入院していた社長の役員報酬が「適正」と認められた判例

役員報酬 税務調査対策

この記事で紹介するのは、運送業と不動産賃貸業を営む社長の役員報酬が「高額でない」とされた判例です。

この社長の役員報酬の月額は、

  • 昭和60年頃~平成11年3月まで→150万円
  • 平成11年4月~平成13年3月まで→120万円
  • 平成13年4月~平成14年3月まで→88万円
  • 平成14年4月~→150万円(後に病気のため死亡)

と4年間という短期間で、アップダウンを繰り返していました。

税務調査で指摘されたのは、平成14年4月~の役員報酬150万円です。

この150万円が「不相当に高額な部分の金額」があると国税に否認され、その後、地裁で「適正の範囲」と認められた事例です。

社長の役員報酬が「適正」と認められたポイント

そもそも国税が社長の役員報酬が「高い」と指摘したのは、

  • 業績とは関係なく平成14年4月に大幅に役員報酬が増額されたこと(88万円→150万円)。
  • 社長は平成14年〇月から入退院を繰り返しており、報酬増額前と同じ職務を行うのは困難だったこと。
  • 社長の役員報酬増額について取締役会で決議された事実および時期が疑わしいこと。
  • 社長以外の役員報酬及び従業員給与は、横ばい又は減少していたにもかかわらず、社長の報酬のみが突出して増額されていること。

という理由からでした。※あくまで国税の主張です。

それに対し地裁は

  • 比較対象とする類似法人の役員報酬とそれほど違いがなかったこと。
  • 平成14年以前も入院しており、その際役員報酬は減額されてなかったこと。
  • 社長の役員報酬は、業績を参考にして決められていたこと。

という事実関係から、国税の主張を退け、社長の役員報酬を「適正の範囲」と判定しました。

社長の「最適」な役員報酬の決め方を知りたい人は、下記リンク先記事をご覧ください↓

社長の役員報酬が「高額でない」と認められた判例

背景

社長は、運送業と不動産賃貸業を営む会社の創業者で、代表取締役でした。

役員報酬の変動は冒頭に記載した通りで、平成14年に病気で入院し、その後お亡くなりなっています。

「不相当に高額な部分の金額」があると国税から指摘のは、入院した期の平成14年4月からの役員報酬150万円についてです。

裁判所の判断

役員報酬の増額に「合理的な理由」はあるか?

まずはじめに、社長の役員報酬が増額されたことについて、「合理的な理由」があるかが判定されました。

「合理的な理由」がなければ、社長が受け取った役員報酬に「不相当な高額な部分の金額」があったことが確定します。

では、その判定を見ていきましょう。

国税の主張①役員報酬が月額88万円から月額150万円に増額されたことついて

会社の業績を平成13年3月期と平成14年4月期を比べると、

  • 売上げ:5億8,000万円→3億6,000万円
  • 売上げ総利益:1億6,000万円→1億3,000万円

と業績は縮小しているにもかかわらず、役員報酬は増額されていました。

この点について、まず88万円に減額されたことに関しては

「食中毒事件関係での大口取引先との取引終了による売上減少とそれに伴うリストラにより従業員を削減したことの責任を明確にするためであった」

という事情がありました。

そして、役員報酬を月額150万円に増額したことについては、

  • 平成14年3月期末ころにはリストラは終了したこと。
  • 購入した賃貸用不動産による売上が約4千万円増加したこと。
  • 平成15年3月期も安定した不動産収入と運送収入の増加が見込まれていたこと。
  • 実際に平成15年3月期の売上高や売上総利益は増加し、申告所得も6,000万円を超えていたこと。
  • 役員報酬を120万円に下げた平成11年4月ころより利益は増え、赤字を解消し黒字に転換していたこと。

といった事実があったことからすれば、

「経営責任明確化のための報酬減額を解消して、直前の月額120万円に戻すのみならず、平成11年3月以前の月額150万円の報酬へ増額したとしても、業績の点からは必ずしも不合理であるということはできない」

としました。

国税の主張②・入退院を繰り返し、「入院前と同様の職務を遂行することは困難だった」ことについて

社長は入退院を繰り返していて、この点国税から「入院前と同様の職務を遂行することは困難だった」と指摘されていました。

それについて裁判所は

  • 平成14年に入院する以前も、手術のため入院し、その後入退院を繰り返していたが、病気を理由に役員報酬は下げられてない。
  • 平成14年の役員報酬増額を決めたのは2月か3月で、その時点で、社長の病気は判明しておらず、社長の職務復帰の可能性がないとはいえなかった。

とし、国税の主張は採用できないとしました。

国税の主張③報酬増額についての取締役会決議およびその時期について疑義がある点について

国税は、役員報酬の決定をした取締役会について、決議された事実とその開催時期について疑わしいとしていました。

しかし裁判所は、

「先述した通り、業績に基づく増額として一応理由がある」

「そのことからすれば、取締役会の決議態様やその時期をもって直ちに増額自体を不合理ということはできない」

としました。

国税の主張④社長の報酬のみが突出して増額されていることについて

国税は、社長以外の従業員の給与は、横ばいか減少しているのに、社長のみ役員報酬が突出して増額されていることについても指摘していました。

その主張に対しては、

  • 会社の業績が悪化した間も従業員給与や他の役員の報酬に大した変動もなく、社長の報酬のみが、会社の業績を強く反映して突出して減少していた。
  • そのことを考慮すれば、業績の好転見込みを反映して社長のみが報酬を増額されたとしても不合理ということはできない。

と、社長のみ増額されたことは不自然ではないとしました。

判定:役員報酬が増額されたことに合理的な理由がある

以上の①~④までのことから、

「平成14年に社長の役員報酬月額が増額されたことについて合理的理由がないということはできない」

と判断しました。

「不相当に高額な部分の金額」があるかの判定

後は、社長が受け取った役員報酬の月額150万円が「不相当に高額な部分の金額」があったかどうかの判定になります。

そこで、国税が抽出してきた比較対象となる企業から、適正役員報酬額を算出しました。

その額は、「136万7,690円」でした。

不相当に高い部分の金額とは、適正役員報酬額に比べ約1割程度高いだけでした。

総合判定

上記の結果を踏まえて裁判長は、

  • 社長の役員報酬月額150万円は、比準報酬月額からわずか1割程度高いだけであること。
  • 創業者として会社に対する社長の功績があることは明らかであること。
  • 増額された役員報酬月額は、平成11年3月以前の金額に戻ったにすぎないこと。
  • 増額されたことについて不合理ということはできないこと。

を挙げ、

「役員報酬に不相当に高額な部分があるということはできず、国税の主張は採用できない」

と判定しました。

こうして、社長の役員報酬150万円は「適正の範囲」と判断されました。

役員報酬が高くても「合理的な理由」があれば認められる

ちなみにこの事例では、社長の死亡退職金も「不相当に高額」と国税から否認されていました。

そのため、適正役員報酬額に比べ1割程度しか高くない金額を、否認されたものと思われます。

いずれにしても一ついえることは、「合理的な理由がある」ことが重要ということです。

なぜその結果に至ったのか、それを第三者が納得できる根拠があるかどうかです。

この事例でいえば、たとえば、入退院を繰り返す役員に対して役員報酬を上げる根拠は何か?これを説明できる理由です(これについての回答は「国税の主張②」をお読みください)。

これに第三者を納得させる理由があれば、認められる根拠を積み上げられます(事例では裁判になってしまっていますが、最終的に主張を認めてもらえる要素になります)。

「合理的な理由」とは、取って付けたような理屈から生まれるものではありませんが、自分が「正しい」と思うなら、しっかり主張しましょう。

まとめ

別の記事でも取締役員が入退院を繰り返し、そのときに受取った役員報酬が適正かどうか争われた事例をご紹介しました。

その事例でも、「実態が伴っていた」ことが認められ、役員報酬は「適正」と判断されました。

国税と見解がもめてしまったら、国税不服審判所や裁判で白黒つけることになりますが、それでも、事例のようにきちんとした理由、つまり合理的な理由があれば、裁判で認められます。

「役員報酬が高いのでは?」と指摘されたら、しっかり納得できる理由を説明しましょう(もちろん証拠付きが望ましい)。

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