役員退職金の功績倍率が「3.0」を超えて「3.5」と認められた事例

役員報酬 税務調査対策

役員退職金の支給の際に用いられるのが「功績倍率法」ですが、ここで問題になる点に「功績倍率がいくらなのか」です。

一応の基準としては、昭和55年の裁判で示された「社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6」というものはあります。

しかし実際は、3.0を超えても否認されない例もありますし、3.0以下でも否認される例もあります(社長のケースです)。

事例によってそれぞれといってしまっては身も蓋もありませんが、この記事では、裁判所が適正な功績倍率を求めるときの考え方についてご紹介します。

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功績倍率とは

役員の退職金を算出する際のスタンダードな方法が「功績倍率法」です。

<功績倍率法の計算式>

  • 最終報酬月額×在職年数×功績倍率

計算式を見ればわかりますが、功績倍率を何倍にするかによって退職金の金額は大きく異なってきます。

仮に、最終報酬月額100万円で在職年数30年の社長の場合で計算してみると、功績倍率が2倍と3倍なら、3,000万円の差が出ます。

  • 2倍:100万円×30年×2.0=6,000万円
  • 3倍:100万円×30年×3.0=9,000万円

ですから、功績倍率を何倍にするかは役員に退職金を支給する上で重要になります。

反対にいえば、それだけ支給額が変わってくるのですから、功績倍率は国税も注目するポイントになります。

根拠なく功績倍率を高くしてしまうと、否認される可能性が出てきます。

功績倍率の判定基準

では、功績倍率はいったい何倍なら否認されないでしょうか?

冒頭にも書きましたが、3倍以上はダメとか、3倍以下なら安全という基準はありません。

ましてや高い数値がダメなのでも、低い数値ならOKでもありません。

その判定基準は

  • 同業類似法人の役員退職金と比べてどうか?
  • 退職の事情はどうか?

などによって決められます。

裁判所が功績倍率を「3.5」で認めた理由

では、実際の判例でどのように判断されたのかみていきます。

この事例で、国税が示した適正な功績倍率は、「2.3」でした。

一方の納税者側が主張した功績倍率は、「3.5」です。※実質の功績倍率は4.6倍

そして両者の主張に対し裁判所が出した結論は、納税者の主張を認めて「3.5」が適正と判定しました。

なお、実質の功績倍率は4.6倍と注意書きしましたが、これは後述するように、功労金といった名目で支払ったお金も功績倍率に含まれるからです。

裁判所の判断

国税が提示した「2.3」に対して裁判所は、「比較法人の抽出及び抽出結果に基づく平均功績倍率算出自体の合理性は認められる」とし、2.3を超える部分の役員退職金は、不相当に高額になる、との根拠になるとしました。

しかしながら、次の理由により、「2.3」を適正としませんでした。

1.比較法人と納税者の法人では、業績が大きくことなる

納税者の会社の方が、比較法人に比べ規模が大きく経営内容も順調で、これを一概に同列に扱うことはできないとしました。

2.平均が偏りやすくなっている

国税が抽出した類似法人は5社でした。

その比較法人5社の功績倍率は、高いものから、4.0、2.81、2.19、1.45、0.91となっていました。

その中にある、1.45と0.91という低い数値が、不相当に平均値を引き下げていますし、平均値の2.3付近に数値が集中しているわけでもありません。

つまり、偏りやすい数値の上、バラツキも大きく、2.3を超えるからといって、ただちに「不相当に高い」といえないとしたのです。

3.退職者の功績を考慮してない

退職金(死亡退職金)を支給した役員は社長で、創業者でした。

創業者として多大な功労のあった事情を平均値算出過程で基本的に考慮されていないことも指摘しました。

この点について国税の主張は、

「創業者としての功績は、一般に勤続年数の長短及び最終報酬月額に反映されている」

としましたが、裁判所は

「そうであるとしても、功績倍率の相当性を検討するに当たり、創業者としての功績を全く考慮しないでよいことにはならない」

としたのです。

以上のような理由から、たとえ功績倍率の平均値が適正に抽出された数字でも、それを超えるからといって、すぐに不相当に高いとはいえないとしました。

その一方で、「3.5」を超える部分の役員退職金については、

  • 比較法人の2.3倍を大きく超えていること
  • 比較法人の功績倍率も5社中4社は3.0以下であること

からすると、3.5を超える部分は「不相当に高額」と判断したのです。

功績倍率が「余りにも低率である」との納税者の主張が退けられた事例

ちなみに、国税が提示した平均功績倍率を、「社会通念上も余りに低率である」と主張して、争った事例もあります(功績倍率のみを争ったわけでなく、全体の一部としての主張です)。

・社会通念上、功績倍率が余りにも低いと争われた事例

国税が採用した平均功績倍率は2.2で、納税者側の主張は役員Aが3.3、役員Bが3.6でした。

そして裁判所が適正と判断した平均功績倍率は、「1.9」となりました。

その理由として裁判所は、

  • 比較法人の数が多い方が望ましいが、比較法人が少ないことをもって、算出された功績倍率が相当性を欠くとはいえない。
  • 比較法人(3社)が少ないことにも、合理性がないとはいえない。
  • 功績倍率は役員の実際の貢献度も考慮されるべきだが、平均功績倍率を超えるほどの貢献が、当該役員にあったことを裏付ける事情はない

ことを挙げ、最後に

「本件に関する具体的事情を考慮せず、裁判事例や裁決事例と異なるというだけで、平均功績倍率が社会通念上不相当に低率であるということもできない」

として、納税者の主張を認めませんでした。

要するに、国税の採用した平均功績倍率を否定するなら、それを裏付ける根拠をきちんと提示しないと認めてもらえないのです。

この点は、自分が提示する功績倍率の正当性を訴えるときも同じですね。

功績倍率は「功労金」や「慰労金」が含まれる

功績倍率のほかに「功労加算金」といった名目で、退職金に上乗せして支払うことがありますが、功績倍率は、これら功労金、慰労金といった名目に関わらず、功績倍率に含めて計算されます。

この点はよくある勘違いですので、気をつけましょう。

功績倍率と功労加算金は「別」ではないことに注意が必要です。

たとえば、最終報酬月額100万円、在職年数30年、功績倍率3.0、功労金3,000万円支給した場合、国税の考える功績倍率は「4.0」とカウントされます。

実際、この事例の裁判でも、退職慰労金には、功労金や特別功労金も含めて功績倍率を計算すべきものという見解が述べられています。

Aの役員退職給与として,退職慰労金ほか,功労金及び特別功労金が支給されているにもかかわらず,功労金等を除外して功績倍率の主張をしているから,原告の主張は,つまるところ,功労金等を含めた役員退職給与の支給が適正であること,すなわち功績倍率4.6が適正であると主張するに等しいものである。

功績倍率に根拠を持たせる

いかがでしたか?

判例からもわかる通り、功績倍率は3.0を超えても、ただちに「不相当に高額」とされるわけではありません。

その退職した役員の会社への貢献度、会社の収益の状況、退職の事情、類似の会社の功績倍率などによって、功績倍率が「適正」と判断されれば認められます。

要するに、その功績倍率に適正といえる根拠はあるか?ということです。

たしかに3.0を超えれば、税務調査で指摘される可能性は高くなるかもしれませんが、それすなわち間違いとはいえず、功績倍率が適正かどうかは別問題なのです。

ちなみに、創業者だから功績が評価が高くなるわけでなく、創業者として会社をどれくらい大きくしたか、そして今の現状(業績や財務状況)がどうかが問われますので、この点は誤解しないようにしておきましょう。

創業者で会社を大きくしたとしても、現状の業績が良くなければ、評価を高くできる根拠とはなりません。

まとめ

この記事では、裁判所が功績倍率をどう考えるかを解説してきました。

ただし、当記事も判例の一つなので、これとは別の考え方の判例もあります。

たとえば、「抽出した類似法人の功績倍率の数値にバラツキがあるが、バラツキがあるからこそ平均値を採用すべき」といったものです。

もちろん、判例もそれぞれの事情が異なりますから、一概に同じ扱いにできませんが、この記事で述べた裁判所の考え方も絶対ではないということです。

いずれにしても、功績倍率は3.0だから安心というものではなく、一応の基準で安心するよりも、その根拠をしっかり考えたいところです。

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