連帯保証人がお亡くなりになったとき債務控除が認められる3つの条件とは?

相続対策 連帯保証人対策

相続税を計算する際、被相続人(お亡くなりになった人)の借入は、債務控除といって、相続財産から引くことができます。

しかし、被相続人がいわゆる連帯保証人として保証していた額は、借金と同質のもながら、一定の条件が整わないと債務控除することはできません。

連帯保証人は、主たる債務者と同等の責任を負う契約ですが、だからといって、債務控除までは同じように取り扱われないのです。

その結果、社長が会社の債務の連帯保証人になった状態でお亡くなりになると、相続税が増える可能性が出てきます。

の一方で、連帯保証していた金額が、債務控除される例も存在します。

この記事では、どのような条件が整えば、連帯保証人としての債務が債務控除されるかについて、事例をもとに解説していきます。

債務控除とは

被相続人が持つ財産の中には、土地、建物、現金、有価証券などのプラスの財産以外に、借金などの負の財産もあります。

この負の財産は、プラスの相続財産から引くことができます。

これを「債務控除」といいます。

債務控除が大きいほど相続税の課税対象となる財産は小さくなりますので、連帯保証人がお亡くなりになったとき、ご遺族はその保証債務を債務控除したいと考えるでしょう。

しかし、保証債務は「連帯保証人だった」というだけでは認められてないのです。

債務控除が認められる3つの条件

相続税法13条1項には、相続または遺贈により取得した財産で、その中から相続税の対象となる価額は、

  • 被相続人の債務で
  • 相続開始前にすでに存在するもの

を控除(引いた)した後の金額と定められています(つまり債務控除のことです)。

ただし、債務なら何でも控除になるかといえばそうではなく、

「控除できる債務は確実と認められるものに限る」

とされてます(相続税法14条)。

(債務控除)
相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。

相続税法13条

前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。

相続税法14条

保証債務が「債務控除」できる理由とは

保証債務とは、主たる債務者が債務を返済できないときに、それに代わって債務を返済する契約です。

しかし、保証した債務の返済が履行されるかどうかは決まっていません。

したがって、相続税法14条のいうところの、「確実と認められる債務」とはいえず、本来は「債務控除」の対象とはならないのです。

ただし、相続開始時において、

  1. 主たる債務者が返済不能状態にある
  2. 保証人がその債務を弁済しなくてはならない
  3. 保証人が代位弁済した金額を主たる債務者に請求しても返済の見込みがない

というときは、確実な債務となり、「債務控除」することができるとされています。

要するに、保証人として代わりに支払った金額が、どうにもこうにも返済見込みがないときは、債務控除の対象になるということです。

さらに、保証人には、1人でなく2人や3人の複数で保証することがありますが、この場合も上記と同じく

  1. 保証人に返済能力がない
  2. その保証人の保証した部分の返済をしなくてはいけない
  3. その金額を保証人に請求しても返済見込みがない

というときは、その負担しなくてはいけない金額を、「債務控除」することが認められています。

「債務控除」が認められる「返済不能状態」とは?

では、「債務控除」が認められる「返済不能状態」とは、どのような状態をいうのでしょう?

それは、主たる債務者、または保証人が

  • 破産、和議、会社更生あるいは強制執行等の手続開始を受けている。
  • 事業閉鎖、行方不明、刑の執行により債務超過の状態が相当期間継続し、他から融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たないなどの事情により、事実上債権の回収ができない状態にあることが客観的に認められる。

といった状態にあるかで判断されます。

保証人が複数いる場合の「債務控除額」はいくらになる?

保証人が複数いる場合の債務控除は、連帯保証人間で保証額が定まっていない場合は、平等の割合(保証人の人数)で負担する金額が決まります。

※保証人が4人の場合、1/4ずつ

また、保証人と物上保証人いる場合にも、民法501条ただし書き第5号において、保証人と物上保証人との間にあっても、単純に頭数に応じて代位すると規定されていることから、その負担部分は平等であるとされています。

保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。

民法債権 第501条【弁済による代位の効果】

債務控除が認められた事例

では事例を見ていきます。

状況はこうです。

まず、P社という会社があり、その会社がR銀行からお金を借りていました。

債務控除が認められた事例(国税不服審判所)

この債務の保証人となったのは

  1. 被相続人
  2. 被相続人の娘
  3. Sという人物

の3人でした。

そしてP社は、地方裁判所に特別清算手続きの開始を申し立て、裁判所よりその開始の決定がされていました。

つまり、実質返済不能状態です。

さらに、連帯保証人のSは、別件で損害賠償で訴えられ、その示談契約によって、Sの全財産から支払われる約束がされていて、なおかつ、職も辞した状態のいわゆる無職で、収入が途絶えていました。

このような状況で、被相続人の保証債務が債務控除できるかが国税不服審判所で争われた事例です。

P社の連帯保証について債務控除できるか

最初はP社の連帯保証です。

主たる債務者の保証債務を債務控除するための条件は、先述した通り次の3つです。

  1. 主たる債務者が返済不能状態にある
  2. 保証人がその債務を弁済しなくてはならない
  3. 保証人が代位弁済した金額を主たる債務者に請求しても返済の見込みがない

この点P社は

  1. 相続開始時において、すでに特別清算手続が開始されていて、借入金債務の全額を返済することができない。
  2. 連帯保証人が、早晩、借入金債務をP社に代わって返済しなければならない状況にあった。
  3. 保証人が代位弁済し、その金額をP社に請求しても返済できる状況にない。

という状態です。

つまり、債務控除の条件3つを満たしていることになります。

Sの保証債務分を債務控除できるか

次にSの保証分についてです。

保証人分の保証債務について債務控除できるためには

  1. 保証人に返済能力がない
  2. その保証人の保証した部分の返済をしなくてはいけない
  3. その金額を保証人に請求しても返済見込みがない

という条件が揃ってなくてはいけません。

ではSはどうかというと、すでに述べた通り

  1. 示談契約によって、損害賠償金の支払のためにSの全財産を充てるものとされていた。
  2. 職を懲戒処分により失しており、その後、その収入の途も絶たれていた。

という状況にあり、保証人に返済能力はなく、他の連帯保証人がSの分について弁済せねばならず、しかもSに保証分を請求しても返済の見込みはありません。

以上の事実から、被相続人がした連帯保証は、「債務控除できる」と認められました。

※あとはいくら債務控除できるかの問題になりますが、この記事は、「どういった場合に債務控除が認められるか?」の解説なので、ここではそのことには触れないでおきます。

詳しく知りたい方は、参照元の判例をお読みください。

債務控除が認められた事例(国税不服審判所)

債務控除は社長がお亡くなりになると起きる問題

連帯保証人のままお亡くなりになると、主たる債務者の状況によっては、その金額を相続財産から引けなくなります。

連帯保証人は、借りた人と同じ返済義務を負いますから、多額の保証(実質の借金)を抱えているのに、相続税が課せられるという現象が発生します。

社長は会社の借入の連帯保証人になっていることがほとんどですから、社長が連帯保証人のままお亡くなりになると、この問題が起こります。

ですから、割安な保険料で、万が一にが起こったときは、保証債務を返済できる生命保険に加入しておくことを検討すべきです。

社長は泣くことはありませんが、何も対策をしないでいると、大変なことになるのは残されたご家族です。

連帯保証人は怖い制度です。

まとめ

この記事は、被相続人が連帯保証人になっている場合、その保証額を借金として債務控除できるか?について解説してきました。

要するに、保証債務を債務控除するためには、確実と認められる債務、つまり、相続時点で債務が確定してないといけないということです。

たとえば、社長が経営している会社の連帯保証人になっている場合、社長がお亡くなりになったとしても、主たる債務者の会社が破綻したような状態でなければ、その時点で債務は確定しておらず、「債務控除はできない」となります。

連帯保証人を安易に考えると、とんでもないしっぺ返しがあります。

ご家族のためにも、しっかり対策をしておきたいところです。

連帯保証人の怖さを知りたい人は、下記記事をご覧ください↓

関連記事

この記事へのコメントはありません。

マニュアル・書籍


最近の記事

  1. 最高裁の判例から考える誤魔化しの残業代は通用しない時代

  2. 就業規則にない事由で従業員を懲戒処分にはできない

  3. 髭や金髪はあり?!社員の身だしなみはどこまで制限できるか?

  4. 業務命令を拒否する社員を業務命令に従わせることはできるか?

  5. 定められた手続きを踏まない36協定は無効になる

  6. 能力のない社員を解雇できるか?判例から読み解く解雇前に必要な準備

  7. 連帯保証解除に無借金と節税が「妨げ」になる理由

  8. 自宅謹慎を命じた社員の「謹慎中の賃金」は支払わなくてはいけないか?…

  9. 懲戒解雇・競業避止で社員の退職金は減額・不支給にできるか?

  10. 不祥事を起こした社員の退職金は損害賠償と「相殺」できるか?