば経費に認められているのに、個人事業は妥当な金額であっても認められないという不合理さ
- 他の就職すれば給与を得られるのに、家業に従事するための給与が経費に認められないのは不合理であること
という理由があります。
(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)
第五十七条 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
所得税法第57条
青色事業専従者の「専ら事業に従事した期間」は6か月以上が必要
ただし、税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出すれば、青色事業専従者に支払った給与が無条件に経費に認められるわけではありません。
青色事業専従者として認められるには、
- 青色事業に専ら事業に従事した期間が、その年を通じて6か月以上
という要件をクリアしなくてはいけません。
その「専ら事業に従事した期間」に、パートや副業などの「他に職業」に就いていた場合、基本その期間は「専ら事業に従事した期間」には「含めない」とされています。
これは単純な理由で、青色事業専従者が他の職業に就いている場合、青色申告事業者の事業に「専ら従事することはできない」ためです。
(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)
第百六十五条 法第五十七条第一項又は第三項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。ただし、同条第一項の場合にあつては、次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその二分の一に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする。
一 当該事業が年の中途における開業、廃業、休業又はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかつたこと。
二 当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかつたこと。
2 前項の場合において、同項に規定する親族につき次の各号の一に該当する者である期間があるときは、当該期間は、同項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする。
一 学校教育法第一条(学校の範囲)、第百二十四条(専修学校)又は第百三十四条第一項(各種学校)の学校の学生又は生徒である者(夜間において授業を受ける者で昼間を主とする当該事業に従事するもの、昼間において授業を受ける者で夜間を主とする当該事業に従事するもの、同法第百二十四条又は同項の学校の生徒で常時修学しないものその他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)
二 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)三 老衰その他心身の障害により事業に従事する能力が著しく阻害されている者
所得税施行令第165条
専ら従事した期間が6ヶ月を否認された事例は下記記事をご覧ください↓
パートや副業は青色事業専従者の「専ら事業に従事した期間」にどう影響するか?
しかし、ここでも例外があり、所得税施行令第165条第2項第2号の「()のただし書き」にあるように
- その職業に従事する時間が短い者
- その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者
に該当する場合は、「専ら事業に従事した」ことにしても良いとされています。
つまり、
- パートやアルバイトでも1日の就業時間が短い人
- 土日限定のアルバイトで、青色事業申告者の事業の妨げにならない人(たとえば、青色事業は月~金までなど)
の場合は、「青色事業に専ら従事することの妨げにならない」という理由で、副業やパートをしていても、青色事業に「専ら従事している」と認めてくれるのです。
副業が原因で青色事業専従者を否認された事例
では具体的な事例をみていきます。
これは、医院(G医院)を営む医師(以下、請求人)が青色事業専従者の妻(以下、F)に支払った給与が、「Fは青色事業専従者に該当しないから、必要経費にならない」と原処分庁から否認された事例です。
・他の医療機関の診療に従事している青色事業専従者の妻に支払った給与が「青色専従者に該当しない」として否認された事例
Fは医師で、G医院で神経科と精神科を担当していました。
G医院の診療日は、内科が月曜日~金曜日まで、神経科と精神科は月曜日のみです。
FのG病院での勤務時間は、月曜日のみ、午前9時~午後6時までです。
FはG医院以外にも、病院、協同組合、医療法人、社会福祉法人の診療に従事していて、火曜日~土曜日は、これらの医療機関で診療に従事していました。。
上記状況で、Fに支払った青色事業専従者給与を、原処分庁から「Fは青色事業専従者ではないので、経費にならない」と否認されました。
その理由は、
- 毎週、火曜日~土曜日は他の医療機関に従事している
- その労働の対価として、その他の医療機関から相応の給与を受け取っている
以上のことから、
「Fは青色事業専従者として、「専ら事業に従事した期間が6ヵ月以上」とは認められない」
と過少申告で処分しました。
これに対し請求人は、所得税施行令第165条第2項第2号かっこ書の「当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く」という規定を挙げ
「他に職業を有していたとしても専従者として貢献し、その職分を果たす限りは、その期間も当該事業に専ら従事する期間に含むべきである」
と反論しました。
この争点のポイント
この争点のポイントは、青色事業専従者の妻のその他の医療機関で働いた期間が、所得税施行令の例外となる、
- その職業に従事する時間が短い者
- その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者
にあたるかどうかになります。
請求人の言い分としては。FのG医院での勤務は週1回の月曜しかないけれど、
- G医院での神経科および精神科の患者数は内科に比して極めてわずか
- その従事日は週1日という期間で十分にその職分が果たされるという特殊性がある
という理屈から、たとえ勤務時間が少なくても、
「その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者」
に該当するので、「専ら事業に従事した」ことになるという主張です。
専ら事業に従事しているとはいえない
これについての国税不服審判所の判断は次のとおりでした。
- 請求人の事業であるG医院の診療日は毎週月曜日から土曜日までであるのに対し、Fは月曜日しか従事していない
- それに対し、その他の医療機関では、毎週火曜日から土曜日まで勤務している
- G医院及びその他医療機関のいずれにおいても、従事内容は医師としての診療業務等であった
- 毎週火曜日から土曜日までについて、G医院の診療時間とFのその他の医療機関における勤務時間がほぼ重複すること
- Fがその他の医療機関の勤務を休んでまで、G医院の事業に従事することはなかった
以上の事実から、
- Fはその他の医療機関で勤務している期間は、G医院の事業に従事することはできなかったと認めるのが相当
- したがって、Fがその他の医療機関で勤務することは、FがG医院の事業に専ら従事することが妨げられないということはできない
とし、
「法人税施行令第165条第2項第2号かっこ書の「当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者」に該当しない」
としました。
その結果、
- FがG医院の業務に従事していた期間には、その他の医療機関に従事していた期間は含まれない
- FがG医院の事業に従事していたのは、週1日のみである
- Fが請求人の事業に「専ら従事していた期間」は、その年を通じては6ヵ月を超えない
- したがって、青色事業専従者には当たらない
と判断し、原処分庁の処分を適法としたのです。
もう一つの論点、「その他相当の理由」に該当するか?
ちなみに請求人は、神経科・精神科の診療という特殊性から、所得税施行令165条第1項第2号に規定する
「その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかったこと」
にある「その他相当の理由」に該当するとも反論していました。
所得税施行令第165条第1項第2号とは、青色事業専従者の「専ら事業に従事した期間」の例外規定です。
この規定の要件に該当する場合、「専ら事業に従事した期間」が「6ヵ月以下」であっても、
「当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその2分の1に相当する期間を超える期間を当該事業に専ら従事すれば足りる」
とされています。
たとえば、会社勤務をしていた8月に退職し、父の経営する個人事業(青色申告)に専従者として従事した場合、その年の青色事業は6ヵ月に満たないです。
ですが、退職したときから年末までを「従事可能期間」とし、その2分の1を超える期間専ら事業に従事していれば青色事業専従者と認めるというものです。
請求人は、この規定に該当するとして反論したのですが、それに対し国税不服審判所は
「『その他相当の理由』とは、死亡、長期にわたる病気及び婚姻に準じる事情を指すものであり、具体的には縁組及び離婚等による身分関係の異動、身体の重大な障害等の心身の状況並びに就職、退職、入学及び退学等の社会的境遇の変化等がこれに該当する」
とし、
「Fの特殊性はこのどれにも該当しない」
と請求人の主張を認めませんでした。
(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)
次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその二分の一に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする。
一 当該事業が年の中途における開業、廃業、休業又はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかつたこと。
二 当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかつたこと。
所得税施行令第165条
まとめ
青色事業専従者がパートや副業をしたときの、「専ら事業に従事した期間」の要件について解説してきました。
少しややこしいですが、青色事業専従者の業務以外に行うパートや副業が
- その職業に従事する時間が短い
- その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる
というケースだと問題ないということです。
その判定基準は、事例であったように、事実関係で判断されます。
事例は極端な例ですが、やり過ぎは否認の元です。
基準をしっかり守って、青色事業専従者の特典を有効活用しましょう。
青色事業専従者を活用した節税方法の詳しい解説は下記リンク先記事をご覧ください↓
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