マッサージ師に支払った「外注費」が「給与」と否認された事例です。
マッサージを提供する会社が、各マッサージ師と業務委託契約を交わし、そこで受取ったお金を、税務調査で「給与」と否認されました。
納税者はその処分を不服とし、国税不服審判所で争った結果、裁決は「外注費」とは認めず、「給与」とされてしまいました。
この事例では、売上げの70%をマッサージ師に支払う、いわゆる「出来高制」で報酬を支払っていましたが、その部分も見事に否定されています。
出来高制で業務委託契約をしている整体・治療院もあると思いますが、参考になる事例です。
・マッサージ師への外注費を給与と否認された例(平12.2.29裁決、裁決事例集No.59 372頁)
「事業所得」と「給与所得」の違いを理解する
最初に、事業所得と給与所得の違いを理解しておきましょう。
事業所得
自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得
給与所得
給料、賃金、賞与等その名目のいかんにかかわらず、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の提供の対価として使用者から支給されるもの
事業所得と給与所得の違いを踏まえて下記事例を読むと、何が否認のポイントかよくわかります。
マッサージ会社と各マッサージ師の業務委託契約書の内容
マッサージ会社と各マッサージ師の業務委託契約書は次の内容で結ばれていました。
- マッサージ師らはマッサージ会社の指示に従い、マッサージ会社のサービス向上を目的とした業務を誠実かつ健全に遂行しなければならない
- マッサージ会社は、マッサージ師が請求人の営業方針及び業務規則に従わない場合、契約を即時に解除することができる
- マッサージ業務における事故の責任は、すべてマッサージ会社が負う
- マッサージ師は、マッサージ会社により業務時間を定められる
- マッサージ業務はマッサージ会社の施設及び設備機器を使用して行い、マッサージ師は制服の貸与を受ける
マッサージ会社とマッサージ師の事実関係
マッサージ会社と各マッサージ師との事実関係は以下の通りです。
- マッサージ師の人員は22名であり、その内マッサージ師の免許を有している者は3名のみ。
- 業務委託料は、マッサージの技術、経験を基に、15分又は30分のクイックマッサージコース及び20分又は60分のベッドマッサージコースの4コースの施術内容別に定めていた。
- 各店舗のマッサージ会社所有の主な設備は、ベッド3台、マッサージ用椅子4台、レジスター1台がある
- 出張業務はない
- 支払は、15日締めの当月未払い及び月末締めの翌月15日払いの月2回。
- マッサージ師が、マッサージ会社の営業方針、および業務規則に従わない場合、契約をマッサージ会社側から即時解除することができた
- マッサージ師が、契約解除をする場合は、2週間前にマッサージ会社に通告し、これに反する時は、ペナルティーとして、業務委託料の2割を差し引くものとしていた
- マッサージ師の報酬は、実働時間との累積差額を皆勤・特別等の諸手当に割り振り、売上げの70パーセント相当額となるようにされていた。
- マッサージ業務に必要な費用(制服及びチラシに係る費用等)はマッサージ会社が負担していた。
- 業務時間は、早出、遅出出勤を隔日とし、早出出勤は午前9時30分に入店、清掃を行い、午後6時に業務を終了する。遅出出勤は午前12時までに入店し、午後8時に業務終了とする。閉店間際の店内の後始末は全員で行うとされていた。
- 服装は、ポロシャツを制服として店より貸与するが、ズボン、サンダルは各自で用意することとされていた。
- 食事休憩は、随時、手の空いた時間に取り、原則として、業務中の外出を禁じるとされていた。
- 平成9年8月の上・下期のマッサージ師各人に対する給与支払明細書には、マッサージ師名、コース別の時間、顧客数及び出来高金額に皆勤、特別手当等を加算した支給額が記載されていた。
- マッサージの施術は、来店した顧客が受付票に氏名及び希望するコースを記載し、これに基づき、シフト表により、コース別の時間を調整し、マッサージ師が順番制により割り振り、施術終了後に料金を受領し、受領額をレジスターに打ち込んでいた。
- F(※マッサージ会社の実質的代表者)がこのシフト表およびレジペーパーに基づき、売上日報及び総勘定元帳を作成していた。
納税者(※以下、マッサージ会社)の主張
マッサージ会社の主張は次の通りでした
- 手当の支給については、マッサージ師の合意で決定されるものであり、マッサージ会社およびFが関与、判断しているものではない。
- 現金収入の保管及び管理については、不祥事防止の観点から一番安全で、安心できるマッサージ会社の口座で管理することが最善との相互認識に基づき決定されたもの。
- マッサージ師がマッサージ業務に関して営業主体としての地位と身分を保有している独立人であることは、業務委託契約書の内容から明らか。
- 業務委託契約書はマッサージ業務が円滑に行われることを期待し、自覚と責任を明確にするための内部規定として、マッサージ師らの総意によって作成されたもの。
- 業務委託契約は、Fとマッサージ師が、直接交わしたもので、マッサージ会社と契約したものではない。したがって、マッサージ会社は、マッサージ業務に介入及び干渉できる余地を持たず、営業主体とはなり得ない。
- マッサージ師は、顧客に対する事故の責任を負い、マッサージ業務に関する宣伝企画等に参画していた。
以上のことから、マッサージ師が受け取った報酬は、自己の危険と計算において独立して営まれる場合に該当するので、事業所得になる、と主張しました。
国税不服審判所の判断
使用者の指揮命令に服していたかについて
- 営業時間、施術種目(コース)及び施術料金、出退勤時間等を含めた業務時間、服装、休憩及び業務上の心得等の業務規則が定められていた。
- 営業方針・業務規則に従わない場合にはマッサージ会社に契約解除権が認められていた。
- マッサージ師各人は、この定めに服して、マッサージ会社の賃借する施術所内において、請求人所有の設備備品を使用し、業務に従事していた。
- 出張業務はなく、マッサージ業務の遂行場所は請求人の賃借する施術所に限定されているた。
- 顧客が支払う施術代金は、マッサージ会社の口座に入金され、マッサージ会社が支配管理し、その後、各マッサージ師に対し、外注費を支払っていた。
判断
マッサージ師は、マッサージ会社の指揮監督ないし組織の支配に服して、場所的、時間的な拘束を受けて継続的に労務を提供し、マッサージ業務に当たり独自に費用を負担していないものと認められる。
よって、マッサージ会社とマッサージ師は雇用関係があるということができる。
なお、いわゆる出来高払制に基づいて報酬を支払っていた場合であっても、使用者の指揮命令によって労務を給付する以上、雇用関係があるというに妨げない。
自己の危険と計算において独立して営んでいるかについて
- 契約書の記載によれば、マッサージ業務における事故の責任は、マッサージ会社が負うものとされている。
- マッサージ業務の宣伝企画に、マッサージ師が参画しているとしても、このことのみをもって、独立した事業者であるということはできない。
- 施術所に在籍しているマッサージ師22名のうち、正規の資格があるのはわずか3名のみであり、大半が無資格のマッサージ師であると認められ、そのような者が事故における責任を負担して独立してマッサージ業を営んでいると解することは不合理。
判断
以上によれば、マッサージ師が自己の危険と計算において独立して営んでいるとはいえない。
総合判断
本件外注費は、マッサージ師に対する給与と認められる
出来高報酬だけでは業務委託契約とされない
この裁決では、たとえ出来高報酬であっても、使用者の指揮・命令下にあると認められる場合、給与所得になると判定しています。
出来高報酬をもって業務委託契約が成立するというのは勘違いです。
出来高報酬を採用する場合でも、委託先が請負い元の指揮命令下(空間的・時間的拘束)にあってはいけないのです。
また、業務を委託した先(この判例では各マッサージ師)が独立した事業者か判定する要素に、資格の有無を挙げていることも興味深いです。
この事例の判定では、無資格者がマッサージを行って事故が起こった場合、そもそも責任が負えないわけで、それなら独立した事業者とはいえないだろう、ということで、「自己の危険と計算において独立して営まれる」事業者とはいえないとしました。
ここからはわたしの解釈ですが、これはある意味、整体院・治療院のような業態の場合、有資格者でなければ「独立した事業者」とはいえない、ともいっているように思えます。
外注費か給与かの判定は、あくまで総合判断になりますが、それでも、事業所得の前提が、「自己の危険と計算において独立して営まれる」にあることをすれば、責任を負えない無資格者と交わした業務委託契約は危ういともいえます。
まとめ
この判例では、出来高報酬であっても、その他の条件が整っていなければ、給与と否認されてしまいました。
出来高報酬をもって業務委託契約を交わしているなら、それは大いなる勘違いです。
出来高報酬でも、使用者の指揮命令下にあると認められるときは、支払った外注費を給与と否認される可能性が高くなります。
要点をしっかり押さえて、税務調査で給与と否認されない業務委託契約を交わしましょう。
「外注費」と「給与」の違いをしっかり理解するなら、下記リンク先記事が役立ちます↓
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