期の途中で役員報酬を下げたときの「業績悪化」が認められなかった事例

役員報酬 税務調査対策

役員報酬を期の途中で下げる場合、定期同額給与に当たらなくなるため、下げた部分の金額が「損金に計上できなくなる」の原則がです。

その一方で例外があり、会社の経営状態が著しく悪化し、やむを得ず役員報酬を減額した場合は、損金にすることができます。

この記事でご紹介するのは、マッサージを営む会社(以下、マッサージ会社)の社長が、業績悪化を理由に自身の役員報酬を減額したのに、それが認められなかった事例です。

事例は極端ではありますが、どのような「会社の状態」が「業績悪化」になるのか、どのようにして当てはめるか、国税や裁判所の考えを理解しておくには役立ちます。

業績悪化を理由に減額した役員報酬を否認された事例

業績悪化を理由に減額した役員報酬を否認されたポイント

すでに述べたように、役員報酬を期の途中で減額する場合、通常では減額した部分が損金にならなくなりますが、「経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情」があったときは、例外的に損金にすることができます。

問題はその「経営状況が著しく悪化した状態」がどのような状態をいうのかです。

その点につきこの事例では、

  • 役員報酬を減額しないとけいないほど、経営状況は悪化してない(著しい悪化に該当しない)

と判定されたことが、否認のポイントになっています。

結論からいってしまえば、経常利益が前年対比で6%下がったことで、役員報酬を下げる決定をしたわけですが、果たして6%の減少で、本気で「著しく悪化」したと思ったのはわかりませんが、そんな状態では認められないということです。

当然といえば当然です。

これが認められるなら、役員報酬で利益調整が簡単にできてしまいます。

もし期の途中で役員報酬を下げようと思った場合は、下記リンク先の記事が役立ちます↓

国税がいうところの「経営状態が著しく悪化」した状態をきちんと把握して、正式な手順で手続きを行うことが否認のリスクを下げることにつながります。

業績悪化を理由に減額した役員報酬を否認された事例

関係法令

内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)

法人税法34条第1項第1号

当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(第五項第二号において「業績悪化改定事由」という。)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限り、イ及びロに掲げる改定を除く。)

法人税施行令69条第1項ハ

令第69条第1項第1号ハ《定期同額給与の範囲等》に規定する「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する。

法人税基本通達9-2-13

役員報酬のように、支払う人の意思によって恣意的に金額を変えられるものを、安易に損金に認めてしまうと、利益調整や租税回避に利用されてしまいます。

そこで、課税の公平性を保つために、そのような恣意的な意思を排除する趣旨で、「定期同額給与」という損金にできる範囲を法人税法34条に定めています。

ただし、会社の経営状態が「著しく悪化」して、「やむを得ず」期の途中で役員報酬を減額する場合は、定期同額給与の条件を満たさなくても、損金に計上することができます。

したがって、「業績悪化の事由」について該当するかどうかは、「やむを得ず役員報酬を減額しないといけない理由があったか」が判定のポイントです。

そして、法人税基本通達9-2-13で、

「法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれないことに留意する」

と定め、ここでも「業績悪化」や「やむを得ない事情」を恣意的に使って、利益調整や租税回避をさせないように、規定が定められています。

期の途中で役員報酬額を変更したときは(上げるときも下げるときも)、下記リンク先記事をご覧ください↓

事実関係

役員報酬を減額した事実関係は以下の通りです。

  • 経常利益は前年対比94.2%だった。
  • 経常利益は下がったが、本件事業年度は売上高は過去もっとも多額で、なおかつ経常利益は過去2番目の多さだった。
  • 経常利益が前年実績に比して下回ったものの、マッサージ会社の業績を悪化させたと認められる特段の事情は生じていなかった。
  • マッサージ会社は前年の利益を上回ることを目標としており、経常利益が前年対比6%減少したことで、代表取締役の経営責任を示すという社長の申出により、株主総会で減額が決議された。
  • 役員の中で役員報酬を減額されたのは社長のみだった。

国税不服審判所の判断

上記事実関係からもわかりますが、経常利益が前年から比べて約6%しか落ちてないことから、

  • 前年対比94.2%と若干の下落があるものの著しい悪化というほどのものではないこと。
  • 本件事業年度は、前6事業年度に比べ、売上げは過去最高、経常利益も2番目に高く、前6事業年度に比べてそん色ないこと。
  • 取締役会で社長の申出により減額の決議がされた理由は、経営状態の悪化というより、目標を達成できなかったことへの経営責任だったこと。

という理由で、

「経常利益が対前年割合で6%減少したことのみをもって、経営の状況の著しい悪化や業績悪化が原因でやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情にあったと認めることはできない」

と判定しました。

こうして、法人税法施行令第69条第1項第1号ハに規定する「業績悪化改定事由には該当しない」とされ、役員報酬の減額分を損金に計上することは認められませんでした。

勝手な判断は通用しません

あえてまとめる必要もないと思いますが、単に売上げが下がった、利益が下がった、というだけでは、「経営状態が著しく悪化」したとはいえず、その結果、「やむを得ず役員報酬を下げる事情にはならない」とされました。

ちなみに、社長は

「国税は『著しく悪化』した状態の『具体的な判断基準』を示しておらず、それによって自分が業績悪化改定事由について判断したのだから、その判断は認められるべき」

と主張していました。

しかしこれについて国税不服審判所は、

「株主総会が開かれる前に、通達で公表しているし、それも国税のホームページでも閲覧できる。なおかつ、請求人(マッサージ会社)はこれを判断の材料にすることができる状況にあった」

とし、

「請求人の主張はその前提を誤るもの」

としました。

そしてダメ押しとばかりに、

「国税庁が法令に関して具体的な判断基準を示していなかったとしても、個々の納税者が法令の文言や趣旨から離れて独自の解釈や判断を行うことは許されない」

と、取り付く島もないほど、主張をはねつけました。

本当に経営責任を取るために役員報酬を下げたとしても、まずは顧問税理士の先生に聞いて、減額の手続きを進めるべきだった、としかいいようがないです。

まとめ

この事例は、経常利益が前年対比で約6%下がったために、その経営責任を取るため役員報酬を下げた、極端な例です。

判例を読むと、何か無理やり後でこじつけた感がしますが、あまりにも無茶振りだったのは明らかです。

役員給与に関するQ&A(平成 24 年4月改訂版)」によれば、「経営状態が著しく悪化」した状態とは

  • 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
  • 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
  • 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

という事例が挙げられています。

要するに、かなり切羽詰まった状態で、事例の経営状態とは、かなりかけ離れていることがわかります。

役員報酬を、業績悪化が理由で減額するときは、参考にしてみてください。

社長の最適な役員報酬の決め方を知りたい人は、下記リンク先記事をご覧ください↓

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