日本人の寿命は伸びて、女性は約87歳、男性は約81歳が平均寿命です。
女性の過半数は、90歳まで生存されるそうです。
長生きは喜ばしいことですが、寿命が伸びれば起こるのが、認知症や身体の衰えで介護が必要になったり、老後資金が足りなくなる長生きリスクです。
そんなとき、自宅があればそれを売却して介護費用に充てることができます。
時に、持ち家が得か賃貸が得かという議論がありますが、長生きリスクを考えるなら、持ち家を購入する意味も変わってきます。
長生きで起こる長生きリスクとは?
日本人の平均寿命は喜ばしいことに年々延びています。
1989年から2019年の30年経った時点で、女性は5.68歳、男性は5.5歳延びました。
2019年の調べでは、日本人の平均寿命は、女性87.45歳、男性81.41歳となり、女性は7年連続、男性が8年連続で過去最高を更新です。
そして、2019年に生まれた人のうち、75歳まで生存する人の割合は女性は88.2%、男性が75.8%、90歳までだと女性51.1%、男性27.2%です。
寿命が伸びることはうれしいことですが、誰もが健康で寿命を全うできるわけではありません。
寿命が伸びると同時に起こるのが、次に挙げる2つの長生きリスクです。
- 認知症や身体の機能が衰えで介護が必要になる身体的リスク
- 公的年金や自助努力で貯めたお金が足りない金銭的リスク
このリスクに備えるためには、率直にいってまとまったお金が必要です。
長生きリスクに「持ち家売却」で介護費用作り
通常、長生きリスクに備えるために、民間の生命保険会社の金融商品、不動産投資、株、投資信託などに加入されていらっしゃいます。
とくに介護費用になると、お子様に迷惑はかけたくないが親の気持ちではないでしょうか。
そうかといって、公的年金はあてにならない(2000万円不足すると試算されています)、会社の退職金はあてにならいわけで、いくら自助努力でお金を貯めても、「お金が足りないのでは?」という不安は残ります。
そこで、長生きリスク対策の自助努力の一つに、「持ち家」を加えることを検討すべきです。
そうです、やむを得ない場合は、自宅を売却して介護費用や生活費用に充てることです。
長生き時代の持ち家が得か?賃貸が得か?
そういう意味では、持ち家が得か賃貸が得かの議論がありますが、長生きリスクを考えると、持ち家に分があります。
もちろん、賃貸がダメというわけではありません。
賃貸には賃貸のメリットがあります。
ただ賃貸をメインに住むなら、住宅を買わない分だけお金を貯めておかないと、長生きリスクが増大することに違いないでしょう。
もっとも、誰でも自宅を売却できる環境があるわけではありません。
同居するご家族がそのまま住まわれるケースもありますし、家が売れないことだってあります。
まさに人それぞれで、事情によって異なります。
ですが、いざというとき「家を売却してお金を作れる」というオプションを持てる安心感はあります。
妻の方が長生き
それに、あくまで数字上のお話ですが、平均寿命は女性の方が長いです。
前述のとおり、女性は90歳まで生きる方が約51%ですが、男性は約27%の方しか残りません。
そう考えると、夫が亡くなってから妻だけで生きる時間は多くあるといえます。
夫婦2人なら年金が十分でも、一人なれば長生きリスクに備えられるだけの年金を受給できるとは限りません。
厚生年金から遺族年金が支給されるとはいえ、受給額は4分の3まで減ります。
※遺族基礎年金は、死亡した者によって生計を維持されていた、子のある配偶者、または子になります。
対象となる子とは、
- 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
- 20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子
になります。
仮にお子様と同居してないなら、マイホームを売れる状況にあることは、奥様にとって資金面での不安を払拭できる有力なオプションといえます。
持ち家を売却するときに知っておきたい3つの税優遇
持ち家を売却する場合、税金面でかなり優遇されます。
不動産で手残りを多くするには、税優遇をいかに使うかが重要なりますので、不動産の税額控除や税率優遇はきっちり利用しましょう。
もしも自宅を売却して介護施設に入所するような事態なれば、無駄な支出を避け、1円でも手残りが多い方が安心です。
持ち家を売却する場合は、主に次の3つの優遇措置があります。
- 3000万円の特別控除
- 5年超所有の長期譲渡所得
- 10年超所有の軽減税率の特例
1.3000万円の特別控除
3000万円の特別控除とは、自宅を売った際に出る譲渡所得から、3000万円控除してくれる制度です。
控除という難しい言葉が出てきましたが、これは非課税枠のことです。
要するに、3000万円分の非課税枠があるということです。
そして譲渡所得とは、売却額から取得費(家を買った費用のこと)と譲渡費用(譲渡に関わる経費のこと)を引いた利益のことをいいます。
たとえば、売却価格が6,000万円、取得費(1,500万円)と譲渡費用(500万円)を合わせた金額が2,000万円だった場合、譲渡所得は4,000万円になります。
・6,000万円-2,000万円=4,000万円
このままだと譲渡所得の4,000万円に税金が課せられます。
しかし3,000万円の特別控除があることで、譲渡所得を1,000万円まで圧縮することができるのです。
・6,000万円-2,000万円-3,000万円=1,000万円
2.5年超所有の長期譲渡所得
不動産を売却した場合、その所有期間が5年超か5年以下かで、税率が変わってきます。
所有期間が5年を超えていると、長期譲渡所得となり、5年以下に短期譲渡所得とより1/2程度の税率で済ますことができます。
- 5年以下の短期譲渡:39.63%(所得税30.63%、住民税9%)
- 5年超の長期譲渡:20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
※上記税率は、復興特別所得税(2037年まで)として所得税の2.1%相当が上乗せされています。
上述の例でいうと、短期譲渡になると税金は396万3,000円で、手残りは5,103万7,000円になります。
- 6,000万円-2,000万円-3,000万円=1,000万円
- 1,000万円×39.63%=396万3,000円
- 6,000万円-500万円(譲渡費用)-396万3,000円=5,103万7,000円
それに対し長期譲渡になると税金は203万1,500円で、手残りは5,296万8,500円です。
- 6,000万円-2,000万円-3,000万円=1,000万円
- 1,000万円×20.315%=203万1,500円
- 6,000万円-500万円(譲渡費用)-203万1,500円=5,296万8,500円
短期譲渡と長期譲渡では、税金が200万円近く変わります。
持ち家を売るときは、最低でも5年超の長期譲渡所得になることを意識したいところです。※所有期間5年は単純に5年間ではないことに注意。
3.10年超所有の軽減税率の特例
次に所有期間が10年を超えた場合の軽減税率の特例です。
これは、所有期間10年を超える居住用不動産を売却したときに、上記譲渡所得に掛かる税率を軽減してくれる特例です。
税率は、譲渡所得が6,000万円以下と6,000万円以上で異なります。
- 6,000万円以下:14.21%(所得税10.21%、住民税4%)
- 6,000万円以上:20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
※上記税率は、復興特別所得税(2037年まで)として所得税の2.1%相当が上乗せされています。
この10年超所有の軽減税率の特例は、3,000万円の特別控除と併せて利用することが可能です。
つまり、先の計算でいうと、譲渡所得は1,000万円でした。
・6,000万円-2,000万円-3,000万円=1,000万円
これに優遇税率がかけられ、税金は142万1千円となり、手残りは5,357万9,000円になります。
・1,000万円×14.21%(譲渡所得が6,000万円以下)=142万1,000円
・6,000万円-500万円(譲渡費用)-142万1,000円=5,357万9,000円
10年超の軽減税率を受けると、5年超の長期譲渡所得比べて約61万円も手残りが多くなります。
相続を放棄しても管理費用が発生
余談ですが、持ち家の処分は、お子様のことを考えると検討しておかないといけないケースがあります。
ご両親がお亡くなりなった場合、お子様が相続してそのまま家に住むケースや、所有だけして誰かに貸したりするなら別ですが、事情があって相続放棄する場合は問題が発生します。
実は相続を放棄しても、そこで終わりではないからです。
放棄した財産が処分されるまでは、管理義務が相続人に発生し、管理費用を支払う必要があります。
まさに売れない持ち家は「負動産」になりかねないのです。
少子高齢化が進む日本では、このようなケースが増えるかもしれません。
これからのマイホーム購入には、「売れる」ことも検討材料にした方がよいかもしれませんね。
まとめ
日本人の長寿化に伴い長生きリスクが発生するようになりました。
にもかかわらず、公的年金はあてにならない、会社の退職金もあてにならない(そもそも、終身雇用すらあてになりません)状態では、持ち家を売却して長生きリスクに備える考えも必要です。
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