役員への退職金は、定款に定めのないときは、「株主総会の決議」が必要になります。
通常は、退職金規程を定款に定めてないことがほとんどですから、大半は株主総会で決定されます。
これは税務上も同じで、株主総会の決議を経ないで支給された役員退職金は、否認される根拠となります。
この記事では、なぜ株主総会の決議を経ないで支給された役員への退職金が否認されるかを解説します。
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役員への退職金支給は会社法上でも株主総会の決議が必要
役員への退職金支給は、定款にあらかじめ定めておくか、株主総会の決議が必要と会社法で定められています。
取締役の報酬等
1.取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容2.前項第二号又は第三号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。
会社法第361条
会社法でこのように決められているのは、役員(取締役)によるいわゆる「お手盛り」を防ぐ目的があり、定款または株主総会の決議を要件とし、株主の利益を保護する意図があります。
ただし、具体的な役員退職金の支給内容まで株主総会で決めることは少なく、
- 役員退職金の金額
- 支給の時期
- 支給方法
などについては、「取締役会に一任」することが一般的です。
株主総会の決議がないと損金にできない理由
では、なぜ株主総会の決議を経ないで支給された役員退職金は、税務調査で否認されるのでしょうか?
その根拠となっているのが、法人税法第22条です。
法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第3項および同項第2号には、その期に損金計上できる金額は、当該事業年度の、販売費、一般管理費、その費用と規定され、
「当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く」
としています。
そして、法人税法第22条第4項には、原則として「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする」と規定されています。
(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
〔法基通2-2-1〕二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
法人税法第22条
損金にできるのは「債務の確定した費用」
各事業年度に損金に算入すべき金額は、法人税法第22条で規定されていて、その費用の計算は、第4項で「公正と認められる会計処理の基準に従って計算すること」というのが原則です。
しかし、仮に公正と認められる会計処理の方法でも、「貸倒引当金」のように、債務未確定ながら、費用を実際の支払いに先行して計上するこもとできます。
これを際限なく認めてしまうと、企業側は恣意的に利益調整することも可能になります。
そこで、法事税法第22条第3項第2号において、その期に計上できる損金は、
「債務の確定した費用」
と規定し、引当金のような「債務未確定」の債務については、同項にあるように「別段の定めがある場合を除き」とし、一定限度の引当金についてのみ、損金算入を認めるとしています。
費用が確定した債務かどうか3つの判定基準
上記のポイントになるのは、
「損金に認められるのは、債務の確定した費用であること」
です。
そして、費用が確定した債務かどうかの判定は
- 当該費用に係る債務が成立し
- 当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生しており
- その金額を合理的に算定することができるか否か
によって判断されます。
以上の3つの判定基準に照らし合わせれば、株主総会で決議を経てない役員退職金は、その期に支出することが「確定した費用」とはいえず、損金には認められないということなのです。
役員が退職することは決まっていますが(債務の発生と給付の具体的な原因)、株主総会の決議によって定めるのは
- 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
- 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
とあり、その金額を合理的に算定することができるかの判定基準をクリアすることはできません。
したがって、株主総会の決議を経てない役員の退職金額は、「債務の確定した費用」とはならず、損金に認められないとなるのです。
下記リンク先の事例は、医療法人で、株式会社の株主総会・取締役会にあたる、社員総会・理事会の決議を経ないで支給した退職金が否認された事例です。
やった体は仮装・隠ぺいを疑われるかも
株主総会の決議を経てない役員退職金は、否認される根拠となることは上記の通りですが、株主総会や取締役会を実際を開催してないのに、開催した体にして役員退職金を支給することも仮装・隠ぺいを採っ割れる可能性があります。
開催した体とは、株主総会や取締役会の議事録を作って、開催した証拠とすることです。
実際は開催してないのですから、その書類があること自体、捏造ということになります。
その場合、重加算税が課せられる可能性も出てきます。
退職金は大きなお金が動きます。
これを否認されればダメージは甚大です。
否認されないように、
- 株主総会や取締役会は実際に開く
- その際、議事録は必ず残す
といことは、絶対に必要です。
税務調査に備えて役員退職金規程を作っておくこと
役員退職金を否認されないためには、「役員退職金規程」を導入しておくことも大切なポイントです。
役員退職金規程がある場合のメリット
役員退職金規程があることで、明確な支給基準が打ち出させます。
そのことにより
- 支給する退職金額をスピーディに計算できる
- 支給金額の根拠とすることができる
といったことが挙げられます。
とくに税務調査対策としては、支給金額の根拠とすることができることは意味があります。
役員いよる「お手盛り」を疑われなくなるためです。
役員退職金規程がない場合のデメリット
その一方、役員退職金規定がないと
- 支給金額を、退職役員ごとの功績や習慣を元に決めなくてはいけなくなり、手間ががかかる
- 税務調査で「お手盛り」を疑われかねない
- 株主からの不信感や不満感を生み出しやすい
要するに、役員退職金の支払い基準がないため、事務処理も滞るうえに、「何を基準に誰が決定したか」もわからず、株主からも税務調査からも問題になりやすいということです(それこそがお手盛りを疑われるということです)。
規定がなくても退職金は支給できますが、ないことの弊害は大きく、とくに税務調査が絡めば、支給金額の根底を覆しかねないことにもなるのです。
税務署や株主からいらぬ突っ込みをされないためにも、役員退職金規程は作っておきましょう。
まとめ
役員退職金を支給するためには、会社法上でも株主総会の決議が必要なことは決められていますが、税務上では、株主総会の決議を経ないと、「債務が確定した費用」とはならず、その結果、法人税法第22条第3項第2号の規定により、損金に認められなくなります。
ですから決められた手続きは、しっかり行わないといけません。
株主=経営者がほとんどの中小企業では、面倒という理由で、株主総会・取締役会をやった体で済ましてしまうこともあるかもしれません。
しかしそれでは済まないのが、税金の世界です。
繰り返しますが、役員退職金は支給額が大きいだけに、否認されたときのダメージは甚大です。
後で泣きをみないよう、面倒でもルールは守りましょう。
株主総会で役員報酬を決定・変更する手順は下記記事をご覧ください↓
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