歯科医院(個人事業主)が親族の会社に支払った業務委託費が外注費に認められた事例

業務委託契約

この記事で紹介するのは、歯科医の院長(以下、院長)が、親族の経営する会社に業務委託で支払った外注費が、税務調査で否認され、その後、国税不服審判所で「必要経費にできる」と認められた事例です。

歯科医院が親族の会社に支払った業務委託費が外注費に認められた事例

リンク先の事例は、旅費交通費などのその他経費のことや、重加算税の処分についても争われていますが、ここでは「業務委託費が経費「外注費)に認められた」部分だけ抜粋してお話させていただきます。

ただ、この歯科医院は、身内を使って口裏合わせなどもしています。

にもかかわらず、院長が身内の会社に支払った業務委託費は外注費と認められました。

国税不服審が、何をもって必要経費と認めたのか参考になる事例です。

個人事業主が同族会社に外注することは

  • 医師(個人事業主)がMS法人に支払う外注費
  • 不動産オーナー(個人事業主)が不動産管理法人に支払う外注費

といったケースでありますので、事例を参考にして、否認されない対策をしておきましょう。

「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓

同族会社への業務委託契約が認められた事例

歯科医院の院長は、自身と自身の妻が取締役のいわゆる同族会社と、歯科医院の業務を委託する業務委託契約を交わし、以後、外注費を支払いました。

業務委託内容
  • クリニックの受付業務
  • クリニックの薬剤、材料、技工などの管理事務
  • クリニックの診療補助業務
  • クリニックの清掃、美化、販売促進に関する業務
  • クリニックの経理、税理、総務事務
  • クリニックの保険請求事務
  • コンサルティング業務

しかし、税務調査で否認され、業務委託費の一部を除く部分を「必要経費に認められない」とされました。

必要経費にできる「法令」の考え方

所得税法第37条に規定する必要経費に算入すべき金額は、総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされている。

ある支出が所得税法第37条第1項に規定する必要経費に該当するというためには、それが納税者の営む業務との関連性及び業務遂行上の必要性という要件を満たすことを要するというべきであり、当該要件を満たすか否かは、納税者の主観的意図により決すべきではなく、客観的にみて、通常かつ必要な経費と認識することができるか否かにより判断するのが相当である。

したがって、ある一定の役務の提供に対して代金が支払われることを内容とする契約が締結されている場合であっても、提供される役務の価値を超えて代金が支払われ、これが所得を生ずべき業務について生じた費用でないと評価されれば、役務の価値を超えて支払われた部分は必要経費に算入されないことになる。

これはつまり、支出した費用が

  • 業務と関係ない
  • 業務の遂行上の必要性を満たさない
  • 費用の支出の必要性が「客観的」に認められない

ときは、業務委託契約が交わされた場合であっても、「外注費に計上できなくなる(役務の価値を超えた部分)」ということです。

法人と交わした業務委託契約だからといって、無条件に認められるわけではないのです。

原処分庁の主張

原処分庁は、業務委託費を否認した理由として下記を挙げました。

  • 業務請負会社は、院長もしくは院長の妻が意のままに行うことを企図して設立された法人であり、その実質において、本件各委託契約を締結することにより、院長及び院長の親族である役員に対する報酬を支払うなどの利益の付け替えを前提とした会社である。
  • 契約金額について客観的または合理的な算定根拠等が明らかではなく、これらの金額は恣意的に決定されたものと認められる
  • 歯科医院の業務を遂行する上で、請負会社への業務委託を行う必要はなかった。

業務委託先の事実関係

業務請負会社の会計処理
  • 業務委託先の会社(以下、請負会社)からは、業務請負い内容についての見積もりが提出されている
  • 請負会社は法人税の申告をしている。
法人の活動実態
  • 法人市民税、法人事業税、消費税を納付した領収証書がある。
  • 消耗品代、備品代、車の修理代等の領収証がある。
  • 会計事務所等から請負会社への請求書がある。
  • 総会、セミナー等に院長の代理で出席したとする資料がある。
  • 請負会社が作成・管理・更新したとするホームページがある。
  • 請負会社が作成したとする歯科医師求人票がある。
  • 請負会社と社会保険労務士との打合せ資料がある。
  • 請負会社と従業員の保険加入についての手続等に関する書類がある。
  • 請負会社と従業員の労務管理に関する書類等がある。
院長、院長の父等の答述
院長の答述
  • 各委託費の具体的な算定について、積み上げ式で請負会社が算定しており、院長が、見積られた金額の妥当性を判断し、話合いの結果委託費を決定したものであり、契約当時は資料を基に検討したが、現在その資料は恐らく残っていない。
院長の父の答述(平成23年5月10日の答述)
  • 請負会社は、院長の節税のために、院長の妻が設立した法人であり、院長から名前を貸して欲しいと頼まれて、請負会社の代表取締役に就任した。
  • 請負会社の実態は全くなく、代表取締役としての業務は行っていないため、請負会社がどのような業務を行っているのかは、全く分からない。
  • 請負会社から役員報酬を一度も受領したことがない。
  • 毎月末に1か月分の領収証を院長へ送付しているが、内容は自己の生活費である電気、ガス、水道料金、タクシー代、スーパーの領収証等である。
院長の父の2回目の答述(平成24年2月24日)
  • 請負会社の取締役および社長を務め、当該取締役及び社長業務を誠実に遂行した。
  • 役員報酬を口座振込で受け取った。
  • 請負会社はしっかりと実体があった。

国税不服審判所の判断

国税不服審判所の判断委託費の妥当性について

本件委託費は、現存しない資料ではあるものの、資料に基づき、契約当事者間の話合いの結果により決定したというものであって、当審判所の調査によっても、これを否定するに足りる証拠がないことからすれば、本件委託費は、提供される役務の価値を超えて代金が支払われたものとまでの評価ができるものではない。

判断

院長が請負会社に支払った委託費は、その全額が事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。

原処分庁の主張についても、業務委託費は院長の主観的な判断あるいは恣意的に決定されているとまでは認められないから、原処分庁の主張は認められない。

院長の父親の答述が二転三転しているが、会社は事実関係の通り、実際に登記された会社であり、実際に運営されている会社と認められることから、法人としての実体があると認めるのが相当であり、院長の父の上記申述は上記判断を左右しない。

業務委託契約を認められるには、価格の根拠と決定プロセス

この事例のポイントとなったのは、

  1. 業務委託費が恣意的に決められたものであるとはいえないとされたこと
  2. 会社が実在する会社で実際に運営されていたこと

の2つです。

証拠資料もなくて怪しい部分はあったのですが、当事者間で話し合って決められた金額であり、また、それを覆すだけの証拠もなかった、ということで、業務委託費の正当性は認められました。

また、院長の父親の1回目の答述で「実態のない会」という証言を受けて、

「それが事実であるなら、業務委託費を必要経費にすることはできない」

としながらも、

実在する会社であることと、実際に運営されていた事実から、

「本件委託費は、提供される役務の価値を超えて代金が支払われたものとまでの評価ができるものではない」

として、国税の主張を認めませんでした。

このことからいえるのは、価格の根拠とそれを決めるプロセスが非常に重要だということです。

実体のない会社(登記はあっても運営されてないものも含む)を使って業務委託契約を装うことは言語道断ですが、実態のある会社でも、

  • 何を根拠に価格を決めたのか
  • 価格の決定プロセス

などは、証拠として残しておくことが、反論する場合に重要になります。

とくに、同族会社への外注費ならなおさらです。

事例からもわかる通り、恣意的に決められた価格では、第三者(つまり国税)から認めてもらうことはできないのです。

まとめ

今回の判例は、国税が負けた事例です。

逆にいえば、要件をきちんと押さえておけば、同族会社への業務委託でも認められるのです。

繰り返しますが、第一のポイントは、業務委託契約の価格に透明性があることです。

そして業務を委託した請負会社を、節税のためのみの会社と疑われないことです。

もし節税のためのみに存在する会社となれば、経費の必要性が根底から崩れ、つまり、「業務の遂行上必要な費用」とならなくなり、損金計上できる根拠を失ってしまいます。

同族会社は恣意的に動かせる分、より厳しくみられることは忘れないでおきたいところです。

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