相続人が受取った「死亡退職金」が「退職金にあたらない」とされた否認の理由とは?

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この記事で紹介するのは、遺族が死亡退職金として受取ったお金が、退職金と認められず、死亡保険金と否認された事例です。

死亡退職金と死亡保険金で「何が違うんだ?」と思われるかもしれませんが、遺族にしてみれば、退職金に認められるかで税額が変わってきますから、死亡退職金を否認されたら大変です。

否認されたのは、死亡退職金を受取った「遺族」なので、法人の否認とは一見関係ないように思えますが、その根拠となった部分は十分参考になります。

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相続人が受取った「死亡退職金」が「退職金にならない」と否認された事例

この記事で紹介するのは、以前の記事に書いた事例と同じ事例です。

相続人が受取った「死亡退職金」が否認された事例

会社(以下、J社)は当初、節税対策のためにハーフタックスプラン(福利厚生プラン)に加入していましたが、被保険者の役員が亡くなってしまい、その契約形態から、多額の死亡保険金が「役員の家族(相続人)」へ保険会社より振り込まれました。

<ハーフタックスプランの契約形態>

  • 契約者:法人
  • 被保険者:役員・従業員
  • 保険料負担者:法人
  • 満期保険金受取人:法人
  • 死亡保険金受取人:役員・従業員の家族

節税が主目的で、役員の死亡という事態を想定してなかったJ社は、役員の遺族にその事情を話し、死亡保険金約1億9,000万円のうち、8,000万円を死亡退職金として遺族に受取ってもらい、残り1億1,000万円はJ社に贈呈協力金という形で返金してもうらうことで承諾を得ました。

しかし、その後の相続税の申告で、遺族は死亡退職金として受取った8,000万円しか申告せず、国税から過少申告で否認されました。

国税の主張は、

「当初受取った死亡保険金1億9,000万円全額が相続税の対象」

としたからです。

これに対し相続人は、

  • 死亡保険金のうち1億1,000万円はJ社に贈与したのだから、手元にないお金に課税されるのはおかしい。
  • 相続税の対象となるのは、あくまで手元にある8,000万円について。
  • その8,000万円は死亡退職金として受取っている

と主張しました。

死亡退職金なら非課税枠が2つ使える

8,000万円が死亡退職金として扱われるか、それとも死亡保険金として扱われるかは、遺族にしてみれば大きな違いがあります。

死亡退職金と死亡保険金には、それぞれ、

  • 相続人の数×500万円

という非課税枠が認められています。

つまり、死亡退職金として扱われると、「相続人の数×500万円」の非課税枠が2つになります。

その一方、死亡保険金のみで扱われると、「相続人の数×500万円」の非課税枠は1つしか使えません。

したがって、この事例の遺族にとっては、手元に残った8,000万円は、死亡退職金で扱われた方が有利だったのです。

実際に後の裁判で、最初に保険会社から受取った死亡保険金1億9,000万円は、「全額が相続税の対象」と判断されたことを考えると、遺族としてはどうしても手元に残った8,000万円を死亡退職金としたかったのでしょう。

(遺族は、J社からの説明で1億9,000万円が相続税の対象となることを、実は知っていたようですし、また会社からも死亡退職金として支給する旨も説明されていたと思われます)

そこで遺族は「手元に残った8,000万円は死亡退職金である」と主張しました。

しかし、国税の主張は「死亡退職金ではなく生命保険金」と、真っ向対立したのです。

死亡退職金でないと否認された理由

では、なぜ国税は死亡退職金には当たらないと否認したのでしょうか?

相続税法第3条には、被相続人の死亡により相続人が受取る退職金、功労金、これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、受取人が相続人の場合は相続により取得したものとみなすと規定されています。

今回の事例は、

  • 役員の死亡後3年以内に支払うことが確定したお金
  • 受取人は相続人

であることから、相続により取得したとみなされます。

(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)

第三条 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失つた者を含まない。第十五条、第十六条、第十九条の二第一項、第十九条の三第一項、第十九条の四第一項及び第六十三条の場合並びに「第十五条第二項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。

相続税法第3条

ただし、この事例のように

  • 被保険者:役員
  • 保険料負担者(契約者):法人
  • 死亡保険金受取人:役員の家族

のような保険契約の場合、相続人が受取るお金は、生命保険金なのか死亡退職金かの判断に迷うことになります。

そこで受取ったお金が

  • 相続税法3条第1項「第1号」
  • 相続税法3条第1項「第2号」

のいずれに当たるのかを判定します。

判定の結果、

  • 相続税法3条第1項「第1号」に該当→生命保険金
  • 相続税法3条第1項「第2号」に該当→退職金手当

となります。

相続税法3条第1項第1号

被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第三項(定義)に規定する生命保険会社と締結した保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。以下同じ。)その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(同条第四項に規定する損害保険会社と締結した保険契約その他の政令で定める契約をいう。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第五号又は第六号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

相続税法3条第1項第2号

被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであつた退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(政令で定める給付を含む。)で被相続人の死亡後三年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合においては、当該給与の支給を受けた者について、当該給与

死亡保険金になるか死亡退職金になるかの具体的判定法

相続税法3条第1項「第2号」の退職金に該当するケースとは、「雇用主が生命保険契約の死亡保険金を退職手当として支給すると定めていた場合」です。

その具体的な判断は、雇用主である企業の

  • 定款
  • 株主総会
  • 社内規程
  • 就業規則
  • 労働協約等

において、その保険金が「退職給付金として支給されるものであることが明らかにされているかどうか」で決まります。

裁判所の判断

その点についてJ社はどうだったかというと

  • 定款においては、株主総会の決議により定めると規定してある。
  • 役員退職慰労金内規には、①内規に基づき取締役が決定した額で、株主総会において承認された額 ②内規に基づき計算すべき旨の株主総会の決議に従い取締役会が決定した額と定められている。
  • その株主総会では、被相続人に対する役員退職慰労金の支給については、何ら決議されていなかった。
  • 役員退職慰労金内規および退職金規定のいずれにも本件保険金を退職手当金等として支給する旨の定めがなかった。

という状況でした。

この状況から裁判所の判断は、

「相続人らが取得した保険金は、役員退職慰労金とは認められないというべき」

とし、

「相続税法第3条第1項第1号に規定する生命保険金に該当するものと認められる」

と判定しました。

よって、相続人が受取ったお金は退職金とはならず、国税の主張が全面的に認められる結果となったのです。

退職金の否認を避けるために行っておくべきこと

この事例からいえることは、

  • 退職金規程を作っておく
  • 株主総会を開いて、役員退職金の支給について決議しておく

といったことは、必ずしておくということです。

これにより、否認の根拠を潰すことができます。

そして遺族は安心して死亡退職金を受取ることができます。

結局のところ、J社の無理な節税対策と、株主総会などの必要な手続きを怠ったことにより、このようなトラブルが起こったといえます。

無理な節税対策も去ることながら、杜撰な運営体制も、後々の税金トラブルを招き寄せるということです。

まとめ

長々と話てきましたが、つまるところ、会社側が退職金に関する規定や運用をしっかり行っていれば避けられたトラブルともいえます。

役員退職金が否認されないためには、退職金規程などの書類、株主総会の決議、取締役会の決議は必ず整えておきましょう。

それが否認を避ける最善の手段です。

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