役員報酬が「著しく低い場合」のリスクを解説。退職金(死亡を含む)・弔慰金に与える影響とは?

役員報酬 税務調査対策

役員の退職金を算出する際、役員報酬が極端に低いと、一般的には「1年あたり平均額法」が採用され、適正な役員報酬額に修正されます。

しかし今回ご紹介するケースでは、別な方法が採られ、役員の最終報酬月額が決定されました。

これにより、退職員や弔慰金にどう影響するるのか、この事例は教えてくれます。

この記事では、役員が退職する期に、給与が極端に低すぎるリスクについて解説します。

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退職金の「不相当に高額」な部分は損金にできない

法人税法36条において、役員に対して支給する給与のうち、「不相当に高額」な部分の金額は損金に認めないとされていて、その具体的な基準は、法人税施行令第72条第2項に定められています。

(過大な使用人給与の損金不算入)

第三十六条 内国法人がその役員と政令で定める特殊の関係のある使用人に対して支給する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

法人税第36条

(過大な使用人給与の額)

法第三十六条(過大な使用人給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、内国法人が各事業年度においてその使用人に対して支給した給与の額が、当該使用人の職務の内容、その内国法人の収益及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該使用人の職務に対する対価として相当であると認められる金額(退職給与にあつては、当該使用人のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した使用人に対する退職給与として相当であると認められる金額)を超える場合におけるその超える部分の金額とする。

法人税施行令第72条第2項

役員報酬の月額が低額のときのリスクがわかる事例

問題となったのは死亡退職した役員Aの退職金です。

役員Aの死亡退職金として支払われた額は、3,500万円でした。

国税は、その内330万円をこえる3,170万円は、法人税法72条にある「過大な退職金」にあたるとして損金に認めませんでした。

この役員Aの最後の期に役員報酬額は、月額5万円でした。

役員報酬が5万円だった理由

役員Aの月額の役員報酬が5万円だった理由は次の通りです。

役員Aは材木店で個人事業で起業し、その後、株式会社N材木店を設立し、一時は売上高12億円まで成長しました。

ですが、その後、取引先の倒産で連鎖倒産してしいました。

そこで一旦は事業を閉じましたが、役員Aの長男BがN木材店の設備や取引先などを引き継いで、長男Bを代表取締役、役員Aを取締役にして、新たな株式会社を設立しました。

ただ、長男Bは会社設立当時30歳で、経験不足のため、役員Aが仕入れや金融機関との交渉などのサポートをしていました。

会社の業績は復活しつつありましたが、当面生活費のかかることを理由に、長男Bに月額役員報酬90万円を支払い、生活費のあまりかからない「会長」となった役員Aには、月額5万円の役員報酬を支払うことにしたのです。

※役員Aは長男Bから生活費として、役員報酬とは別に月40万円を受け取っていた。

その最中に役員Aが死亡し、退職金を支払うことになりました。

納税者側の主張としては、

「役員Aは功績が大きく、最終報酬月額が5万円だからといって、その他の事情等も考慮せず一律に決めてしまってよいものではない」

としました。

国税の主張

その一方、国税の反論は次の通りでした。

  • 最後の期は、病気で入退院を繰り返しており、常勤であったとはと認めがたく、役員報酬5万円と認定しても著しく低額とはいえない。
  • もしそうでなくても、代表取締役の長男Bと役員Aの役員報酬の合計額を1/2にした額が相当。

裁判所の判断

両者の主張に対し裁判所が出した結論は次の通りです。

  • 入院中でも、仕入先や銀行と交渉したり、長男Bを指導するなど、会社の業務に従事していた。
  • 年間売上げ総額を4億円に近い線まで確保できていた。
  • N木材時代からの取引先や役員Aの事業経験を長男Bに引き継がせたことを合わせ考慮すると、Aの役員報酬月額5万円は、功績を適正に反映したものとしては低額過ぎる。
  • 代表者B(長男)の報酬月額平成元年8月分75万円と同年9月分90万円の平均額82万5,000円の1/2の額の41万2,500円と認めるのが相当である。

以上のことから、役員Aの最終報酬月額は41万2,500円となりました。

そして、功績倍率は、最高値3.4倍、最低値0.56倍で、平均は1.35倍となり、

「平均功績倍率を1.4倍として計算するのが相当」

と判断されました。

その結果、役員Aの死亡退職金は115万5,000円になりました。

  • 41万2,500円×2年(在職年数)×1.4=115万5,000円

弔慰金の損金に計上できる金額も低額になる

次に弔慰金です。

役員Aの弔慰金として、会社は500万円を支給していました。

この500万円についても適正かどうかの判断がなされます。

弔慰金は、「社会通念上相当とされる金額」は弔慰金として扱われ、それを超える死亡退職を起因とする金額は退職金となります。

「社会通念上相当とされる額」は法人税法でとくに定められているわけではありませんが、相続税基本通達3-20には、次の計算に基づいて算出した金額を弔慰金として取り扱うとされています。

  • 業務上の死亡の場合:被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与の三年分に相当する金額
  • 業務外の死亡の場合:被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与の半年分に相当する金額

(弔慰金等の取扱い)

被相続人の死亡により相続人その他の者が受ける弔慰金、花輪代、葬祭料等(以下「弔慰金等」という。)については、3-18及び3-19に該当すると認められるものを除き、次に掲げる金額を弔慰金等に相当する金額として取り扱い、当該金額を超える部分の金額があるときは、その超える部分に相当する金額は退職手当金等に該当するものとして取り扱うものとする。

(1) 被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは、その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、当該被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与(俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当等の合計額をいう。以下同じ。)の3年分(遺族の受ける弔慰金等の合計額のうち3-23に掲げるものからなる部分の金額が3年分を超えるときはその金額)に相当する金額

(2) 被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、当該被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与の半年分(遺族の受ける弔慰金等の合計額のうち3-23に掲げるものからなる部分の金額が半年分を超えるときはその金額)に相当する金額

相続税法基本通達 3-20

役員Aの死亡は「業務外の死亡」になり、その結果弔慰金は、適正と認められた役員報酬月額41万2,500円に、6ヵ月を掛けた247万5,000円と判断されました。

  • 弔慰金:41万2,500円×6ヵ月=247万5,000円

つまり、弔慰金として支給した500万円のうち、252万5,000円が損金不算入となります。

退職金と弔慰金の損金に認められる金額が怖ろしく定額に

上記裁判所の判断により、退職金と弔慰金と合わせて損金に計上できる金額は、363万円となりました。

  • 損金に計上できる金額:115万5,000円+247万5,000円=363万円

その結果、当初に計上した、退職金3,500万円と弔慰金500万円の合計4000万円のうち、3,637万円が損金に認められなくなりました。

いかがでしょう?

役員報酬を低く設定するリスクをご理解いただけたのではないでしょうか。

この事例で紹介した役員Aの場合、在職年数も功績倍率も低く設定されているので、役員報酬が高くても、はじめから退職金は高く設定できないともいえます。

しかしこの事例は、国税不服審判所や裁判所に訴えたから最終報酬月額を41万5,000円に上方修正することができたのです。

異議を申し立てず、そのまま認めてしまっていれば、役員の最終報酬月額は5万円とされてしまい、

  • 死亡退職金→5万円×2年×1.4倍=14万円
  • 弔慰金→5万円×6ヵ月=30万円
  • 合計:44万円

となってしまうかもしれないのです(※この事例では、役員Aは常勤役員とみなされず、役員報酬月額5万円が適正と判断されていたため)。

低額の役員報酬はこのようなリスクを抱えています。

だから年金の復活のためにあえて月額の役員報酬を低額にしていると、死亡退職員や弔慰金を少額しかご家族が受け取れない可能性が出てきます↓

まとめ

ちなみにこの事例の会社は、法人保険の死亡保険金が4,000万円以上あり、それに合わせて死亡退職金と弔慰金の金額が決められたふしがあります。

しかし、保険会社から支払われた死亡保険金の額が、そのまま死亡退職金として認められるわけではありません。

死亡保険金の額と退職金の損金の額は、あくまで別々のものです。

同一に考えるとこの事例のような間違いが起こります。

いずれにしても、低額の役員報酬は、年金復活プランや社会保険料削減プランで使われますが、この記事で解説したリスクがあることを知っておくべきです。

とくに死亡はいつ起こるかわかりません。

満額の年金額や社会保険削減金額で得たお金により、税務上の多額のペナルティを受けてしまっては意味がないでしょう。

そしてその後始末をするのはご家族です。

とりわけ弔慰金の場合は、「賞与以外の普通給与」が算定となる数字です。

賞与を含めた年収で月額を出すわけではありませんので、賞与の割合が多くなれば、それに比例して弔慰金は低くなります。

弔慰金はご遺族が非課税で受取れるお金ですので、これが少ないときの痛手は大きいです。

そんなリスクを抱えてまで、定額の役員報酬にするメリットが本当にあるか、しっかり考えておきたいところです。

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