出向契約で「業務委託契約」を成立させるには?出向社員との「雇用関係」がポイント

業務委託契約

前回の記事で、「出向社員に支払ったお金を「給与」と否認された事例」を紹介しましたが、その逆のパターンも存在します。

すなわち、出向社員に支払った「給与」を「業務委託契約」と否認された事例です。

このことから考えると、出向社員へのお金が、必ずしも「給与」になるわけではなく、要件さえ押さえておけば、業務委託契約として外注費に計上できるということです(出向元の場合)。

「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓

出向先から受取ったお金が「給与」ではなく「業務委託費」とされた事例

判例によるとことの成行きは次の通りです。

出向先から受取ったお金が「給与」ではなく「業務委託費」とされた事例

医療法人Aは、社会福祉法人Eと業務委託契約を交わし、医療法人Aの職員を社会福祉法人Eに出向させ、通所介護業務に従事させました。

※医療法人Aの理事長と社会福祉法人Eの理事長は同一人物で、グループ内の取引だと思われます。

この業務委託契約で、社会福祉法人Eから医療法人Aに支払われる月の料金は80万円でした。

消費税基本通達5-5-10には

事業者の使用人が他の事業者に出向した場合において、その出向者に対する給与を出向元事業者が支給することとしているため、出向先事業者が給与負担金を出向元事業者に支出したときは、当該給与負担金の額は、出向先事業者におけるその出向者に対する給与として取り扱う

第5節 役務の提供

とあり、この通達を根拠に、医療法人Aは社会福祉法人Eから受取ったお金を、「給与」と主張したのです。

しかし国税から、「業務委託契約により受取ったお金」と否認され、消費税法第2条でいうところの「譲渡資産」に当たるとし、消費税の課税取引とされたのです。

そこで、国税不服審判所で争うことになりました。

給与は消費税の課税取引になりませんから、この場合、社会福祉法人Eから受取ったお金を給与にして、消費税を抑えたかったのでしょう。

ですが、結果からいうと、国税不服審判所の裁決も、給与にはならず、業務委託契約で受取ったお金とし、医療法人Aの訴えを退けました。

医療法人Aと社会福祉法人Eが交わした業務委託契約の内容

  • 履行場所は、社会福祉法人Eの施設内
  • 業務内容は、生活相談、機能訓練及び介護
  • 業務時間は、月曜日から金曜日は8時40分から17時まで、土曜日は8時40分から正午までであり、業務を要しない日は日曜、祝日及び年末年始。
  • 業務責任者は、医療法人Aの総務課長J
  • 医療法人Aは、業務を遂行するに当たり、従業員を適正に配置し、指導監督を行い、仕様書に従い計画的に業務処理を行うものとする。
  • 契約料金の月額は、800,000円
  • 締切日を毎月20日とし、医療法人Aは社会福祉法人Eに業務完了報告書を直ちに提出し、社会福祉法人Eの確認印を受ける。
  • 当該締切日の月の末日までに請求書を提出し、その請求日の翌月末日までに医療法人Aの指定する銀行口座に振り込む。
  • 医療法人Aは本件業務の履行に当たり業務責任者を選任し、(1)医療法人Aの従業員の配置及び業務上の指揮命令 (2)医療法人Aの従業員の労務管理 (3)本契約業務の履行に関する社会福祉法人Eとの連絡及び調整 を行う。
  • 医療法人Aの従業員に対する雇用主として、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、職業安定法、社会保険諸法令その他従業員に対する法令上の責任をすべて負い、責任を持って労務管理を行うものとする。
  • 医療法人Aは、本件契約業務の処理中、医療法人Aの責に帰すべき事由により、社会福祉法人E若しくは第三者に与えた損害に対し、損害賠償の責を負うものとする。

出向元医療法人Aと出向職員との事実関係

  • 医療法人Aは、就業規則及び給与規程を定め、行政官庁に届け出ているが、当該就業規則には出向に関する規定はない。
  • 医療法人Aから出向してきた職員は、上記の業務委託契約にある勤務条件で業務に従事していた(出向職員は途中で増員された)。
  • 出向職員は、医療法人Aが雇用主だと認識している。
  • 出向職員への給与と賞与は、医療法人Aが給与規定に基づいて事務処理も行い、支払っている。
  • 本件職員に係る労働保険、健康保険等も医療法人Aが負担している。

出向と雇用関係についての定義

まず国税不服審判所の判断の前に、「出向と雇用関係についての定義」について理解しておく必要があります。

出向とは

出向者が、出向元との雇用関係を維持しつつ、出向先の指揮命令に服して就労する形態をいいます。

労使間の権利義務が、出向元と出向先の間で分割され、部分的に出向先に移転する(出向先に、労務指揮権が移転する)と解釈されています。

賃金について

賃金の支払い方法は

  1. 出向元が自らの基準で支払い、出向先が一部を負担する方法
  2. 出向先が自らの基準で支払い、出向元の基準を下回る場合に差額を出向先が補てんする方法

の2つがあります。

前者は出向元が引き続き賃金支払義務を負い、後者は出向先が賃金支払義務を負います。

この賃金支払義務の移転は、法的には「債務引受け」を意味するとされています。

出向者に支払ったお金は基本は「給与」

このように、出向者は、出向元と出向先の両方で、雇用関係に基づき勤務しています。

ですから、仮に出向先の事業者から、「負担金」といった別の名目で給与相当額が出向元に支払われたとしても、その負担金は、出向先事業者が出向者の労働に対する対価として支払ったものになり、それすなわち、その出向者に対して

ですから、仮に出向先の事業者から、「負担金」といった別の名目で給与相当額が出向元に支払われたとしても、その負担金は、出向先事業者が出向者の労働に対する対価として支払ったものになり、それすなわち、その出向者に対して支払った給与だろう、ということなのです。

これが冒頭でお話した、消費税基本通達5-5-10に定義されていることです。

しかし、この事例では通達は適用されず、業務委託契約とされてしまいました。

その理由は、出向元と出向社員との「雇用関係の有無」にありました。

国税不服審判所の判断

消費税基本通達5-5-10の適用があるか否かについては、その出向者とその労務の提供を受ける事業者との間の「雇用関係の有無」により判定されます。

その点について国税不服審の判断は次の通りでした。

お金について
  • 契約料金として月額800,000円を医療法人Aに支払う旨規定しているのみで、本件業務に従事させる職員の数も定められていない。
  • 医療法人Aは、業務を遂行するに当たり、従業員を適正に配置し、指導監督を行い、仕様書に従い計画的に業務処理を行うものとするとされていた。
  • 業務責任者は医療法人Aが選任していた。
  • 業務責任者に出向職員の配置や業務上の指揮命令および労務管理等を行わせることにしていた。
  • 出向職員に対する労働基準法、労働安全衛生法等の労働関係法規上の責任や秩序規律及び風紀の維持に対する責任も医療法人Aが負っていた。
  • 業務遂行上第三者に与えた損害は医療法人Aが負担する旨を定めていた。
総合判断

事実関係から、出向職員と社会福祉法人Eとの間には雇用関係及び業務上の指揮命令関係は存在せず、出向職員との雇用契約は、医療法人Aとの間のみに存在すると認められる。

消費税基本通達5-5-10が適用できるのは、社会福祉法人Eと出向職員との間で、別個の雇用関係が成立していた場合。

にもかかわらず、医療法人Aには就業規則に出向についての定めもなく、出向職員と社会福祉法人Eとの間で雇用契約を結んだ証拠書類もない。

また、出向職員は雇用主を医療法人Aと認識している。

出向職員は、本件業務委託契約の内容にそって業務に従事していた。

出向職員は途中で増員されたが、社会福祉法人Eの月の契約料金は80万円のまま。これは実質的に給与負担金でないことを意味している。

以上の通り、本件業務を出向によるものとみることはできない。

医療法人Aは、本件契約に基づき、委託された業務を自己の計算と危険において行い、その業務委託の対価として契約料金を受領しているものと認めるのが相当である。

出向における雇用関係を前提とした給与負担金とみることはできない。

したがって、請求人が社会福祉法人Eから受領したお金は、本件契約に基づき受領する医療法人Aの役務の提供に対する対価と認められ、消費税法上の課税資産の譲渡等に該当すると解するのが相当である。

出向で業務委託契約を成立させるには?

消費税基本通達5-5-10を適用するには、出向先と出向社員との間にも雇用関係が成立していることが要件となります。

この事例では、出向先との間には雇用関係は成立しておらず、出向元である医療法人Aのみと雇用関係が存在しているとして、「給与にならない」と否認されました。

ややこしい話ですが、まとめると、

  • 出向元の医療法人Aが出向職員に支払ったお金→出向職員に対する給与
  • 出向先の社会福祉法人Eが出向元の医療法人Aに支払ったお金(給与負担金)→業務委託費

となります。

その結果、医療法人Aが社会福祉法人Eから受け取ったお金(給与負担金)は、消費税の課税取引に該当することになったというわけです。

逆にいえば、出向先が出向社員に関与する契約や事実関係があれば、給与となります。

つまり、業務委託契約を成立させたければ、

「出向先が出向社員に関与する契約や事実関係を作ってはいけない」

ということです。

まとめ

出向社員に支払ったお金が給与になるかの判定は、「雇用契約が成立しているか?」にあります。

業務委託契約を成立させたければ、出向社員との雇用契約を成立させてはいけないのです。

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