国税に「高額」と否認された取締役会長の役員報酬が「適正」と認められた理由

この記事で紹介するのは、長期入院していた取締役会長の役員報酬が、税務調査で「不相当に高額」と指摘されて、その後の国税不服審判所の裁決で「適正」と認められた事例です。

国税の否認の理由としては、長期入院が続いていため、取締役会長(以下、会長)は常勤役員ではなく「非常勤役員」であるとしたことです。

非常勤役員は、報酬が低いというのが国税の認識ですから、会長に支払ったかなりの金額が「不相当に高額な部分の金額」と指摘されました。

しかし国税不服審判所の裁決は、非常勤役員ではなく、「常勤の取締役である」とし、その支給された役員報酬額を「適正」とたのです。

会長に支払った役員報酬が「適正」とされたポイント

会長の役員報酬が適正とされたポイントは

  • 長期入院はしていたが、経営に関わる判断を病室から部下に指示をしていた。

ことです。

つまり、常勤役員としての「実態があった」ということです。

国税の主張は、

  • 長期入院で継続して常勤役員の勤務ができる状態ではなかった
  • また、確定申告書に添付している「役員報酬手当等及び人件費の内訳書」の常勤・非常勤の別の表示欄において会長は非常勤である旨の表示がされていた
  • これらのことから、会長は非常勤役員である
  • したがって、平成〇年〇期~平成〇年〇期に支払った役員報酬は、職務の対価として高額である

というものでした。

それら国税の主張が、国税不服審判所の裁決で、180度ひっくり返ったのです。

長期入院していた取締役会長の役員報酬が「適正」と認められた事例

最適な役員報酬の決め方をこちらの記事で解説↓

取締役会長の役員報酬が「適正」と判定された事例

関係法令

《過大な役員報酬等の損金不算入》

内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

法人税法34条2項

《過大な役員報酬の額》

不相当に高額な部分の金額として、役員の職務の内容、その法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況に照らして、相当な金額を超える部分の金額の合計額と、定款等で支給限度額が定められている場合において役員に対して支給した報酬の額の合計額がその支給限度額を超える場合におけるその超える部分の金額との、いずれか多い金額である旨規定している。

法人施行法令70条

事実関係

会長は、建築工事の会社の創業者で、設立と同時に代表取締役社長になり、その後、取締役会長→取締相談役→取締役会長となりました。

しかし、平成〇年〇期に長期入院や退院の繰り返しが続くようになりました(その後死亡)。

問題となった役員報酬は、会長が入退院を繰り返していたときに支給されたものです。

以下は事実関係です。

  • 株主総会において、各事業年度の取締役全員に対する報酬限度額は、いずれの事業年度も〇円とすること、および各取締役の報酬の配分方法は取締役会に一任する旨決議されている。
  • 会長の役員報酬は、社長の55%程度。
  • 会長と社長と各役員の報酬との比較は、会長が100%、社長が約200%。
  • 社員の給料は平成〇年〇期~平成〇年〇期までの5年間で約126%伸びている。
  • 利益処分による配当が各事業年度に行われている。
  • 利益処分による賞与は、9年間のうち平成〇年〇期を除く8期で行われている。
  • 会長は自社が開催した、定時株主総会、臨時株主総会、取締役会の議事録に、出席した取締役として押印している。
  • 会長は、R銀行との「金銭消費貸借契約証書」と、S信用金庫との「限定保証約定書」にそれぞれ署名押印している。
  • 会長は、平成〇年12月26日に開催された自社の忘年会に出席している。
  • 会長は、入院時に業務用の名刺100枚を発注している。
  • 会長が入院いているときには、社長(会長の息子)、専務、部長、課長がよく面会に訪れていた。
  • 会長は社長らとの面会時、経営状態、人事の問題、社会情勢等について話をしていた。
  • 会社のことで、社長から報告、相談を受け、それに対して会長が指示を出していた。
  • 会長の入院時には、各社の役員が連日仕事の報告、相談に訪れていた。
  • 病院を外出して、頻繁に自社に来ていた。
  • 会社に来たときは、営業上の報告を聞き、指示をしていた。

国税不服審判所の判断

常勤役員か非常勤役員かについて

国税は、会長が入退院を繰り返し、常勤役員としての勤務でなく、実態は非常勤役員と指摘していました。

それに対し国税不服審判所は、事実関係から以下のように勤務状態を判定しました。

  • 会長が死亡するまでの間、入退院を繰り返しているが、役員報酬が増額された平成〇年〇期以降も、毎日ではないものの自社に出向いていた。
  • 会社に来たときは、業務に従事していた。
  • 会社の業務に関連することで、病院を外出していた。
  • 病室で会社の役員等から報告を受け、指示をしていた。

以上の事実関係から

「かなりの頻度で請求人の職務に従事していたと認めるのが相当である」

としました。

さらに、正規の手続により非常勤の取締役となった事実もないことから、

「会長は常勤の取締役である」

と判断しました。

それ以外にも、国税は

「確定申告書の添付書類において、会長は非常勤であるとの表示を行っている」

と主張していました。

この点についても、

「役員が非常勤役員となるか常勤役員となるかの判断をするに当たっては、役員の勤務状況の実態に基づいて判断すべき」

「確定申告書の添附書類の表示だけを基に当該役員が非常勤役員であるとするのは相当でない」

としました。

このように、会長の勤務実態から国税の主張は退けられ、「常勤役員であった」と認められました。

つまり、会長への役員報酬が高額であったかどうかの判定は、「常勤役員として」になるということです。

常勤役員の会長への役員報酬が高額であったかについて

関連法令にもありますが、役員報酬が過大かどうかの判定は、法人施行法令70条にて、次のいずれか多い金額である規定されています。

形式基準

定款等で支給限度額が定められている場合において役員に対して支給した報酬の額の合計額がその支給限度額を超える場合におけるその超える部分の金額

実質基準

役員の職務の内容、その法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況に照らして、相当な金額を超える部分の金額の合計額

事実関係で先述した通り、形式基準は満たしていることがわかりました。

後は、実質基準に照らして判定するのみとなります。

1.会長の職務内容
  • 会長は実質、常勤役員であった。
  • 業務内容は、営業、人事、資金調達等、業務全般に及んでおり、実質的には病気治療を始める以前とほぼ同様で、自社の経営に直接関与していたと認められる。

以上のこことから、

「その影響力は代表取締役に匹敵するほどであったと推認される」

としました。

2.建築工事会社の収益の状況
  • 平成〇年〇期以外の売上げと税引き前利益はほぼ一定。
  • 各事業年度で配当を行っている
  • 平成〇年〇期以外は全期賞与を支給している

以上のことから

「良好な経営状態であったと認められる」

としました。

3.役員報酬及び使用人に対する給与の支給の状況
  • 代表権を持たない会長に比べ現社長の役員報酬は1.8倍。
  • 役員報酬の額および使用人に対する給与の額を比較すると、役員報酬の額が平均で146%、使用人1人当たりの給与の額が126%となる。

それほどかい離してないことがうかがえます。

4.類似法人の役員報酬の支給の状況

国税不服審判所が、対象となる類似法人を次の基準で選びました。

  • 同じ税務署管内
  • 建設業を営んでいる
  • 売上げ規模が0.5倍以上2倍以内

その法人が常勤役員に支払っている役員報酬を調べたところ、会長と「ほぼ同額」であることがわかりました。

総合判断

以上のことから、会長への役員報酬額は

「職務の状況、収益の状況、各役員・従業員に対する報酬の支給状況、類似法人の役員に対する報酬の支給状況等に照らし判断すると、不相当に高額な部分の金額は認められない」

とし、国税の主張を退け、会長への役員報酬は「適正」と判断しました。

判定されるのは役員の「実態」

国税の主張では、入退院を繰り返して勤務実態がないことと、「確定申告書に添付している『役員報酬手当等及び人件費の内訳書』に非常勤役員と記されている」ことを理由に、「非常勤役員だ」とされていました。

しかし、事実関係から「実態は常勤役員と同じ」と判定されました。

つまり、たとえ書類上に非常勤役員と記されていようとも、実態が伴っていなければ、その判定自体覆るということです。

この事例に限らずですが、税務上の判定は「実態」で見られることを忘れてはいけません。

書類があるから、契約書があるから、というのは通らない話なのです。

逆にいえば、仮に書類上で「常勤役員」とされていても、実態が見合ってなければ、否認されてしまうということです。

下記リンク先の記事は、まさに「勤務実態が伴ってない」ことで否認された事例です↓

名前だけの役員は否認のリスクが高まります。

まとめ

この記事で紹介したのは、当初、国税から否認されたものが、国税不服審判所の裁決でひっくり返った事例です。

そのポイントになったのが、「実態が伴っていたこと」です。

大事なので繰り返しますが、税務上の判定は「実態」で決まります。

形式的な、書類を揃える、契約書を交わす、ということも大事ですが、業務をきちんと行っていたという、中身の伴った勤務実態も重要です。