青色事業専従者の父(内科医師)への給与が経費に認められた理由

税務調査対策 青色事業専従者給与

親族に支払う給与の金額が高いと、税務署側からは「利益操作をしているのではないか」と疑われます。

しかし、一見高額そうな給与でも、それが実態に見合った金額であれば必要経費に認められます。

この記事で紹介するのは、内科医の父(青色事業専従者)に支払った給与が高額かどうかで争われた事例です。

内科医師の父へ支払った青色事業専従者給与が経費に認められた事例

内科医師の父へ支払った青色事業専従者給与が経費に認められた事例

争点になったのは、父(以下、G)の勤務実態が「常勤」か「非常勤」かの判定でした。

勤務実態が「常勤」であれば適正額、「非常勤」であれば高額給与の認定です。

結論からいえば、常勤勤務と認められました。

なおかつ、近隣地域、同業種・同規模、内科医の親族に給与を支払っている個人医院を調べたところ、「不相当に高額とはいえない」と、Gに支払った青色事業専従者給与の全額を経費に認められました。

内科医師の父への給与は利益操作だったのか

請求人(納税者)は、内科個人医院を営む事業主で、内科医師の父G(請求人の実父で前院長)に年間給与1,680万円支払っていました。

この給与を「必要経費に認められない」として、原処分庁に更正処分を受けました。

ポイントになったのは、Gの勤務実態です。

原処分庁の主張は、

「Gの勤務実態は非常勤で、給与は実態を反映しておらず著しく高額。Gが請求人の実父であるという情実によるものであるか、Gが医師免許を有していることを奇貨として、必要経費に多額の給料を計上し続けたものというべきである」

と、勤務実態が伴っていないこと、あまつさえ請求人の利益操作を疑っていたのでした。

そして、同市内における内科医で非常勤医師の平均給与を抽出し、1時間あたりの適正額を算出、これを超える部分を「高額給与」と主張したのでした。

解釈が真逆

ではGの事実関係を観ていきます。

Gは祝日を除く月曜日から土曜日の午前9時から午後1時まで、毎日診療に従事している。

受診患者数(午前、午後の合計で月平均3,400人程度)のうち、4分の3程度が午前中に来院している。

診療する患者は、看護婦が受付時に患者から状況を聞き取り、請求人とGとに振り分けており、Gが診療した患者数は、午前中の受診患者数の3分の1程度を占める。

請求人は、祝日を除く月曜日から土曜日の午後2時から午後4時まで往診等のため出かけており、その間、Gは、本件医院のすぐ裏の自宅において、急患に備えて待機している。

客観的事実は上記のとおりでしたが、原処分庁の受け取り方は

  • Gは午前中しか診察してない
  • 午後からは自宅に帰っている
  • 午前中はいすに座って待機しており、午後からは自宅に帰っていた(元事務員の申述)
  • 以前は1日診察していたが、最近は午前中だけである。毎日出勤し、いすに座っていた(元看護士の申述)

で、仕事時間は少ないうえ、業務量もわずか、したがって「非常勤医師の勤務実態」と判断しました。

そしてGの勤務時間を、「非常勤医師で1日4時間」と算定したのです。

給与が「適正」と認められた理由

これに対し国税不服審判所は事実関係から

「Gは午後も急患診療のために待機し、請求人の事業のために時間を拘束されていた事実が認められる」

「Gの勤務時間を4時間であるとして算定された認定給料額は合理性を欠く」

としました。

さらに、原処分庁が提出した比較対象となる非常勤医師のデータについても

「診察時間以外の午後や休日の土日も急患に備えて待機しているGと、特定の日時に限定して勤務し、日額、月額として給料の額が決定される非常勤医師とを比較するのは合理的とはいえない」

とし、原処分庁が提出したデータが「適正とはいえない」と判断しました。

そして、

  • 近隣地域
  • 同業・同規模の個人医院
  • 親族が内科医の資格を持ち、その人に給与を支払っている

類似のデータを抽出し、Gとの給与を比較しました。

その結果、

「類似個人医院の収入金額に対する親族の従業員の給料の割合と比べて低く、本件給料が客観性を欠き不相当に高額とは認められない」

「また診療従事の状況からみても、不相当に高額とはいえない」

と判断し、請求人が青色事業専従者のGに支払った年間給与1,680万円を必要経費に認め、原処分庁の更正処分を取り消すように裁決したのです。

ポイントは「勤務実態」

この事例のポイントは、勤務実態がどうなのか、ということにありました。

診察を午前で終え、自宅に帰っていたのは、急患に備えての待機、という事実があったにも関わらず、原処分庁は単に「勤務を終え帰宅していた」という解釈していました。

このような認識の違いで納税者側と争うことになったのですが、結局のところ、「実態が伴っていれば認められる」ということです。

実態が伴っていないのに無理やり高額給与を支払うと、否認される可能性がグンと上がります。

やはり実態に見合った給与を設定する必要があります。

そして勤務実態の根拠となる「証拠書類」は必ず残しておきましょう。

国税への反論には、書類が絶対必要です。

ちなみに請求人は、Gへの給与の根拠として

  • Gが戦後直後から、当初は3件ぐらいしか医院が存在しなかったP市Q町に開業して、地元に根ざした地域医療を進めてきた社会的貢献度
  • 内科医として同様の診療業務に携わっている者とのバランス
  • Gの本件医院における診療に対する貢献度
  • 本件医院の規模、総売上高、粗利益との関係

を挙げています。

社会貢献度云々はわかりにくいですが、その他の基準は参考にしておきたいところです。

まとめ

青色事業専従者給与が経費に認められるには、いくつかの条件をクリアしなくてはいけません。

絶対条件(生計を一にする親族とか)はさることながら、たとえ給与が高額であったとしても、

  • 勤務実態があること
  • 勤務実態に見合った給与であること

をクリアすれば経費に認められる可能性は高くなります。

今回の事例は、その2つの条件をしっかり揃えていたということです。

詰まるところ、背伸びした給与の設定が否認の元となります。

無理な設定はやめて、実態に見合った給与設定が重要です。

青色事業専従者を活用した節税方法の詳しい解説は下記リンク先記事をご覧ください↓

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