居ぬき物件の設備・備品の買取り費用が経費にならなかった事例

税務調査対策 節税対策

新店舗開店のために、テナントの居ぬき物件の設備を買取ることがあります。

この場合の買取り費用は、新規出店の費用として、その期の経費として一括計上できるでしょうか?。

創業期だけに、全額経費にできれば申し分ありませんが、ところがどっこい、そう簡単にいかないのが税金です。

この記事で紹介する事例では、居ぬき物件の設備の買取り費用全額を経費で計上しましたが、あえなく否認されてしまいました。

そのポイントとなったのが、設備・備品を買い取った理由です。

その設備・備品を使いたかいから買取ったわけでなく、物件を借りたいために買取ったことが否認の主な理由です。

設備・備品の買取り費用が「繰延資産」と否認された事例

設備・備品の買取り費用が「繰延資産」と否認された事例

請求人(納税者)は、飲食店を営む法人(以下、請求人)です。

請求人は飲食店の新規出店のため、F株式会社が所有するビルの2階全室を借りるべく、すでに2階のテナントに入っていたG株式会社と交渉し(G株式会社は麻雀店を経営)

  • 賃貸借権
  • 設備並びに備品

の譲渡契約を結びました。

この譲渡契約に基づいて請求人は、

  • 設備と備品の買取り費用
  • ビル所有者に支払っていた保証金相当額

を支G株式会社に支払い、設備・備品とテナントの賃借権の引き渡しを受けました。

買取った設備と備品は、請求人が取り壊して破棄し、その後、新店舗の設備を新たに導入・設置しました。

そして晴れて飲食店を新規出店となり、請求人は、この設備・備品の買取り費用を、新規出店に伴う「特別損失」として損金に一括計上しました。

それに対し国税は、

「設備・備品の買取り費用は、“貸室を借りるための費用”で、繰延資産になる」

と否認したのです。

繰延資産とは?

繰延資産とは、すでに発生・支払いが済んでいる支出のうち、年度をまたいで費用化することが認められるもののことをいいます。

繰延資産に該当すると、すでに支払った費用全額が固定資産に計上され、数年をかけて償却していくことになります。

減価償却費と同じです。

つまり、繰延資産に該当すると、一括で経費に計上することができず節税効果もなく、なおかつ長い年月をかけて費用化しなければいけないという、納税者からみればまことに不利な扱いになってしまうのです。

一括計上した費用は約4,300万円ですから、これを否認されるダメージは大きいです。

そこで請求人は、この処分を不服として国税不服審所に訴えたというわけです。

請求人が損金に計上できるとした根拠

請求人の主張は、

「支出した費用は、“設備・備品を取得するための費用”だったから、繰延資産には当たらない」

というものでした。

国税の主張は、

「設備・備品の買取り費用は、“貸室を借りるための費用”」

で、請求人の主張は、

「設備・備品の買取り費用は、“設備・備品を取得するための費用”」

で、ここに違いがありました。

請求人は、設備・備品を取得するための費用だった根拠として、次のことを挙げました。

  • 備品と設備を現実に取得している
  • 取得した備品と設備は、そのまま使用することができるものであった
  • 設備と備品の取壊しと廃棄と同時に飲食店(バー)用設備・備品を取得した
  • 取り壊しと廃棄した設備・備品の所有権は請求人にあった

つまり、備品・設備を取得するための費用は、「法人税基本通達7-7-1」の「取り壊した建物等の帳簿価額の損金算入」に該当することから、この支出を損金に計上する処理は間違ってないとしたのです。

法人税基本通達7-7-1には、「法人がその有する」建物や建築物を取壊して新たな建物・構築物を取得するときは、取り壊した資産の帳簿価格をその事業年度の損金に算入するとあります。

(取り壊した建物等の帳簿価額の損金算入)

法人がその有する建物、構築物等でまだ使用に耐え得るものを取り壊し新たにこれに代わる建物、構築物等を取得した場合(7-3-6《土地とともに取得した建物等の取壊し費等》に該当する場合を除く。)には、その取り壊した資産の取壊し直前の帳簿価額(取り壊した時における廃材等の見積額を除く。)は、その取り壊した日の属する事業年度の損金の額に算入する。

法人税基本通達7-7-1

たしかに、請求人は買取って取得した後に、設備・備品を取壊したり破棄して、それから新店舗の備品・設備を取得しています。

そうだとするなら、通達のとおりであり、請求人の主張も最もだと思いますが、これに対し国税不服審判所の判断は次の通りでした。

設備・備品の買取り費用が「繰延資産」になる理由

  • 請求人はG株式会社から貸室の引き渡しを受けた後、すぐに既存の設備・備品を取壊し破棄し、その後、新店舗の改修工事をはじめている。
  • 請求人が買取った麻雀店の設備・備品を使用した事実はない
  • 前賃借人の麻雀店と新店舗の飲食店(バー)とはまったく業種が異なる

以上の事実関係から、請求人の支出した費用は

  • 麻雀店の設備・備品を利用しようとして支出した費用ではない
  • むしろ、設備・備品の撤去後に、飲食業を営業できる価値に着目して支出と認められる。
  • それは、設備・備品の買取り費用ではなく、「貸室を借りるために支出した費用」といえる。

としました。

そして、「貸室を借りるために支出した費用」は

  • 実質的には建物の賃借に際して支払う権利金とその性質を異にするものではない
  • いわば貸室に係る借家権の取得費用というべきものと認められる

とし、法人施行令第14条6-ロの「繰延資産」にある

「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用」

に該当すると判断しました。

たしかに請求人が支払った費用は、前賃借人のG株式会社でしたが、実質的には家主のF株式会社に支払う権利金と性質は変わらないということで、それゆえ上記の繰延資産に該当するという判断です。

これにより、請求人の主張は認められませんでした。

(繰延資産の範囲)

十四条 法第二条第二十四号(繰延資産の意義)に規定する政令で定める費用は、法人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く。)のうち次に掲げるものとする。

ロ 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用

法人施行令第14条6-ロ

まとめ

今回の事例では、設備・備品の買取り費用を、「法人税基本通達7-7-1」に該当するとして、その事業年度に損金に計上しようとしましたが、それは認められませんでした。

これはすでに説明してきた通りで、買取り理由が、設備・備品を利用したいからではなく、賃貸フロアを借りることが目的だったためです。

そのため繰延資産に認定されてしまったというわけです。

一括計上も繰延資産も、最終的に全額経費になるのは同じですが、それが短期でできるか、長期でできるかは資金繰りに影響してきます。

居ぬき物件に新規出店するときは、設備・備品の買取り費用の取り扱いに気をつけましょう。

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