管理委託方式の「管理料」が不動産所得の必要経費に認められなかった理由

不動産の税金 税務調査対策

不動産賃貸業を営む個人が、その不動産の賃貸物件の管理業務を、親族または自分が経営する会社に委託することがあります。

いわゆる法人を活用した「管理委託方式」で、その目的には節税があります。

しかし、委託した管理会社の業務内容・管理料によっては、否認されるケースもあります。

この記事では、業務委託契約で管理会社に支払った管理料を「必要経費にならない」を否認された事例をご紹介します。

管理委託料が不動産所得の必要経費に認められなかった事例

結論からいうと、否認されたポイントは、管理業務委託会社の「管理・運営」が杜撰だったことと、そもそも親族の会社に管理業務を委託すること自体が不自然だったことです。

管理委託料が不動産所得の必要経費に認められなかった事例

請求人(納税者)は不動産賃貸業を営む個人ですが、その賃貸物件の管理を、夫が代表取締役、自身も取締役を務めるH社へ委託いしました(H社は請求人が50%以上の株を持つ同族会社)。

※H社はポロシャツ等の繊維縫製業を営む法人で、定款には不動産管理業務はない

契約書によれば、のH社への管理委託内容は次の通りです。

  • 週1回の見回り、点検業務
  • Y地区商店街及び近隣との外交業務
  • N社とのすべての交渉業務
  • その他

そしてH社への管理料は年間600万円でした。

ちなみに、請求人はH社へ業務委託する前は、N社という会社に管理業務を委託しており(N社への委託業務は、管理警備業務、交渉業務、集金業務、清掃業務、保守点検業務及び修繕業務)、そのときの管理料は家賃・共益費の10パーセント相当額で、年間約125万円程度でした。

これから比べると、H社への管理料は4.8倍で、明らかに高額です。

驚きの管理業務の実態とは

では、H社の管理業務の内容はどうだったかというと

  • 週1回の見回り点検業務とは、敷地の草刈り、自転車置き場の整理、N社が行った業務の履行確認
  • Y地区商店街及び近隣との外交業務とは、半年に1回の商店街会費の納入
  • N社とのすべての交渉業務とは、入居者の確保依頼及び家賃の額の決定
  • その他の業務とは、資金管理及び経営全般に関する知的判断業務
  • 管理業務は、代表取締役K1人で行っていて、H社の従業員(2人)はタッチしてない

というものでした。

ちなみに、上記管理業務を行ったことを証明する書類はなく、依頼主(請求人)への報告もすべて口頭で、管理業務に行うにあたって使った費用はH社には計上されていませんでした。

不動産所得の必要経費にできる費用とは

不動産所得の必要経費に計上できる金額は、

  • 不動産所得の総収入金額を得るために直接に要した費用の額
  • その年における販売費、一般管理費
  • その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額

と規定されています。

(必要経費)

第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

所得税法第37条第1項

その中にある、「業務について生じた費用」とは

  • 業務との関連性があること
  • 業務の遂行上必要であること
  • その支出についても、単に事業主の主観的判断だけでなく、客観的に必要と認められるものであること

という要件を満たさなくてはいけません。

管理業務委託契約自体が認められない

これを事例に照らしてみると

  • H社が管理業務を行ったことを裏付ける書類がない
  • 当初から委託しているN社への委託業務において十分可能であり、当該業務をH社に委託する必要性が認められない
  • H社においても当該業務を履行するために要した費用の計上も認められない

となり、このことから国税不服審判所は、次のように判断しました。

「H社との契約業務は、不動産賃貸業の遂行上必要な業務とは認められず、業務を履行したとする客観的な証拠も認められないことから、請求人が本件契約に基づき本件管理料を支払ったとしても、本件管理料は所得税法第37条第1項に規定する必要経費には算入されない」

と完全に否認されました。

杜撰な管理運営は否認の元

突っ込みどころはたくさんありますが、

  • 証拠書類を残してない
  • H社の管理業務の実態がほぼない
  • H社に管理業務を委託することが不自然

と、怪しさがプンプンする同族会社との管理委託業務で、管理料が適正かどうか以前の問題です。

仮に書類や実態があったとしても、第三者のN社と比べて4.8倍の管理料ですから、否認は避けられなかったでしょうが、それにしても、です。

あまりにも杜撰な運営では、自ら「否認してください」というようなものです。

まとめ

少し極端な例で参考にならない部分もありますが、同族会社へ管理業務を委託する際は

  • 管理業務を行った証拠は残す
  • 実態として管理業務を行う
  • 無理やり業務委託しない

といった、ごくごく基本は守るべきです。

そのうえで、管理料が適正かどうかの判断です。

いわば、土俵に乗っかるためには、まず基本です。

税務調査で厳しくみられる同族会社だからこそ、しっかりした業務委託契約の管理運営が必要になります。

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