介護・認知症、長生リスクから考える、社長の自宅は「社宅」と「個人所有」どちらにすべきか?

相続対策

社長の自宅は持ち家が得か、それとも社宅が得か、それを考える場合、長生きリスクを検討しなくてはいいけない時代になりました。

長生きリスクとは、介護が必要になったり認知症になってしまうリスクのことです。

なぜ長生きリスクと社長の自宅が社宅か持ち家かの話が関係あるのか?それは介護費用が関係してくるからです。

長生きリスクに備えなくてはいけない

日本人の寿命は伸びて、女性は87.32歳、男性は81.25歳になりました(2018年のデータ)。

その一方、長生きすることで、介護が必要になったり認知症になるリスクも大きくなりました。

にもかかわらず、人口減少、少子高齢化が進む日本では、医療費や介護費の国庫負担は増え、1人当たりの年金受給額も実質的に下がり、高齢者に貧困が広がるだろうとの予測も出ています。

長生きリスクに備えるのに、国の制度や年金は、これからますます頼れなくなるは目に見えています。

「それと社長の自宅が持ち家か社宅かの話に何の関係があるのか?」と思われるかもしれませんが、大ありです。

それは、万が一介護が必要な状態や認知症になったとき、その介護費用に関係してくる話だからです。

住宅売却後の手取りが多いのは社宅か個人所有か?

介護が必要になったり、認知症になってしまった場合、その費用を国の社会保険制度や年金に頼ることは、これからむずかしくなってきます。

その場合、やむを得ず家を売って介護費用を捻出することも考えられます。

このとき、自宅が社長の「持ち家」か会社所有の「社宅」かで、売却したときの手残りが変わってきます。

これから介護施設へ入所しなくてはいけない人やご家族にとって、税引き後の手残りがいくらになるかは重要な問題です。

社長個人の持ち家の場合

個人が持ち家を売却した場合、いくつかの税金の優遇措置を受けらます。

3000万円の特別控除

3000万円の特別控除とは、マイホームを売った場合に、売却益に対し3,000万円を引いてくれる税金の制度のことです。

つまりその分、税金が安くすむということです。

不動産を売却して利益が出た場合、利益に対して税金がかかります。

この税金を譲渡所得税といいます。

譲渡所得税は次の計算式で求められます。

<譲渡所得税の計算式>

・課税譲渡所得=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)

・譲渡所得税=課税譲渡所得×税率

「課税譲渡所得」とは、売却価格(譲渡価格)から購入価格(取得費+譲渡費用)を差し引いたものことをいいます。

仮に購入費用1,800万円と譲渡費用(経費)が200万円の自宅を、3,500万円で売却したら、課税譲渡所得は1,500万円になります。

・3,500万円-(1,800万円+200万円)=1,500万円

しかしこのとき3000万円の控除が使えると、課税所得金額は0円になり、納める税金も0円です。

・3,500万円-(1,800万円+200万円)-3,000万円(特別控除額)=0円

No.3302 マイホームを売ったときの特例

また、仮に3,000万円の特別控除後に利益(譲渡益)が出たとしても、マイホームの所有期間が5年超だと「長期譲渡所得」に該当し、税率が低くなります。

さらに、5年を超えてマイホームの所有期間が「10年」になると、譲渡所得税の「軽減税率の特例」とセットで受けることができます。

短期譲渡所得と長期譲渡所得

不動産の所有期間が5年以下の場合「短期譲渡所得」、5年を超える場合「長期譲渡所得」となり、それぞれにおいて所得税・住民税の税率が異なってきます。

短期譲渡所得:売却した年の1月1日現在で「所有期間5年以下」の場合

・所得税 30.63%(※注)+住民税 9%=39.63%

長期譲渡所得:売却した年の1月1日現在で「所有期間5年超」の場合

・所得税 15.315%(※注)+住民税 5%=20.315%

(※注)2037年までは、上記の他、復興特別所得税(基準所得税額×2.1%)が課されます。

マイホームが5000万円で売れたケースを考えてみましょう。

購入価格1000万円、譲渡費用200万円と仮定します。

5年以下の短期譲渡の場合

5年以下の短期譲渡の場合、納める税金は約317万円です。

・譲渡所得金額:5,000万円-(1,000万円+200万円)-3,000万円=800万円

・譲渡所得税:800万円×39.63%=317万円

5年以上の長期譲渡の場合

5年超の長期譲渡の場合、納める税金は163万円です。

・譲渡所得金額:5,000万円-(1,000万円+200万円)-3,000万円=800万円

・譲渡所得税:800万円×20.315%=163万円

以上のように所有期間が5年以下と以上では税金に大きな違いが出てきます。

所有期間10年超の軽減税率の特例の場合

さらに所有期間が10年を超えると、譲渡所得税の「軽減税率の特例」を受けることができます。

この特例を受けると、税率は次のように下がります。

  • 3,000万円特別控除をした後の譲渡所得に対し6,000万円以下の部分:所得税 10.21%+住民税 4%=14.21%
  • 3,000万円特別控除をした後の譲渡所得に対し6,000万円以上の部分:所得税 15.315%+住民税 5%=20.315%

たとえば先ほどのケースで考えると、譲渡所得税は約82万円で下げることができます。

・譲渡所得金額:5,000万円-(1,000万円+200万円)-3,000万円=800万円

・譲渡所得税:800万円×10.21%(利益が6,000万円以下なので)=82万円

以上のように、3,000万円の特別控除と長期所有の税率軽減を受ければ、税金は一気に減らせます。

仮に3,000万円の特別控除も、5年超の長期譲渡所得の優遇もなければ、上記ケースと同じ条件なら譲渡所得税は1,506万円にもなります。

・5,000万円-(1,000万円+200万円)=3,800万円

・3,800万円×39.63%=1,506万円

会社所有の社宅の場合

法人税の計算は簡単にいうと、本業や副業、固定資産の売却など、法人が1年間に得たすべての利益(所得)を合算し、その1年間の利益(所得)に税率を乗じて法人税額を求めます。

中小法人における法人税の税率は15%(年所得金額800万円を超える部分は23.2%)です。

社宅を売却して得た利益に対し、住民税を合わせても30%~35%程度かかります。

さらに、社宅を売却して得たお金を、個人へ所得移転しなくてはいけません。

会社のお金を勝手に使うことはできませんから。

その場合、法人から個人へお金を移すときに所得税を課せられます。

最高税率だと55%(住民税込み)です。

あるいは、社宅を法人から譲渡してもらい(適正な価格で)、その住宅をすぐに売却する場合は、3000万円の特別控除を受けられませんし、売却益は短期譲渡所得になり、39.63%の高い税率を課せられることになります。

3,000万円の特別控除が適用されないケース

マイホームを売ったときの特例は、次のような家屋には適用されません。

  • この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
  • 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
  • 別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋

会社から譲渡された住宅をすぐに売ってしまう場合は、1か2に該当するため3,000万円の特別控除は受けられないでしょう。

結論:長生きリスクに備えるには個人所有のメリットが大きい

以上のように、会社の社宅にしていると、それを個人所有にして換金しようとすると、高い税金が課せられてしまいます。

それに対し個人所有だと、3,000万円の特別控除や、所有期間が5年超、10年超の税率の優遇を受けることができます。

そすると、売却後の手残りに大きな差が出ます。

繰り返しますが、これから介護施設に入所する本人やご家族にとって、何百万も手元資金が変わってくるのは大きいです。

もちろん家を売却しなくても良いケースもあるでしょう。

しかし、家を売却できるオプションとして持っておける価値は大きいです。

ですから、長生きリスクに備えるには、会社所有の社宅でなく、個人所有の持ち家の方が適しているといえます。

まとめ

一般的に自宅を社宅にするメリットは、手残りを増やすためです。

しかしライフステージが変わると、その考えを改めないといけないときがきます。

介護や認知症の長生きリスクは、まさにそれです。

介護施設の入所費用を捻出するときに、個人に住宅があると手残りが増え、有利なオプションとなります。

役員報酬の税引き後、社会保険料の負担だけで考えていると、別のリスクを広げてしまいます。

ライフステージによってリスクを考慮し、社宅が得か個人所有が得か、ベストな選択をしましょう。

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