パチンコ企業の非常勤役員の報酬が「過大」と否認された事例

役員報酬

この記事で紹介するのは、非常勤役員の報酬が職務内容に比べて「過大な報酬」にあたり、「損金にできない」とされた事例です。

役員報酬は、職務の対価として「適正な額」を超えて支払われた場合、たとえ「報酬」という名目であっても、実質は利益処分である「賞与」とみなされ、適正な額を超えた部分が損金にできなくなります。

非常勤役員であっても、例外なしにこの考え方が適用されます。

パチンコ店経営会社の非常勤役員の報酬が「過大」と否認された事例

非常勤役員の報酬を「過大」と否認されたポイント

この事例の非常勤役員の報酬が過大と否認されたポイントは、

  • 職務の対価に見合ってないこと
  • 同業の非常勤役員の報酬と比べ2.5倍~5.5倍高いこと

です。

これに対し、納税者側は経営に貢献していることや恩義的な意味でといった根拠を述べましたが、認められませんでした。

非常勤役員についてもっと詳しく知りたい方は下記リンク先の記事をご覧ください↓

パチンコ店経営会社の非常勤役員の報酬が「過大」と否認された事例

納税者側の主張

国税不服審判所に異議申し立てをしたのは、パチンコホールを営む同族会社(以下、パチンコ会社)です。

役員報酬が「過大」と指摘された非常勤役員は、H(死亡した役員の妻)、J(代表取締役の妻)、Kの3人です。

以下、納税者側の主張です。

  • 社員総会の決議によって定められた報酬として支給することができる金額の限度額以内。
  • パチンコ会社の従業員の給与支給額の多い上位4名と比較した場合に不相当に高額ではない。
  • 以前に税務調査を受けたときは、非常勤役員の報酬は指摘を受けなかった。
  • Hは、パチンコ会社に担保として個人資産を提供し、資金の運営に深く関与している。
  • Jは、従業員との接触が多いことから、諸般の動静及び状況について提言をしている。
  • 比較対象となる類似法人の抽出件数が少ない。

しかしこれら主張は、すべて認められませんでした。

関連法令

(役員給与の損金不算入)

内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

法人税法34条

役員報酬が「適正な対価」かどうかについては、法人税法34条で規定を設け、かつ法人税法施行令70条で、下記の2つの判断を定めています。

  1. 形式基準:定款の規定又は株主総会等の決議により定められている役員報酬として支給することができる金額の限度額の範囲内か。
  2. 実質基準:当該役員の職務の内容、その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められるか。

この2つの基準によって、不相当に高額の金額のうち、いずれか多い金額が損金の額に算入されないこととされています。

認定事実

関係者や調査によってわかった事実は次の通りです。

  • H及びJには、創業当時から苦労をかけていることから、会社が収益を上げられるようになったことを機に役員に就任してもらった。
  • Kは、取締役であった同人の夫が死亡した時に退職金を支払うことができなかったことから、退職金の代わりに報酬を支払うために取締役に就任してもらった
  • Hは資金面に深くかかわっている。
  • Jは近隣のパチンコ店の状況に精通し、従業員から相談を受ける機会も多く、会社の経営に関して代表にいろいろ助言をしている。
  • 役員報酬及び役員賞与は、社員総会において支給総額を決定しその範囲内で支給している。
  • Hら3人の非常勤役員は、業務執行権を有してない。
  • Hが所有する一筆の土地には、根抵当権者をd銀行とする根抵当が設定されている。

判定

形式基準について

先述した通り、役員報酬額が適正かどうかは、形式基準と実質基準の2つによって判定されます。

まず、形式基準については、

「社員総会の決議により報酬として支給することができる金額の限度額を超えていない」

として問題はありませんでした。

次は実質基準です。

実質基準について

実質基準の判断基準は

  1. 役員の職務内容
  2. 会社の収益の状況
  3. 従業員への給与の支給状況
  4. 同規模同業の役員の報酬との比較

で決まります。

1.役員の職務内容

【Hについて】

Hは、個人資産をパチンコ会社に提供し、資金面で深くかかわっているとの答述がありました。

これについて国税不服審判所は

「D銀行が根抵当をHの所有する土地に設定している事実はあるが、パチンコ会社との関係は不明」

「仮に、請求人(パチンコ会社のこと)のために自身の土地に根抵当権を設定していたとしても、担保提供に対する対価は役員の職務執行に対する対価ではない」

としました。

さらに、

「職務執行の事実については、請求人の主張も関係者の答述もない」

と、職務内容に信ぴょう性がないとしました。

【Jについて】

Jは、「近隣のパチンコ店の状況に精通し、従業員から相談を受ける機会も多く、会社の経営に関して代表にいろいろ助言をしている」との答述がありましたが、

これについて

「これらの事実を裏付ける証拠はない」

とパチンコ会社の主張を認めませんでした。

【Kについて】

Kについては、パチンコ会社の主張も関係者の証言もありませんでした。

≪判断≫

以上のことから、Hら3人の非常勤役員は

  • 具体的な職務執行の事実が上記のとおり不明確であること。
  • 業務執行権を有しない非常勤の取締役であること。
  • 役員就任の理由と経緯

を考えると、

「経営に深く関わってない」

としました。

2.会社の収益

会社の収益の状況は、基準期を100とすると

  • 115.6→100.2→107.2→109.4

と横ばいか少し伸びているくらいでした。

3.使用人に対する給料の支給の状況

使用人(従業員)に対する給料の支給状況は、基準期を100とすると

  • 104.9→104.0→106.4→104.1

とほとんど変わらない状況です。

これに対し非常勤役員の報酬は、基準期を100とすると

  • H:130.8→133.6
  • J:201.1→210.3
  • K:180.9→188.2

となり、売上高、売上総利益及び使用人給与と比較して相当高い伸び率となっていました。

4.類似法人の役員の報酬との比較

類似法人の非常勤役員の報酬との比較は、2.5倍~5.5倍と極めて高い報酬額でした。

ちなみに、類似法人の非常勤役員の報酬は、各事業年度ごとにみると、122万円、116万円、180万円でした。

総合判断

実質基準から判断して、

「その職務に対する対価として相当ではなく、それぞれ、類似法人の平均的な役員報酬額が相当であり、これを超える部分の金額は過大であると認められる」

となりました。

こうして、適正な部分を超える金額が、損金に認められなくなりました。

納税者の主張への反論

納税者側の主張についての反論は以下の通りでした。

主張①社員総会の決議によって定められた金額の限度額以内

A. 役員報酬が過大か否かは形式基準と実質基準との双方により判断するものであり、形式基準を超える金額はないものの、実質基準を超える金額がある。

主張②上位4名の給与支給額と比較した場合に、不相当に高額ではない

A.Hらはいずれも勤務形態が非常勤であることを考えれば、常勤である上位4名の給与支給額と本件役員報酬の額とを単に支給総額により比較することは相当ではない

主張③以前に税務調査を受けたときは、非常勤役員の報酬は指摘を受けなかった

更正処分は各事業年度において独立した処分であり、過去の事業年度の更正処分がなかったからといって本件各事業年度の更正処分が違法となるものではない。

主張④比較対象となる類似法人の抽出件数が少ない

件数か少ないからといって、直ちにこれらの類似法人を基に算定した役員報酬額の合理性が失われるとはいえず、類似法人は請求人と事業内容、規模等が類似している法人を合理的に選定したことが認められるから、これら類似法人を基に算定した役員報酬額の合理性に問題はないというべきである。

以上の通り、納税者側の主張はすべて認められませんでした。

どれだけ経営に寄与したか根拠が提示できなければ否認される

この事例では、最高954万円の役員報酬を受け取っていた非常勤役員の方がいたので、類似法人から比べると、「極めて高い」というのも頷けます。

もちろん、954万円受取っていたとしても、それに見合う職務の対価であれば、たとえ非常勤役員でも問題ないわけですが、事例ではそれを証明する根拠を提示できなかったということです。

なので、非常勤役員として、どれくらいの職務内容なら、いくらまでの報酬ならOKなのかは、この事例からはわかりませんが、ほぼ経営にタッチしないや、ほぼ出勤しない状態なら、年間180万円くらいなら指摘されずに済んだのではないかと推察します。

ちなみに、納税者の主張に、亡くなった役員(夫)の退職金代わりに、妻に役員になってもらい、多めの報酬を支払った、というのがありますが、それが報酬として問題ない金額かとはまったく別の話であるということは忘れてはいけません。

恩義と税務を混同すると、後でしっぺ返しを喰らいます。

まとめ

非常勤役員の報酬を高めに設定すると、否認される怖れが高くなります。

非常勤役員としての報酬の相場があるので、それを超えると目立つようになります。

もし高い報酬を非常勤役員に支払いたいなら、どれだけ経営に寄与しているか、その根拠を揃えておかなくてはいけません。

この記事が参考になれば幸いです。

社長の最適な役員報酬の決め方を知りたい方は下記リンク先記事をご覧ください↓

関連記事

この記事へのコメントはありません。

<無料コンテンツ>

<マニュアル>


最近の記事

  1. 最高裁の判例から考える誤魔化しの残業代は通用しない時代

  2. 就業規則にない事由で従業員を懲戒処分にはできない

  3. 髭や金髪はあり?!社員の身だしなみはどこまで制限できるか?

  4. 業務命令を拒否する社員を業務命令に従わせることはできるか?

  5. 定められた手続きを踏まない36協定は無効になる

  6. 能力のない社員を解雇できるか?判例から読み解く解雇前に必要な準備

  7. 連帯保証解除に無借金と節税が「妨げ」になる理由

  8. 自宅謹慎を命じた社員の「謹慎中の賃金」は支払わなくてはいけないか?…

  9. 懲戒解雇・競業避止で社員の退職金は減額・不支給にできるか?

  10. 不祥事を起こした社員の退職金は損害賠償と「相殺」できるか?