青色申告の個人事業主が家族へ給料を支払う場合、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出すれば、全額を経費にすることができます。
白色申告の専従者控除だと、配偶者で86万円、その他親族は1人当たり50万円ですから、「青色事業専従者」の方が優遇されているといえます。
しかし、「青色専従者給与に関する届け出」を出したからといって、無制限に認められるわけではありません。
高すぎる給与は否認されてしまいます。
では、青色専従者に給与を支払う場合、どのような基準で給与額を決めれば良いでしょう?
この記事では、歯科医院を営む個人事業主が、配偶者に支払った青色専従者給与を否認された事例をご紹介します。
・歯科医師の配偶者である青色事業専従者の給与を「高額」と否認された事例
青色事業専従者給与の「適正」給与額を判定する基準とは
青色専従者の給与を経費にするためには、大前提として
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を、その年の3月15日までに税務署に提出していること。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
- その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
という要件をすべて満たさなくていけません。
そのうえで、
- 労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
- その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及び類似同業者に従事する者が支払を受ける給与の状況
- その事業の種類及び規模並びにその収益の状況
によって、青色専従者への給与額が適正かどうか判定されます。
(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)
第五十七条 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
青色専従者の給与の適正額の基準は、役員報酬の基準と似ていますが、とはいえ、これではわかったようでわからない基準です。
では、具体的な事例でみていきます。
青色事業専従者の給与が「著しく高額」と否認された事例
請求人(納税者)は、歯科医院を営む歯科医師です。
否認されたのは、歯科医師の配偶者の青色事業専従者給与(歯科衛生士)です。
この事例は、配偶者の青色事業専従者にいくらの給与を支払っていたのかが伏せられているため、具体的な金額はわかりませんが、青色事業専従者給与として「適正な金額を超える部分がある」と更正処分をされました。
ただ、同じ院内で働く歯科衛生士の給与と比べて、「著しく高額」と指摘されているので、余ほど高かったのでしょう。
その青色事業専従者の業務内容は以下の通りでした。
- 歯科衛生士業務
- レセプト請求に関する業務
- 銀行手続に関する業務
- 窓口受付事務
- 使用人の給与計算事務
- 現金出納帳の作成等の経理事務
ただし、配偶者の事業に従事した時間を管理するためのタイムカードはなく、それ以外の勤務時間を確認できる資料もありませんでした。
このような書類の欠如も、実態に見合わない高額な給与を国税が疑う原因となりました。
また、事業主である請求人自身が、青色事業専従者の配偶者の労務提供の程度を明確に把握していなかったという事実もありました。
類似同業専従者給与批准方式で青色事業専従者の給与を判定
ここで国税不服審判所が判断材料にしたのは、
- 使用人給与批准方式
- 類似同業専従者給与批准方式
です。
使用人給与批准方式とは、同じ院内で働く歯科衛生士と比べて、本件青色事業専従者の給与が高額かどうかを比較する方式です。
しかし、この方式は青色事業専従者と歯科衛生士の業務内容が違い過ぎていて、「明らかに配偶者の給与は高額」としながらも、比較の対象とならないと却下されました。
もう一方の類似同業専従者給与批准方式は、
- 同業種
- 同規模(売上金額の2分の1以上、2倍以下)
- 青色事業専従者が歯科衛生士の資格を有する配偶者のみの事業者
という、条件が近い対象から青色事業専従者を抽出し、それと比べる方式です。
本件では類似同業専従者給与批准方式が採用され、配偶者との給与を比較されました。
その結果、青色事業専従者である配偶者の給与額は、「適正給与相当額と認めることはできない」と判断されました。
書類は絶対
さらに、国税不服審判所は
- 配偶者の労務提供の程度を示す客観的な資料がない
- 事業主である請求人自身が配偶者の労務提供の程度を明確に把握していたとも認められない
- 請求人からその程度に関する資料の提出もない
として、証拠書類もない状況では
「請求人が主張する適正給与相当額を算定することができない」
と請求人が適正とする給与額を認めませんでした。
税務調査では書類が大事といわれていますが、書類がないと、自分の主張そのものが弱くなりますし、状況証拠をひっくり返す決定力も欠いてしまいます。
書類は必ず残しておかなくてはいけません。
まとめ
この国税不服審判所の資料からは、青色事業専従者の給与がいくらで、適正額はどれくらいだったのかは不明です。
したがって、具体的な金額の基準を知ることはできません。
ですが、基準となる考え方を知ることはできるでしょう。
このケースの場合、配偶者である青色事業専従者に高額給与を支払って、節税したかったのではないかと推察します(著しく高額と指摘されているので)。
しかし、給与には相場があり、それを超える高額給与は否認の対象となってしまいます。
もし高額給与を認めさすには、それに見合った業務内容を提示しなくなくてはいけませんが、比較対象のデータを豊富に持っている国税に、その主張を認めさせるのはなかなかのハードルといえるでしょう。
配偶者に高報酬を支払って節税したいなら、やはり、法人を設立して役員になってもらうことを考えなくてはいけません。
青色事業専従者で高額給与は無理があります。
いずれにしても青色事業専従者の給与を決めるときは
- 業務内容
- 労働時間
- 相場との比較
ということを強く意識しましょう。
青色事業専従者を活用した節税方法の詳しい解説は下記リンク先記事をご覧ください↓
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