3つの事例で考える役員退職金の「役員在職期間」の判断基準とは?個人事業時代は含める?

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役員の退職金を計算する際の「在職期間」は、一般的に、その法人に役員として在籍した期間が対象です。

一見揉めそうにない明確な基準ですが、ときに在職期間を巡って争われる事例があります。

この記事では、役員退職金の「在職期間」について解説していきます。

社長の役員退職金完全マニュアルは下記リンク先記事をご覧ください↓

役員退職金を計算する際「役員在職期間」はどう判断されるか?3つの事例をご紹介

役員退職金を算出する際に、役員の「在職期間」が用いられます。

単純に在職期間が長いほど、受取れる役員退職金も多くなります。

基準となるのは、役員としての在職期間ですので、一見すると揉める要素はないように思えますが、実際は在職期間を巡って、争われた事例はあります。

※在職期間だけが争点になったわけでなく、いくつかある主張の中で役員の在職期間について判断されたという意味です。

1.個人事業主時代の期間は合算されるか?

一つ目の事例は、個人事業主時代の期間も役員在職期間に入れてよいかが争われた事例です。

納税者の主張は、

「役員Aは創業者で、一度は会社を倒産させたことはあるが、現在の会社との、実質的経営の一体性、継続性があり、その功績も大きいから、在職年数は個人事業主時代の期間も含めるべき」

というものでした。

少しわかりにくいので背景を説明しておきます。

退職金(死亡退職金)の対象となった役員Aは、個人事業主として木材店を起業し、その後、その事業で株式会社Cを設立しました。

最盛期の年商は12億円にもなりましたが、取引先の倒産により、不渡手形を出して連鎖倒産しました(これにより役員Aは資産の大半を失う)。

その後、役員Aの意向を受けて、その息子Bが新しい商号の木材卸売業をはじめましたが、年齢が30歳で実務経験が浅かったため、銀行取引や仕入の仕方などの実務面を役員Aが引き受けました。

そして事業が軌道に乗り、息子Bが代表取締役、役員Aが取締役の新会社がDが設立されました(事務所や設備などは、以前の株式会社Cのものを引き継いで使用していた)。

以上のような流れで、新会社Dの時に、役員Aがお亡くなりになり、死亡退職金が支払われることになりました。

そこで納税者は、

「一度は倒産したものの、役員Aの個人事業主時代から現在の会社まで、経営的一体性、継続性もあるし、役員Aの功績も大きい。したがって個人事業主時代の期間も含めて役員在職期間とすべし」

と訴えたのでした。

これに対し裁判所は、役員Aは一定の功績があったとしながらも

「役員Aは、株式会社Cを倒産させ、最終的な責任を負い、Bの個人事業主時代に続く株式会社D時代も一線から退かざるを得なかった。その事実から、Bの個人営業の開始前後に、経営の一体性、継続性があったとは認めがたい」

と納税者の主張を認めませんでした。

さらに、次のような税法上の問題があるので、個人事業主時代のものは役員の在職期間に含められないとも付け加えました。

まず、法人税法施行令72条に、役員の退職金で損金に計上できる金額の判定基準として、

  1. 当該役員のその内国法人の業務に従事した期間
  2. その退職の事情
  3. その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する退職給与の支給の状況等

と規定してあります。

上記基準を総合勘案し、退職給与として相当であると認められる金額が算出されます。

つまり、判定法人の業務に従事した期間に照らして相当性を判断するとしている以上、それ以外のものは含めるべきでないと裁判所は判断したのです。

(過大な使用人給与の額)

第七十二条の二 法第三十六条(過大な使用人給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、内国法人が各事業年度においてその使用人に対して支給した給与の額が、当該使用人の職務の内容、その内国法人の収益及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該使用人の職務に対する対価として相当であると認められる金額(退職給与にあつては、当該使用人のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した使用人に対する退職給与として相当であると認められる金額)を超える場合におけるその超える部分の金額とする。

法人税法第72条

さらに、比較対象となる抽出法人にしても、法人設立以前の期間を入れて役員退職金を計算しているわけではありません。

そうである以上、仮に納税者が主張する個人事業主時代も基準期間にいれるなら、正当な対比もできなくなります。

以上の理由をもって、平均功績倍率法を適用する場合の在職年数は、

「判定法人の業務に従事した期間とすべきである」

と判断されました。

2.別々の会社の期間は引き継ぐか?

次の事例は、別々の会社で取締役だった同一人物の役員在職期間は合算できるか?ということが争点の一つになった事例です。

結論からいえば、法人税法72条の規定により、「別々の会社の役員在職期間は通算できない」とされました。

・別々の会社の役員在職期間は通算できない」とされた事例

少しわかりにくい説明ですが、同一人物であっても、別々の会社では役員在職期間は合算できないのが普通です(1の事例からも明らかなように)。

しかしこの事例の場合は、少し事情が異なります。

まずGという会社(昭和48年設立)があって、そこの代表取締役にFという人物が就任していました。

この株式会社Gの業務を引き継いで、E社が設立され(昭和63年)、そのE社でもFは代表取締役、取締役を務め、平成15年に死亡を原因として退職しました。

そこで納税者側は、

  • FはG社の代表取締役で、E社は平成○年ころにG社の業務・経営を引き継いだ。
  • したがって、Fの役員在任期間には、G社が設立された昭和48年からE社に事業を引き継いだ期間を加算すべきである

と主張したのです。

※念のため、この主張は納税者側の主張で、国税側はG社とE社は登記簿上も別々で、確認できる範囲では、法人税の確定申告書の提出がなく、業務・経営の引継ぎに係る契約書等の証票類も確認できないとしています。

これに対し裁判所は

  • 法人税法施行令第72条に規定する「法人の業務に従事した期間」については、法人の役員は、個々の会社と委任の関係にある。
  • そのことから、個々の法人間を通算することはできないものと解される

とし、納税者の主張を認めませんでした。

ここでも法人税法72条の規定の定めに従っています。

3.実質で判断すべきとされた事例

最後の事例は、上記2の事例と同じ人物Fですが、問題となったのは、E社での役員在職期間です。

E社でのFの「登記簿上」の役員在職期間は、

  • 平成5年5月~平成5年7月まで代表取締役
  • 平成15年5月~平成15年9月まで取締役(9月に死亡退職)

というものでした。

しかしFは、

  • 設立当初から請求人の実質的な代表者であった
  • 発行済株式総数の5割を有する株主であった

という事実があり、この点を考慮すると

「設立当初から実質的に役員として職務に従事していたと認めるのが相当である」

とし、E社設立からの期間を役員在職期間(16年3ヵ月)としたのです。

このように、登記簿上の表面的な役員在職期間が短くても、実態が伴っていれば「実質の役員在職期間」で判断してくれるということです。

事例の1と2との違いは、1社での役員在職期間ということです。

1と2の事例とも、役員在職期間に加算しようとしたのは、会社とは別にカウントされる、個人事業主時代の期間と別の会社の期間です。

役員在職期間に含めることができるのは、あくまで対象となっている会社での役員の在職期間です。

まとめ

役員の在職期間に含められるのは、法人税法72条に「当該役員のその内国法人の業務に従事した期間」あるように、判定の対象となる法人での役員在職期間のみです。

たとえ創業者であっても個人事業主時代の期間は加算できませんし、ましてや別会社の期間は論外となります。

ただし、判定法人での役員在職期間については、実態で判断され、登記簿上の役員の期間だけでなく、実質的に役員といえる状態であったなら、その期間を在職年数として含めることができます。

この記事が参考になれば幸いです。

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