不動産所得にかかった費用を必要経費にするためには、「その事業に関連した費用であること」が最低条件です。
このあたりは常識といえばそうですが、ときには落とし穴があることがあります。
そうです。
「実は不動産所得にはならなかった」というときです。
この記事では、不動産の貸付けが「不動産事業にあたらない」として、掛かった費用が経費に認められなかった事例をご紹介します。
経費に認められるための4つの判断基準
所得税法第37条第1項には、経費として認められるものとして次のように規定しています。
計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用
(必要経費)
所得税法第37条
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
売上に直接関係ある売上原価(仕入など)はわかりやすいですが、あやふやになりがちにな「販管費や一般管理費」については、
- その費用が業務と直接の関係を持っていて
- かつ、業務の遂行上必要なものであること
- その必要性の判断においては、事業主の主観的な判断のみによらず
- 社会通念上必要なものとして客観的に認識できるものでなければならない
が経費に認められる基準となります。
これら4つの基準を満たして、はじめて経費と認められるというわけです。
とくに重要なのは最初の2つです。
業務に直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なもの、つまり、「業務」に関係していることが経費に認められる大前提なのです。
経費のことを深堀りした人は、「そんなの当たり前だろう」と思われるのが普通です。
しかし、たとえば「不動産所得と思っていた」ものが、実は「不動産所得にならなかった」ならどうでしょう?
その不動産所得を得るために掛かった費用が、「経費に認められない」となってしまいます。
「そんなバカな」という話ですが、これからご紹介するのは、そんなバカなが現実になってしまった事例です。
・無償で貸付けた不動産が「不動産所得」とならず、経費に認められなかった事例
「無償」の貸借契約は不動産所得にならない
なぜ、「不動産所得と思っていた」ものが、「不動産所得に該当しない」とされてしまったのか?
結論からいえば、その不動産を
- 「有償」で貸したか?
- 「無償」で貸したか?
の違いです。
有償で貸せば不動産所得になりますが、無償で貸した場合は不動産所得にはなりません。
相続で取得した土地・建物だったが
事の経緯はこうです。
納税者は父母から相続した建物と土地を、自身が代表取締役を務めるK社に貸していました。
K社は、自動車修理・販売を行う会社で、建物は工場として利用していました。
その後、納税者は新たな借主L社と事業用定期借地権を設定するため、K社との貸借契約を終了し、K社を立ち退かせ、K社が借りている建物を取り壊して土地を造成しました。
しかし、後の申告で、建物(K社の工場)の解体費用を必要経費と認められなかったのです。
そのポイントになるのが、K社に貸付けていた土地・建物が「無償」の貸借契約だったことです。
「無償」の貸借契約と判断された理由
納税者の母は、生前K社に対して、土地・建物を貸付けていました。
その後、母の死亡により、建物と土地の2分1を納税者が取得したました。
その際、K社との賃貸契約も納税者が引き継ぎました。
さらに父の死亡により、土地・建物の残り2分の1も相続により取得しました。
しかし、父の死亡まではK社からの賃料は不動産所得として申告されていましたが、納税者が単独所有となってからは、賃料の申告はありませんでした。
この状況から裁判所は、父親の死亡以降、納税者とK社との間に「賃料の授受はなかった」と判断しました。
つまり納税者は、地代家賃の支払いがないのにもかかわらず、L社との事業用定期借地権が締結されるまでの間(約3年間)、父母から相続で取得した土地・建物を無償でk社に使用収益させていたことになります。
すなわち、民法第593条《使用貸借》に規定する使用貸借契約が成立していたということです。
使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
民法第593条
不動産所得とは
不動産所得とは、不動産を有償で貸し付けて得られる収益と、所得税法第26条《不動産所得》第1項規定されていて、これを「不動産所得を生ずべき業務」といいます。
要するに、「対価を得ること」を目的として不動産を貸すことです。
それに対し、対価を得ず無償で不動産を貸し付けることは、使用貸借といい、「不動産所得を生ずべき業務には該当しない」とされています。
(不動産所得)
不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
所得税法第26条第1項
これをこの事例に当てはめると、K社への貸付けは無償の貸借、すなわち使用貸借となるので、不動産所得とはならず、それに付随して発生する費用は、「業務に関係した費用」ではありません。
したがって、納税者が支出した建物の解体費用は、「経費に認められない」とされたのです。
非業務用資産の取壊し費用は家事費になる
もう少し詳しく説明しますと、取り壊した建物が貸付業務に供されていた「業務用資産」の場合、
- その取壊しが賃貸借契約終了後、速やかに行われ
- 建物に係る貸付業務の残務処理的な行為と認められるとき
は建物の取壊し後の敷地の利用目的にかかわらず、解体に要した費用は必要経費にすることができます
その一方で、貸付業務に供されてない建物の取壊し費用は、非業務用の資産の処分、すなわち、所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第1号に規定する家事上の経費になり、これを必要経費にすることはできません。
(家事関連費等の必要経費不算入等)
居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
所得税法45条
この事例では、父親の死亡までは、K社との貸借契約は有償の賃貸借契約でした。
ですが、父親死亡以降は無償の使用貸借契約となり、それと同時に、取壊しの対象となった建物は、不動産所得を生じない非業務用資産となりました。
その建物を取り壊すことは、不動産業務に供されない資産を処分する行為に過ぎませんから、その解体費用は家事費に該当することになります。
そのため、解体後の敷地の利用目的かかわらず、当該建物解体費用は、「必要経費に計上できない」となるのです。
まとめ
社長個人が所有する土地を同族会社に貸すことは良くあります。
土地を無償で貸すと借地権の問題もあって、同族会社といえどタダで貸すことはないかもしれませんが、もし無償で貸してしまうと、不動産所得にあたらないことになります。
そうすると、今回の事例のように、必要なときに経費にできないおちうことも起こります。
タダより怖いものはないといいますが、税金の世界でもその言葉がそっくりそのまま当てはまり、無償の代償はどこかで支払わなければいけないということです。
タダは得するばかりではないですね。
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