社長所有の土地建物を売却して保証債務を返済したときの特例を受けられる要件とは?

社長は会社の借入の保証人になることがありますが、社長が個人資産を売却して会社の債務を返済した場合、その譲渡益が「なかったこと」にされる特例があります(所得税法64条2項)。

たとえば、3,000万円の保証債務を会社に代わって返済する場合です。

このとき、社長個人の土地を3,000万円で売って返済原資にした場合、所得価格との差額に「譲渡益」が発生します。

・売却代金-取得価格+譲渡費用=売却益

保証債務を返済したうえ、さらに税金が発生してはたまったもんではございませんが、要件を満たせば、譲渡益がなかったことにされる所得税法64条2項の特例を受けることができます。

では、この特例を受けるための要件とはどのようなものでしょうか?

判例から探っていきます。

所得税法第64条2項の所得計算の特例を受けるためのポイント

所得税法第64条2項を簡単にいうと、保証した債務を代わって返済するために、土地や建物などの個人資産を売った場合、その所得が「なったもの」として取り扱われる特例です。

ただし、この特例を受けるためには、まず、保証債務を主たる債務者に代わって返済した行為(これを「保証債務の履行」といいます)をした事実がなくてはいけません。

「保証債務の履行」にあてはまるものとは、具体的には次の4つをいいます。

  1. 保証人、連帯保証人として債務を弁済した場合
  2. 連帯債務者として他の連帯債務者の債務を弁済した場合
  3. 身元保証人として債務を弁済した場合
  4. 他人の債務を担保するために、抵当権などを設定した人がその債務を弁済したり、抵当権などを実行された場合

つまり、単なる「借金の肩代わり」でなく、保証人、連帯保証人、連帯債務者、抵当権を実行されたなどの事実関係が必要ということです。

これが第一条件です。

そのうえで、次の3つの要件すべて満たさなくてはいけません。

  1. 本来の債務者が既に債務を弁済できない状態であるときに、債務の保証をしたものでないこと。
  2. 保証債務を履行するために土地建物などを売っていること。
  3. 履行をした債務の全額または一部の金額が、本来の債務者から回収できなくなったこと。

上記3番目の「回収できなくなった」とは、今はもちろん、将来にわたって債務が回収できないことをいいます。

たとえば、本来の債務者が破産していたり、失踪などして行方が分からない場合がこれにあたります。

そのため、本来の債務者に返済能力があるのに債権を回収しなかったときは、この特例を受けることはできません。

確定申告書等作成コーナーよくある質問 所得税法64条2項

以上を踏まえて事例を読むと理解が深まります。

関連法令

保証債務を履行するため資産(第33条第2項第1号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)の譲渡(同条第1項に規定する政令で定める行為を含む。)があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。

所得税法 第64条 資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例

この特例は、保証人になった人が自分の財産を売却したにもかかわらず、実質的にその売却によって得られる利益がないことなどを考慮して、例外的に認められたものです。

実例で理解する保証債務を返済したときの所得税法64条2項の特例の要件

ここからご紹介するのは、会社の債務を肩代わりして返済し、その際に返済のために売った土地が所得税法第64条2項の特例に該当するかどうか争われた事例です。

請求人(納税者で訴えた人)は、F社、J社、K社の元代表取締役(責任を取って辞任)でした。

負債を肩代わりした原因はF社の借金です。

F社の借入れの返済のために、グループ内のJ社、K社が銀行と信用金庫から融資を受け、そのお金をF社に貸して、F社は返済に充てるという図式です。

いわゆる、迂回融資です。

F社には返済資力がないため、金融機関から直接借りることはできず、やむなくグループ内の企業が資金を調達したというわけです。

しかし、このような一連の流れを行う中で、内部から指摘され、その責任を取る形で、当時代表取締役だった請求人が、個人の土地を売却して、J社、K社に借入を返済。

J社、K社は、その返済されたお金を、銀行と信用金庫の返えしました。

請求人は、この個々の返済に対し「保証債務をした」と主張し、国税は「保証した事実はない」と否認しました。

実際、請求人が個人で弁済したのは、2億5,000万円以上です。

その個人資産を失ったうえ、その譲渡益に所得税が発生するとなれば、たまったもんではありません(譲渡益がいくらかは不明)。

そこで、所得税第64条2項の特例を使って、譲渡益を「なかった」ものにしようとしたのですが、国税が認めなかったということです。

・個人所有の土地を売却して保証債務を返済したときの特例の適用で争われた事例

国税不服審判所の判断

では、国税不服審判所がどう判断したのか見ていきましょう。

この記事の趣旨は、所得税第64条2項の特例がどのようなケースで当てはめられるかを理解するためですので、すべての借入ではなく、代表的なものをピックアップします。

銀行からの債務

銀行からの借入は、F社に返済能力がないことから、

  • 債権者:銀行
  • 債務者:J社
  • 保証人:請求人

で借入れ、そのお金を元にJ社がF社に迂回融資したものです。

この借入形態は、結果からいうと特例は認められませんでした。

特例を受けるための要件は、

「保証した債務を代わって返済するために、土地や建物などの個人資産を売った場合」

です。

しかし、上記ケースの場合、請求人が保証人になったのは、「銀行→J社」の借入についてです。

「J社→F社」の借入の保証人にはなっていませんでした。

つまりこれは、請求人がF社の借金を肩代わりしただけであり、F社の債務整理のために資金を提供したに過ぎないことを意味します。

そのため国税不服審判所は

「保証債務を履行したとは認めらない」

として、この借入については

「特例は認められない」

と判断しました。

特例を受けるためには、「J社→F社」の借入の際の、F社の保証人になっていないといけなかったということです。

F社のK社に対する債務

F社はK社に借入の申し入れをする際、自社の振り出した小切手を担保にしようとしていました。

しかし、F社に返済能力がないことから、K社は借入に応じられないとしました。

そこで、請求人はF社の債務を担保する目的で、

  • 債権者:K社
  • 債務者:請求人
  • 抵当権設定者:請求人

という金銭消費貸借契約書を交わし、K社は、この債権を保全するために、請求人が所有する土地と建物に抵当権を設定しました。

これについて国税不服審判所は、

「K社が、F社振出しの小切手を担保とする融資について、代表取締役である請求人に保証を求め、請求人は、この要請に応じて請求人所有の土地建物に抵当権を設定し、F社の債務について物上保証をしたものと認められる」

としました。

これはつまり、

  • 請求人が所有する土地建物に抵当権を設定して物上保証をしていること
  • 本件譲渡前に保証債務の履行義務が具体的に確定しており、その履行をしなければならない状況にあったこと
  • 保証債務を履行するために必要な資金の捻出を目的として本件譲渡をしたものであること
  • 本件譲渡代金をもって当該保証債務を履行して債務を消滅させたこと

という事実関係から、

「請求人が、本件譲渡代金からK社に支払った借入金については、本件特例が適用できると判断するのが相当である」

としました。

信用金庫からのF社の債務

信用金庫からの借入れについては、F社が信用金庫から手形借入れをする形で行われました。

その際、請求人とWという人物の2人で、共同保証人になっていました。

この点につき、請求人は特例を受ける要件を満たしていました。

さらにWからは、Wが所有する不動産が担保に提供されていました。

この債務については、請求人が自身が所有する土地建物を売却することで信用金庫に弁済しました。

その一方で、土地と建物を馬脚した代金で保証債務を返済した請求人には、共同保証人のWに対する求償権が存在します。

しかしながらWは

  • 所有する不動産に、債務者F社とする根抵当権が設定され実際に差押えられている
  • その不動産は、相続税評価額を大幅に上回る抵当権が設定されている
  • Wは夫Nの配偶者控除の対象

という状況にあり、「債務超過の著しい状態」にありました。

この状態では、請求人が求償権を実行したとして、Wに返済能力はありません。

そのため、

「請求人が信用金庫に支払った借入金については特例の適用を認めるべき」

と判断しました。

特例を受けるためにはきちんとした手順を踏まなくてはいけない

以上のように、所得税法第64条2項の特例を受けられるかは、まず「保証債務をしているか」が要件になります。

実際に保証人なっていなければ、事例にもあるように、「単に借金を肩代わりしただけ」と扱われてしまいます。

グループ内の貸し借りといことで、そのあたりの手続きを省いてしまったのかもしれませんが(あるいは自分が保証を被らないため?)、かえってそれが仇になった格好です。

お金の貸し借りは、自分が経営するグループ内でも、きちんとやっておかないといけないということです。

所得税法第64条2項の「所得がなかったものとする」部分の金額とは

ちなみに、所得税法第64条2項の「所得がなかったものとする」部分の金額は、次の3つのうち一番低い金額となります。

  1. 肩代りをした債務のうち、回収できなくなった金額
  2. 保証債務を履行した人のその年の総所得金額等の合計額
  3. 売った土地建物などの譲渡益の額

特例を受けるための手続

この特例を受けるためには、その旨記載した確定申告をすることが必要になります。

  • 保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書
  • 保証債務の事実が分かる書類
  • 求償権が行使不能であるということを証する書類

まとめ

この記事では、所得税法第64条2項の特例を受けるための要件について、事例と共に解説してきました。

社長は会社の借入の連帯保証になることを銀行から求められますので、もし万が一、自身の所有する土地や建物を売って弁済した場合、このような特例があることを知っておくのは大事です。

ちなみに、会社再建の途上でこの特例を利用することは、事実上「困難」といわれていましたが、会社が存続していたとしても、一定の条件を満たせばこの規定が適用される場合があるとのことです。

保証債務の特例における求償権の行使不能に係る税務上の取扱いについて