【完全ガイド】外注費と給与の違いを徹底解説

業務委託契約

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消費税は10%になり、社会保険料の負担が会社の利益を圧迫する中、業務の一部を外注化することをお考えの企業も多くあるはずです。

しかし、そこで問題になるのが、税務上の「外注費」と「給与」の違いです。

「外注費」と「給与」の違いを理解しておかないと、税務調査で否認される可能性が高くなります。

「外注費」と「給与」を分ける2つの重要ポイント

発注元が委託先に支払ったお金が「外注費」に認められるには、受取った側(請負先や委託先)の所得が「事業所得」にならないといけません。

いい換えれば、外注先が受け取ったお金が、

  • 事業所得になるか?
  • 給与所得になるか?

によって、「外注費」か「給与」かが決まるということです。

「事業所得」と「給与所得」を分ける大きなポイントは次の2つです。

  1. 自分でリスクを負って得た収入かどうか?(自己の計算と危険において営まれる)
  2. その収入を得るために使用者との間に従属性はあったか?(従属性があったかの判断基準に、「指揮監督下にあったか?」「空間的・時間的拘束を受けたか?」があります)

上記の2つの質問対し、外注先が

  1. 自分でリスクを負っていた
  2. 発注先と従属性があったか

ことが認められるなら、外注先が受け取ったお金は事業所得となり、外注費が成立します。

その一方、外注先が受け取ったお金が

  1. リスクを負ってない
  2. 発注元と従属性はあった

となると、給与所得とされ、発注元は外注費を否認されます。

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事業所得と給与所得の定義

あらためてここで、事業所得と給与所得の法律上の定義を理解しておきましょう。

事業所得

事業所得とは農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。

所得税法第27条

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう

最高裁 昭和56年4月24日判決
給与所得

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

所得税法第28条

給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与所得者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。

最高裁 昭和56年4月24日判決

【注意点】最高裁の判断は「一応の基準」

ここで最高裁の「事業所得」と「給与」の定義を挙げましたが、あくまでこれは「判断の一応の基準」でしかありません。

後で述べますが、「事業所得」か「給与」かの判定は、総合的な状況を見て判断されます。

要は、事業所得の要素が多ければ事業所得となり、それとは逆に給与所得の要素が多ければ、給与所得になるということです。

そのため、「自己の計算と危険において」に当てはまれば必ず事業所得になるとはいえず、同じように従属関係にあれば給与所得になるともいえないのです。

たとえば、医大の教授に指導料名目で支払われたお金は、

  • 医療法人への指示・指導は、1か月に数回程度の訪問で行われていた。
  • これらの指示・指導さえも、電話で行われていたケースがある。

と、明らかに指揮監督下にある要素が希薄な場合でも、

その労務(指示・指導)にかかわる成果や、不利益になることがなかった、つまりリスクを負ってなかったという事情を「主要な判断」として、給与所得にされた事例もあります。

したがって、「自己の計算と危険において」も「従属関係があったか?」というのは、重要なポイントではありますが、あくまで「一つの判定要素」でしかないのです。

これを理解して以下を、引き続きお読みください。

とはいえ、具体的な基準がわからない・・・

前項で述べた、「外注費」か「給与」かの2つの判定ポイントの

「自分でリスクを負って得た収入かどうか?」が、事業所得の「自己の計算と危険において独立して営まれ」にあたり、

もう一方の

「その収入を得るために使用者の指揮監督下にあったかどうか?」が、給与所得の「指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に該当します。

しかしこれだけでは、基準があいまいでよくわかりません。

そこで、具体的な判定基準になるのが、消費税基本通達1-1-1です。

国税庁の判定基準は「消費税基本通達1-1-1」

消費税基本通達1-1-1とは、事業所得と給与所得の「具体的」な判定基準を表した条文です。

消費税基本通達1-1-1

事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。

(1)その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。

(2)役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。

(3)まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。

(4)役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。 

消費税基本通達1-1-1

下記リンク先の記事でもわかりやすく解説しています↓

「外注費」は消費税の課税取引になる

なぜ消費税基本通達に、事業所得か給与所得かの判定基準が記載されているかというと、事業所得か給与所得かで消費税が課税されるかどうか決まるからです。

  • 事業所得→消費税の課税取引
  • 給与所得→消費税の非課税取引

課税仕入れ 

事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。

消費税法 第2条12

消費税は、売上げに対しての消費税と、仕入れに対しての消費税があります。

仕入れに、消費税の課税対象の取引多くあれば、その分、消費税の納税額は少なくなります。

<例>

100万円の売上げに対し50万円の課税仕入れがあった場合の、納めるべき消費税額は5万円です。

  • 100万円×10%=10万円
  • 50万円×10%=5万円
  • 10万円-5万円=5万円

それに対し、仕入れが課税取引にならなければ、納める消費税は増えてしまいます。

<例>

100万円の売上げに対し50万円の仕入れが課税取引に該当しなかった場合の、納めるべき消費税額は10万円です。

  • 100万円×10%=10万円
  • 10万円-0円=10万円

外注先が受け取ったお金が事業所得となれば、消費税の課税取引となり、消費税の節税になります。

それが給与所得となると、消費税の非課税取引になり、消費税の仕入れ控除ができないので、上記計算の通り消費税の納税額が増えてしまうというわけです。

だから、業務委託契約や請負契約を給与と否認されないように、消費税基本通達で示されている、「事業所得」か「給与」かの判定基準をしっかり理解しておく必要があります。

「事業所得」か「給与」かの4つの判定基準

それでは、消費税基本通達1-1-1にある、事業所得と給与を線引きするための、具体的判定基準について解説していきます。

この基準は4つありますが、「すべてに当てはまらないと事業所得にならない」とか、「1個でも該当すると給与所得になる」といったことにはなりません。

事業所得か給与所得かの判定は、フローチャートのようにYesかNoの流れで決まるのではなく、状況を総合的に見て判断されます。

下記リンク先ので「事業所得」と「給与所得」の違いを詳しく解説しています(記事後半です)。

  • 指揮監督下にないから給与所得にならない
  • 時間的・空間的に拘束してないから給与所得にならない

といった誤解をしていると、外注費を給与と否認される可能性が高くなります。

1.その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。

これは、外注先が第三者や自身が雇っている社員に、受託した仕事を代わってもらえることができるかどうかです。

代替性があるのが事業所得、ないのが給与所得です。

※代替性に限っていえば、そういうふうに判定されるということです。繰り返しますが、事業所得か給与所得かは、その他の要素との総合的な見地から判断されます。これから説明する2~4の判定基準も同様でです。

たとえば下記事例では、お弁当の販売員が、別の人に販売業務を代わることができなかった代替性が、給与所得と判定される要素の一つになっています。

雇用契約の成立する従業員の場合、給与の対価として提供するのが、自分の労働力で、会社が支払うのは雇用契約で約束した賃金です。

したがって、基本的に誰かに代わってもらうということができません。

その一方、業務委託や請負契約の場合、外注先は最終的に「完成品」を納品すれば良く、基本的に品質が水準以上であれば、その完成品を誰が作っても文句はいわれません(指名で契約してない限り)。

いわゆる下請けの下請け的な形になりますが、独立した事業者であれば、自分以外の第三者(会社も含む)に依頼できない方がおかしいでしょう。

そのため、受注した業務を第三者に依頼できる代替性は、事業所得か給与所得かの判定ポイントになるのです。

2.役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。

指揮監督を受けたかどうかの判定は、事業所得と給与所得を分ける大きな要素になります。

色分けとしては

  • 指揮監督を受けてない→事業所得
  • 指揮監督を受けた→給与所得

です。

指揮監督下にあったかどうかの具体的な判定ポイントは、

  • タイムカードや出勤簿で時間管理をされているか
  • 作業を進めるにあたって、使用者(元請け、依頼元)から業務の指示を受けていたか
  • 休憩時間や作業時間を指示されているか
  • 時間を元に賃金が決められているか

といったものがあります。

最初にお話しした通り、指揮監督下にあるかどうかは、リスクを負っていたかと同じくらい重要です。

指揮監督下にあると、給与所得の性格が強いとみられると考えておきましょう。

下記リンク先の事例は、お弁当販売員(アルバイト)の雇用主は誰かで争われた事例です。

この事例でのポイントは、お弁当の販売員の「帰属先」でした。

誰の帰属先にあるかで、「誰が支払った給与なのかが決まる」ということです。

そこで、アルバイト販売員が誰の「指揮監督下にあったか」が調べられ、それによって判断されました。

完全歩合制は事業所得と関係ない

ちなみに、報酬の支払い方が「完全歩合制」かどうかは、事業所得と給与所得かの判定要素にはなりません。

下記判例も、誰の指揮監督下にあったかが判定のポイントになりましたがですが、「出来高報酬」でも指揮監督下にあれば給与所得とされています。

もし、「出来高報酬」や「完全歩合制」だから、「給与にはならない」と考えているならアウトです。

歩合制自体、雇用契約を交わした社員との給与体系でありますから、それをもって雇用契約が成立しないとはいえないのです。

3.まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。

これは簡単にいうと「リスクを負っているか」ということです。

たとえば、ホームページの完成品で考えてみましょう。

雇用されている従業員は、ホームページを期日までに完成させなくても、お金を受け取ることができます(給与の支払いを求めることができる)。

これは従業員への給与の支払いが、ホームページの完成を条件としてないからです。

業務の完遂ではなく、雇用契約で支払いがは約束されています。

それに対し、独立した事業者の場合は、完成品の引き渡しが支払いの条件となります。

もし期日までに、ホームページを完成させて引き渡すことができなければ、代金を請求できないのが原則です。

仮に、事故等の不可抗力が「納品できない原因」だとしても、それこそ第三者に依頼してでも完成させて引き渡さないと、依頼主も支払ってくれません。

これを色分けすると

  • 商品が完成していないと請求できない→事業所得
  • 商品が完成していなくても請求できる→給与所得

となります。

「リスクを負う」ことも含まれる

注意しなくてはいけないのは、これは何も完成品の引き渡しだけが対象ではないことです。

この項の最初に「リスクを負っているかどうか」と書きましたが、

「まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても~」

が問いかけていることは、「外注先がリスクを負って得た収入か?」かも含まれてきます。

そのため、

  • 売掛金を回収できなかったときの負担
  • 赤字になったときの負担

なども、事業者(外注先)が負ってないと、給与所得とみなされる可能性があります。

事業所得の定義を思い出していただきたいのですが、事業所得とは「自己の計算と危険において」と書かれています。

独立して事業をしている人の感覚からすれば当たり前ですが、失敗や赤字の損失も、その責任を取るのは事業者です。

そのため、損失のリスクを負ってない業務委託契約や請負契約は、事業所得の前提が崩れてしまうことになり、雇用契約とされる可能性が高くなるのです。

実際に下記のキャバ嬢へ支払ったお金が給与と否認された事例では、キャバ嬢が

「お客に対する売掛金を回収する責任を負っていなかった」

ということが、給与と判定された要素の一つとなっています。

法人も含めてですが、業務委託契約や請負契約をフリーランスや個人事業主と交わすときは、外注先が赤字や失敗(賠償を含む)の損失などを負担することを条文に入れておくことをおすすめします。

4.役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。 

一般的に、仕事を受注した側は、その業務に使用する用具は自分たちで用意し、材料の仕入れも自分たちが仕入れます。

完成品を引き渡すわけですから、その仕入れ分も含めて価格が決まります。

これに対し給与で収入を得る人は、会社が準備した用具を使用し、会社が仕入れた材料などを使って業務を進めます。

これを色分けすると

  • 材料または用具を「外注先」が準備したものを使用している→事業所得
  • 材料または用具を「発注元」が準備したものを使用している→給与所得

となります。

ただし、一律に「発注元が準備したものを使っていると給与とされる」というわけではありません。

発注元の材料や用具を使用する「合理的な理由」があれば、事業所得とみなされる場合もあります。

下記リンク先の事例の場合、請負元から受取った収入を「給与」と主張して、「事業所得」と否認されたという、通常の逆パターンです。

この事例では、請負者(外注先)は、発注元が用意した材料や用具を使用して業務を行っていました。

ここまで説明してきた基準で考えると、「給与所得」とみられてもおかしくありません。

しかし国税不服審の裁決では、

  • 材料が多岐にわたるため、請負元が仕入れた方がコストが安くすむ
  • 用具は特殊なものが必要でないため、あえて請負元の用具を使用させていた

といった、「経済的」「合理的」な理由が存在していたため、

「請負元の材料や用具を使用させていたからといって、ただちに給与所得になるとはいえない」

としました。

業務の発注者の用具や材料を使用していたからといって、即座に給与とされるわけではないことは覚えておきましょう。

仕入れを含めて業務委託の報酬額は決まる

話がリスクのことと被りますが、仕入れという意味では、下記判例も参考になります。

この判例は、麻酔医が業務委託契約で受取ったお金を、「給与所得」と否認された事例ですが、この項で説明した「仕入れ」に係る部分も判定のポイントになっています。

どういうことかというと、麻酔医は

「業務委託の報酬は、麻酔薬やその他の医薬品など、手術に使用する経費分を引いて決められていた」、

すなわち「リスクを負っていた」と主張しました。

しかし裁判所は、麻酔医の主張を認めず、

「仕入れ分を引いた報酬だったとしても事業所得にあたらない」

と判断しました。

その理由は、

  • 手術の報酬は病院との契約で「定額」と決まっていた。
  • 麻酔医が仕入れ分を計算して手術の報酬を決めたわけではない。
  • 実質、絶対に赤字にならない仕組みになっていた。
  • これはリスクを負って得た収入とはいえない。

というものでした。

つまり何がいいたかいというと、自分で仕入れるということは、それを含めて報酬が決まるということです。

上記事例でいえば、手術の難易度や使用する薬剤の値段によって、手術の報酬が変動することだってあるでしょう。

にもかかわらず、手術はどんなケースでも「定額」で決められていました。

それゆえ裁判所は、

「そんな赤字の出ることのない収入は、事業者としてリスクを負っているとはいえない」

と判断したのです。

要するに、発注元が用意した材料を使っているということは、

「報酬を自分で決める権限がなかった」→「独立した事業者というより雇用関係に近い」

と判断されてもおかしくないのです。

一般的に仕事を受注する場合、必ず見積もりの提出があり、その見積もりを元に発注元は依頼するかを決めます。

そのプロセスがないということは、出来レースに近く、「事業所得というより給与所得の性格が濃い」と判断されやすくなるのです。

外注費と給与の判定に、なぜ「材料や用具の使用」があるかというと、上記のような理由もあります。

【重要事項】実態が伴っているかが超重要

「外注費」か「給与」かの判定は、「実態」が伴っていることが【超重要】です。

外注費の要件を満たす「契約書を交わしたから、否認されない」というのは大間違いです。

事実、調査で事業所得の実態が伴わないことがわかれば、契約書の内容如何を問わず、否認された事例はあります。

もちろん、業務委託や請負契約書も交わさず、自分の主張をいい張るのは論外ですが・・・。

たとえば下記リンク先の事例は、ホステスさんに「業務委託費」として支払っていた費用を、「給与」と否認された事例です。

この事例のお店側の主張は、

「ホステスへの報酬は広告費などの経費を除いた分を支払っている。これは自己の計算で危険を負担しているといえる」

とし、事業所得であることを主張しました。

しかし裁判所の調べでは、お店側が

「経費を引いて報酬を支払っている事実はうかがえない(証拠がない)」

と、実態が伴ってないことを理由に、

「自己の計算で危険を負担しているとはいえない」

と、お店側の主張を認めませんでした。

「委任契約」で受取る報酬は給与所得にならないか?

少し話は変わりますが、実態が伴っていることが必要という話の理解を深めるために、

「契約上の名目はどうであれ、給与所得は成立する」

というお話をさせてください。

たとえば、会社の役員は「雇用契約」ではなく、「委任契約」を会社と結んでいます。

では「委任契約」だからといって、役員が受取る報酬は給与所得にならないかといえばそんなことはありません。

契約の名目上は「委任契約」でも、役員の受取る報酬は、税法上の給与所得として扱われます。

このように、契約の名目が、

  • 委任契約
  • 請負契約
  • 業務委託契約

などであれ、実態として「雇用契約」が成立していれば、税務上は給与所得となるのです。

だからこそ、国税や税務署の税務調査で、外注費を給与と否認されないためには、実態の伴った契約である必要があります。

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社会保険料対策としての業務委託契約

業務委託契約や請負契約の場合、消費税対策のほかに、社会保険料対策の一面もあります。

外注先へ支払うお金は社会保険の対象になりませんので、社員との雇用契約を業務委託契約に切り替えて外注化するといった方法も行うことができます。

ただしその場合でも、業務委託契約や請負契約がきちんと成立しているかを、年金事務所から判定されることになります。

下記リンク先の記事は、厚生労働省が考える業務委託契約が成立する基準ですが、ほぼ政務上の定義と同じです。

つまり、税務上の業務委託契約が認められるなら、社会保険上の業務委託契約も認められるということです。

役員個人との「業務委託契約」は成立するか?

一般社員との雇用契約を切り替えて、あらためて業務委託契約を結ぶケースなら、これまで解説してきた外注費の要件を整えれば税務上問題はありません。

では、社長などの「役員」が、会社と業務委託契約を交わすのは問題ないか?といえば、そう簡単にはいきません。

個人事業主として業務を受注すると、否認される可能性が高くなります。

なぜ否認されるかは、下記リンク先の記事をご覧になっていただければわかります、役員と法人が業務委託契約を交わす場合は、個人事業主としてでなく、役員が法人を設立して、その法人との業務委託契約を交わすことをおすすめします(もちろん、フリーランスや個人事業主と交わす場合も、法人を設立してもらった方が安全です)。

実際に、会社の副社長として在籍しながら、在籍している会社と、副社長自身が設立していた会社が業務委託契約を交わし、それを業務委託費として認められた、下記リンク先の事例があります。

この事例は、当初国税から「虚偽の業務委託契約(通謀虚偽表示(民法第94条))」とされ、自身の会社が委託元の会社(副社長として在籍している会社)から受け取ったお金を「給与である」と否認されました。

しかし、後の国税不服審判所の裁決で、「業務委託契約」であることが認められたという事例です。

このように、在籍する会社の役員であっても、会社同士の業務委託契約なら、要件を満たせば認められます。

とはいえ、業務委託報酬は法人から役員報酬で受け取ることになりますので、そのままでは社会保険対策にはなりませんが・・・。

法人と契約すれば成立するわけでない

ただし、法人と契約すれば何でも外注費と認められるかといえば、そんなことはありません。

もし、「会社同士なら問題ない」としてしまえば、法人を使って業務委託契約をし、いくらでも租税回避ができてしまいます。

租税回避(そぜいかいひ)とは、合法な租税負担の軽減・排除のこと。主に税法や課税庁の意図しない方法で行われる点で節税と区別される。

ウィキペディア(Wikipedia)より

また税務署には、「行為否認の計算」という伝家の宝刀もあります。

行為否認の計算とは

節税のためある取引を行った場合、それが節税以外に目的がなく、かつあるべき取引から見て不合理極まりないようなものであった場合、税務署はその節税を広く否定することができる、というもの。

行為計算否認規定の怖さ~節税と税務調査~

そこで、支出した費用が経費として認められるには、

  • 業務と関連性があること。
  • 業務の遂行上必要であること。
  • 必要性の有無は納税者の主観的意図によらないこと。
  • 客観的にみて、通常かつ必要な経費と認識できること。

という条件をクリアしなくてはいけないとされています。

所得税法第37条に規定する必要経費に算入すべき金額は、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされている。

ある支出が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するというためには、それが納税者の営む業務との関連性及び業務遂行上の必要性という要件を満たすことを要するというべきであり、当該要件を満たすか否かは、納税者の主観的意図により決すべきではなく、客観的にみて、通常かつ必要な経費と認識することができるか否かにより判断するのが相当である。

したがって、ある一定の役務の提供に対して代金が支払われることを内容とする契約が締結されている場合であっても、提供される役務の価値を超えて代金が支払われ、これが所得を生ずべき業務について生じた費用でないと評価されれば、役務の価値を超えて支払われた部分は必要経費に算入されないことになる。

したがって、法人と業務委託契約を交わしたとしても、「その法人に委託するのが不自然」といった事実が認められれば、国税は外注費を否認することができます。

それゆえ、たとえ法人同士の業務委託や請負契約でも、

  • 不自然な業務の発注(わざわざ依頼する理由がない)
  • 外注先の会社に実態がない
  • 契約料金が相場に比べ非常に高い(または低い)

といったことがあれば、租税回避を疑われ、その事実が濃厚なら外注費として認められなくなります。

下記リンク先の記事は、個人事業主が代表を務める同族会社に、個人事業の業務を委託して「必要経費にならない」と否認された事例です。

個人事業主が同族会社へ業務委託する場合は、注意が必要です。

その反対に、下記リンク先の事例は、租税回避を税務署から疑われつつも、国税不服審判所の裁決で、納税者の主張が認められた事例です。

国税の主張は「給与」でしたが、審判所長の判断は「業務委託費」となりました。

納税者側の主張が認められたポイントは、

  • 業務委託費が恣意的に決められたものであるとはいえないこと
  • 会社が実在する会社で実際に運営されていたこと

の2つです。

事例に出てくる会社は、存在がかなり怪しいものがありますが、それでも親族が設立した会社との業務委託が認められた事例です。※発注元は歯科医院を経営する個人事業主です。

ですから、租税回避を疑われないように

  • 適正価格(相場価格)で取引をする
  • 価格を決めたプロセスを明確にする
  • 実体のない会社にしない
  • 発注する理由をしっかり整えておく

といったことが必要になります。

専門的な仕事だから「指揮監督下にない」は成立しない

良くある勘違いですが、「専門的な仕事だから、発注元の指揮監督下にはない」というのは成り立ちません。

たとえば、下記リンク先の事例です。

この事例では、大学の非常勤講師が、

「講義の内容は、専門分野における知識の提供で、その労務の内容は他に代わりのきくものでない(代替性がないということ)」

ことを理由に、

「大学側と従属的雇用関係になじまない(雇用関係にないということ)」

と、国税から給与所得と否認されたことへの反論をしました。

しかし裁判長は、

「国会議員の歳費や普通地方公共団体の議会の議員の報酬など可成り性質の異なるものも給与所得とされている」※つまり、高度な専門分野を取り扱う職業でも、受取る報酬は給与所得とされているケースもあるということです。

という例を挙げ、

「高度の専門性があるからといって、給与所得にはならないとはいえない」

と納税者の主張を認めませんでした。

このように、たとえば高難度の専門職だからといって、ただそれだけで独立性がある(指揮監督下にない)とはいえないのです。

専門職であっても、指揮監督下にあれば給与所得とみなされる可能性は高いです。

指揮監督下にあったのはどちらの企業か?

業務委託契約は、発注元→外注先という形態だけではありません。

中には、「出向」という形を取ることもあります。

法人同士で業務委託契約を交わし、一方が社員を出向させるという形態です。

たとえば下記リンク先の事例です。

上記事例は、医療法人と社会福祉法人が業務委託契約を結び、医療法人の社員を社会福祉法人に出向させるというものでした。

事例の場合、出向元の医療法人が出向先の社会福祉法人から受取ったのは「職員に対する給与だ」と訴えたのですが、国税不服審判所の裁決では、納税者(医療法人)の主張を認めず、業務委託契約で受取ったお金だと判定しました。

少しややこしいですが、出向元の医療法人が出向職員に支払ったのは給与になったということです。

ただこの裁判の争点は、医療法人と社会福祉法人の業務委託契約が成立しているかどうか?にありました。

仮に出向職員が出向先の社会福祉法人と雇用関係が成立していたとします。

その場合、たとえ両法人で業務委託契約を交わしていたとしても、出向先の社会福祉法人から、出向元の医療法人が受け取ったお金は、「給与」とみなされます。

それが「給与」でなく、「業務委託費」と否認された事例というわけです。

いい換えれば、出向先と出向職員に「雇用関係が成立しない」ようにしておけば、出向のような形態でも、業務委託契約と認められるということです。

では、何がポイントになったかというと、出向社員が出向先の「指揮監督下にあったかどうか?」です。

出向社員が出向先の指揮監督下にあれば、雇用契約が成立しているとみなされ、出向元が受け取ったお金は「給与」になります。

それに対し、出向社員が出向先の指揮監督下になければ、雇用契約は成立してないとみなされ、出向元が受け取ったお金は「業務委託費」となります(出向先は外注費となります)。

出向社員や派遣社員に支払ったお金が「給与」とされた事例

上記の逆パターンも存在します。

出向社員の場合

下記リンク先の事例は、出向社員に支払ったお金が「給与」とされた事例です。

先述した出向事例とは反対に、納税者は出向元から派遣されてきた出向社員に支払ったお金を「業務委託費」と主張しましたが、国税不服審判所の裁決で、「給与」と否認されてしまいました。

この事例の否認のポイントも、出向先の「指揮監督下にあった」ことです。

出向社員は出向元の社員ですが、出向先の指揮監督下にあると認められると、出向先との雇用関係にあるとなり、支払ったお金は「給与」とされてしまうのです。

ちなみに、消費税基本通達5-5-10には、

事業者の使用人が他の事業者に出向した場合において、その出向した使用人に対する給与を出向元事業者が支給することとしているため、出向先事業者が自己の負担すべき給与に相当する金額を出向元事業者に支出したときは、当該給与負担金の額は、当該出向先事業者におけるその出向者に対する給与として取り扱う

第9款 転籍、出向者に対する給与等

と定められていてます。

出向先が出向社員の給与の負担をしたら、消費税基本通達では給与とみなすということです。

派遣社員の場合

さらに、派遣会社が自社に登録した派遣労働者に支払ったお金を、「外注費」と主張していたのが「給与」と否認された事例もあります。

この事例は、派遣会社と派遣労働者の間に「雇用関係が成立していたか?」が争点でした。

事例の否認ポイントも、派遣労働者が「指揮監督下にあったのは派遣元か派遣先かのどちらか」でした。

上記事例は、派遣会社と派遣労働者の契約自体に、雇用契約を伺わせる文言があったので、納税者の訴えもかなりお粗末な内容ですが、何をもって指揮監督下にあるのかを知るには参考になります。

外注費にするには、「出向先(派遣先)」は「出向社員(派遣社員)」を管理しない

出向や派遣で業務委託契約を成立させるには、指揮監督を疑われないように、出向先や派遣先は、出向社員(派遣社員)に

「口出ししない」

ことを徹底しなくてはいけません。

出向社員(派遣社員)の管理は、出向元(派遣元)に一切任せないと、給与を疑われます。

出向先が管理しないことで、出向社員は出向先の「指揮監督下にない」と判断され、出向先・派遣先でも業務委託契約が成立します。

税務調査で否認されたときに発生する税金

会社が「外注費」として支払っていたものが、税務調査で「給与」と否認されると、次の税金が発生します。

源泉所得税

国内において居住者に対し給与や報酬・料金の支払いをする人は源泉徴収をしなければいけません。

そのため、外注費を給与と否認されると、その金額分の源泉徴収税が発生します。

たとえば月額20万円の給与の場合(※社会保険料は省略して計算)、源泉所得税は4,770円です(扶養0人の場合)。

しかし問題なのはここからです。

税務調査の指摘後に、外注先だった人から所得税を回収できないケースです。

連絡が取れなくなったり、支払いを拒否されたりすれば、その分の所得税を会社負担で支払わなくてはいけなくなります。

そうすると、源泉所得税4,770円に対して、会社が給与を支給したとみなされ、その額についても所得税が発生するのです。

(支払者が税額を負担する場合の税額計算)

221-1 法第221条第1項の規定により同項に規定する者から源泉徴収に係る所得税を徴収する場合において、その者がその徴収すべき税額を徴収していなかったときは、同項の規定により徴収すべき税額は、次により計算することとなることに留意する。(令2課個2-12、課法11-3、課審5-6改正)

法第221条《源泉徴収に係る所得税の徴収》関係

つまり、源泉所得税分4,770円を税引き後の手取りとみなし、所得税が計算されることになるのです。

<4,770円の所得税>

  • 税引き前の所得額を計算:4,770円÷(1-0.03063※源泉徴収税額表の乙欄の税率)=4,920円
  • 源泉所得税額:4,770円×3.06%=150円

したがって、外注先から源泉徴収税を回収できないときの収めるべき所得税額は、合計4,920円となります。

  • 20万円にかかる所得税:4,770円
  • 4,770円にかかる所得税:150円
  • 合計:4,770円+150円=4,920円

このように源泉徴収税が回収できないときは、余分な所得税が発生することも見逃してはいけません。

消費税

外注費は消費税の課税取引の対象になりますが、給与は消費税の非課税取引になります。

したがって、外注費の消費税分だけ納税が不足することになり、その額がそのまま追徴課税額となります。

上記例だと、納税額は24万円になります。

  • 20万円×12ヵ月×10%=24万円

税務調査で否認されたときのペナルティ

外注費を給与と否認されると、上記の税金のほかにペナルティが発生します。

税務調査は過去5年間を調査期間とされる場合が多いため、業務委託や請負契約などが長期間にわたると、数年間の追徴課税を受ける可能性があるため、その際の資金繰りのダメージはより大きくなります。

ですから、業務委託や請負契約を外注費で計上するには、給与と否認されないようしっかり対策をしておかなくてはいけません。

源泉所得税に課せられるペナルティ

追加納税

確定申告で届け出た納税額や修正申告の時に届け出た税額と、修正申告や更正処分によって算出された税額の差分

不納加算税

納付すべき税金の10%を課税。税務署から指摘される前に、自主的に納付した場合には5%。

延滞税

法定納期限の翌日から2月を経過する日まで 原則年7.3%(※年「7.3%」と「特定基準割合(注)+1%」のいずれか低い割合)。納期限の翌日から2月を経過した場合は原則 年14.6%(※年「14.6%」と「特定基準割合(注)+7.3%」のいずれか低い割合)。

消費税に課せられるペナルティ

追加納税

確定申告で届け出た納税額や修正申告の時に届け出た税額と、修正申告や更正処分によって算出された税額の差分

無申告加算税

正当な理由がなく、法定申告期限を過ぎて申告した場合は、通常の税額にさらにその15%を課税。税務署の調査を受ける前に、自主的に気付き申告をした場合は、無申告加算税は5%。

延滞税

法定納期限の翌日から2月を経過する日まで 原則年7.3%(※年「7.3%」と「特定基準割合(注)+1%」のいずれか低い割合)。納期限の翌日から2月を経過した場合は原則 年14.6%(※年「14.6%」と「特定基準割合(注)+7.3%」のいずれか低い割合)。

税務調査で否認されないための「具体的」な対策とは?

最後に、税務調査で「外注費」を「給与」と否認されないための、「具体的」対策をお伝えします。

それは、外注先に

  • 確定申告をしてもらう(開業・青色申告してもらうのが良い)。
  • その際は事業所得で申告してもらう。

というものです。

ここで重要になるのは、業務委託契約書などで、確定申告してもらうことを条件にしておくことです。

こうした発注者側の「意思表示」を明確にしておくことで、「外注先は従業員ではない」ことを

「発注元は認識していた」

と客観的証拠として残せます。

また、外注先にも雇用関係にはないことを、はっきり認識していただく大切な機会ともなります。

元従業員ならなおさらですし、もしトラブルに発展し場合にも、重要な証拠になります。

こうした、「給与所得者でない」ことを表す状況証拠を残しておくことで、否認のリスクを避けることができます。

業務委託契約の「怖い事実」とは?下記リンク先記事をお読みください↓

まとめ

ペナルティからもわかる通り、外注費を給与と否認されたら、それぞれの税金に、追加納税のほか、延滞税などの税金が発生します。

これが1年分ならまだしも、2年3年と積み重なると、ペナルティを含め納税額は大変なものになります。

逆にいえば、税務署にとってみればそれだけおいしい調査科目といえます。

そのため、外注費と計上されていれば、調査対象になる可能性が高くなります。

ですから、業務委託や請負契約で支払った費用は、間違いなく外注費で計上できるよう対策が必要なのです。

仮に否認されたとしたら、会社への資金繰りダメージは深刻になります。

まずは「外注費」と「給与」の違いを理解して、税務署に疑われないよう、契約書や実態の体制を整えておきましょう。

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