会社と個人、社長はどちらで住宅を買うべきか?
社長がマイホームを持つときに、「社宅にするか」「個人で購入するか」は一つのテーマです。
社宅にすれば会社の経費で落とせるものが多くなります。
反対に個人で購入すれば、住宅ローン控除などの税優遇を受けることができます。
ただしことはそう単純ではありません。
諸事情をいろいろな角度で考慮して、トータルでベストな選択をしなくてはいけません。
では本当のところどちらを選ぶべきでしょう?
【比較検討事項】会社所有VS個人所有
結論からいいますと、状況によって異なるので、一概に「こちらがお得」とはいえないのが現状です。
はじめから身も蓋もない結論でがっかりされたかもしれませんが、会社で経費で落とせるから、税優遇を受けられるから、という単一の理由だけで決められないのが社長という立場なのです。
一般論では
- 法人で購入、所有→税金面では有利
- 個人で購入、所有→資金調達面で有利
というものがあります。
法人所有の場合、住宅に関連するお金を経費化することができます。
それに対し個人の場合、フラット35という長期間低金利で貸してくれる住宅ローンがあります。
法人の場合、最長35年で低金利の借り入れなど、まずすることができません。
しかしこれだけで決めてしまうのは、あまりにも比較事項が少なすぎます。
最低ても下記のことを対比させて、会社購入か個人購入かを選択しなくてはいけません。
法人購入の場合
購入時
- 融資実行時の諸経費が法人の経費になる
所有期間中
- 借入の金利は会社の経費になる
- 所有期間中の維持管理費は経費になる(固定資産税、火災保険料、修理費など)
- 建物部分の減価償却費を経費にできる
- 社宅にして安い賃料で住める(相場家賃の10%がギリギリ)※豪華社宅を除く
所有期間中に死亡があった場合
- 相続財産に含まれず、会社の株価に反映される
売却時
- 含み益がある場合は、繰越し欠損金と相殺でき、反対に含み損の場合は、繰越し欠損金を積み増せる
個人購入の場合
購入時
- 住宅取得資金の非課税贈与の特例を受けられる
所有期間中
- 住宅ローン減税を受けられる。当初10年間のみ適用 ※所得制限あり
所有期間中に死亡があった場合
- 団体信用生命保険に加入していたらローン残額は免除
- 特定居住用宅地の適用の可能性あり
- 配偶者居住権で節税できる
売却時
- 居住用3,000万円の控除
- 5年超保有の軽減税率
- 10年超所有の軽減税率
- 買換え・譲渡損失の損益通算、繰越し控除
まだある「会社所有」VS「個人所有」のそれ以外の検討項目
上記の対比項目は税制や経費面のことですが、それ以外にも社長という立場ならではの検討事項があります。
守備面
社長は会社と表裏一体、万が一会社がつぶれてしまったときの対応も考えておかなくてはいけません。
その点、個人所有と法人所有では防御力が異なります。
法人所有
法人で取得した住宅は、当たり前ですが法人のものです。
そのため、会社が倒産する事態になると社宅を処分することになり、住宅(社宅ではありますが)を守ることはできません。
家を守るには、会社の事業がきちんと回っていることが前提となります。
個人所有
個人所有の場合、子どもや配偶者への2000万円贈与を行い、所有権を移すことができ、会社が潰れるような事態になっても持ち家を守ることができます。
社長は会社がお金を借りる場合に連帯保証をさせられ、会社が破綻すれば自宅を失いかねませんが、子どもや配偶者に贈与をしておくことで、会社倒産という万が一に備えておけます。
配偶者2000万円の贈与:婚姻期間20年以上の夫婦で、居住用の建物を贈与した場合、2000万円以内は非課税。その年の基礎控除と合わせると2100万円以内は非課税)
子どもへの贈与:暦年贈与だと110万円以内は非課税で、相続時精算課税制度を選ぶと2500万円以内は非課税。
ただし、会社の破綻が近くなってから贈与を行うと、銀行などの債権者から訴えられる可能性があります。
たとえば、自宅に銀行から抵当権を設定された状態で、配偶者の2000万円の贈与を利用して名義変更をする場合、所有権移転には債権者たる銀行への事前承諾が必要になります。
ところが、抵当権設定時の契約書では、通常、無断で所有権移転を禁じる条項が書かれており、これを破ると契約違反となります。
そのため債権者の承諾を得ることなく所有権移転を行い、返済を滞らせると、名義変更が「資産隠し」とみなされ、債権者から「処分禁止のうえ、元に戻せ」と訴えられたら、名義変更は取り消され、元の状態にもどされてしまいます。
借金から逃れるために、贈与を使っても、結局は詰められてしまうのです。
配偶者への2000万円贈与は「とくにかく家を守りたい」社長向けの方法
また、贈与をすることで、相続時の「小規模宅地の特例」という特典を放棄する形になります。
したがって配偶者のへの2000万円の贈与は、金銭的に見ればお得な方法ではありません。
しかしそれらを度外視しても、持ち家を守りたいときは選択肢となる方法です。
まとめると、会社所有は家を守る観点では弱く、個人所有の方に軍配があがります。
補足
会社の社宅といっても、それを個人に譲渡してしまえば(たとえば退職金として現物支給する)、社長個人の所有となりますので、配偶者の2000万円の贈与や、子への贈与も行えます。
さらに将来起こる相続でも、個人所有であれば小規模宅地の特例を利用することもできます。
会社との貸し借りの清算
社長の場合、さまざまな理由で会社と貸し借りを行うケースがあります。
社長から会社へ貸すお金を「役員借入金」、反対に会社から社長へ貸すお金を「役員貸付金」と呼びます。
このお金は、それぞれどこかで清算しておいた方が良いお金で(役員貸付金はとくにです。役員借入金は多額になると問題になりますが、相続税との兼ね合いでシミュレーションしなくてはいけません)、これを処分するときに住宅を使うことができます。
法人所有
法人所有の場合、役員借入金を処分するときに使えます。
役員借入金は、会社が社長から借りるお金のことで、社宅を社長個人へ譲渡することで、役員借入金と相殺できます。
役員から会社への貸し付けはよくあることですから、これを解消する方法として手段を持っておくことは、後々便利です。
個人所有
個人所有の場合、役員貸付金を処分するときに使えます。
役員貸付金は、社長が会社から借りるお金のことで、社長個人の住宅を会社へ譲渡することで、役員貸付金と相殺できます。
譲渡した後は、社宅として住めますし、退職時は現物支給して再度社長個人へ戻すことができます。
ただし、これは理論上のお話、会社から何千万円も借入してしまうような、お金にルーズな社長が、退職金を出せるほど会社を経営していけるかどうかは別の話です。
相続税の節税
相続が起こった場合、会社所有でも個人所有でも相続税を節税することができます。
ただし、所有権がどこに行くかで、残されたご遺族のその後の生活のしやすさなどもかわりますので、金銭以外の部分をどう考えるかが重要になります。
会社所有
会社所有の場合、住宅は会社の持ち物なので、住宅の価値は、会社の株価に反映されます。
つまり、個人所有とは違って住宅が直接相続財産にカウントされるわけでなく、住宅の価値が反映された自社株が相続財産になるのです。
逆にいえば、住宅の価値が高くても、株価自体を下げることができれば、結果として相続税の節税になるということです。
法人の場合、いくつか株価を下げる方法があります。
そういう意味では、会社所有の方が節税の手段は多いといえます。
個人所有
個人所有の場合、新たに創設された「配偶者居住権」を使えば、結果として大幅に相続税を節税できます。
配偶者居住権とは、残された配偶者が、住む場所や生活のためのお金に困ることなく、老後を過ごすための権利として創設された制度です。
さらに簡単にいうと「「相続が発生する前から住んでいた配偶者の自宅は、配偶者がその自宅の権利を相続しなかったとしても、ずっと住んでていいですよ」ということなのです。
・【2020年4月施行】配偶者居住権とは?日本一わかりやすく解説しました
配偶者居住権がなぜ節税になるのか?
配偶者居住権を設定すると、自宅は「所有権の価値」と「配偶者居住権の価値」に分けて評価されます。
たとえば、評価額が10の自宅に配偶者居住権を設定するとします。
すると、配偶者居住権の評価額が3、所有権の評価額が7といったように、元々の評価額を2つに分けるイメージです。
将来、妻がお亡くなりになると配偶者居住権は法律上消滅します。
そのため、配偶者居住権は2次相続における課税対象とならず、その分だけ相続税の節税になるというわけです。
配偶者居住権の創設により、個人での相続税の節税も可能になりました(あくまで結果として節税になるということで、本来の目的は残された配偶者の生活を守ることです)。
※ただし、配偶者居住権が必ず節税になるというわけではありませんし(状況による)、節税になるからと配偶者居住権を設定することが、ベストな選択になるわけでもないことも加えておきます。結局のところ、そのご夫婦の状況によります。
まとめ
社長が住宅を購入する場合、「会社所有」と「個人所有」でどちらが良いのかをまとめてみました。
答えは「その時の状況による」で明確なことはいえませんが、社長ならではの事情をもろもろ考慮しなくてはいけないことはたしかです。
一ついえることは、経費面などを考えらたら会社所有、家を守ることに重点を置くなら個人所有というところでしょうか。
ご検討の参考になれば幸いです。
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