資金繰りに影響を与えるのは貯蓄と支出
資金繰りは、収入→貯蓄→支出→収入という一連の流れでできています。
この中で「資金繰りに影響を与えるものは?」と聞かれれば、収入と答える人がほとんどかもしれません。
しかしそれより影響を与えるのは貯蓄と支出です。
社内にお金が貯まらないから資金繰りは苦しくなる
貯蓄とは収入から得たお金をストックしている期間です。
この期間が短ければ短いほど、資金繰りに余裕はなくなります。
極端な例でいえば現金仕入れです。
商売をはじめてまだ間もないときや、新規の取引先といったときは、信用がなく、現金取引しか応じてもらえないときもあるでしょう。
そういったケースでは、仕入れの度にお金が必要で、入金は売上の後となり、お金の滞留する期間は短いです。
イメージとしてはお金が入ったそばから出ていくわけですから、まさに自転車操業です。
収入が途絶えればたちまち手持ち資金は尽きて、事業は立ち行かなくなります。
売上拡大か資金繰り優先か
ちなみに、上記のようなモデルケースでは、たとえば売掛販売をしようものなら、資金繰りは一層苦しくなるでしょう。
仕入れから現金化までの期間が長くなることで、お金がどんどん先行して出ていきます。
その間にその他の支出でもあり、一歩間違うと簡単に資金ショートを起こします。
資金が回らなくなれば、事業もそこでストップです。
売掛販売は信用販売です。
すぐにお金を用意できない人に信用を使って販売することで、大きな商いにすることができます。
しかしその反面、資金の流動性が低くなってしまいます(要するにお金が回りにくくなる)。
そのため、現金仕入れなのに売掛販売を導入してしまうと、売上げはあるのに資金繰りは苦しいという、中小企業の典型的なドツボを招いてしまうのです。
それに対しお金の滞留期間が長くるほど資金繰りは楽になります。
先の例でいえば、現金で仕入れても現金で販売できれば、常に手元にお金が滞留するようになります。
お金があれば仕入れやその他の支出もでき、たとえ苦しくても資金繰りが回るので、事業を続けていくことができます。
薄利多売でも資金繰りを楽にする方法
会社にとってキャッシュとは血液と同義語で、お金が尽きれば事業はストップしてしまいます。
逆にいえば、薄利であっても、それどころか赤字でもキャッシュさえあれば、事業は継続していけるということです。
となればです。
利益の多寡によって、自社内にお金を貯めておける期間を考えなくてはいけないということです。
すなわち、
- 利益が低い場合 → 売掛期間は短くしないと資金繰りは回していけない。
- 利益が高い場合 → 売掛期間は長くしても資金繰りは回していける
という傾向になります。
利益が低いと、代金を回収しても支払いをすれば手元に残るお金は少ないです。
資金が不足すれば、資金調達も必要になります。
だから、売掛期間を短くして、お金が次々入ってくるようにしておかないと、運転資金が常に不足した状態になります。
反対に利益が高いと、売掛期間が長くても支払いをした後のお金も多く残り、必然的に貯蓄期間も長くなってお金は貯まります。
それゆえ資金繰りに詰まりにくいというわけです。
良く「安売りは悪」のようにいわれますが、それはむやみやたらに安売りするからです。
考えのない安売りは利益とキャッシュを喰い潰します。
しかし安売りを戦略的に行えば、資金繰りに詰まるどころか、お金がお金を呼んできます。
利益という損益計算で物事を考えるのは担当者レベルの話です。
経営者なら利益を超えて資金繰りまで考えましょう。
会社が潰れるのはキャッシュが尽きたときなのですから。
損益計算書に表れない支出
次に支出です。
支出を抑えれば、お金を貯めることができるのは小学生にもわかる理屈ですが、支出は損益計算書に表れない支出もあります。
どういうことかというと、目に見えない無駄のことです。
たとえば
- 赤字店舗・赤字事業の維持管理費用
- 儲からない商品・得意先・販売エリアにかかるコスト
- 稼いでない人の人件費
などです。
これらは一見すると無駄に見えない必要経費に思えて気づかなかったりしますが、費用対効果が悪く確実に利益を失い続けます。
いわゆる「費用対効果に見合わない費用」のことです。
では人件費で具体的に考えてみましょう。
労働分配率で投資効果を測る
人件費が適正かどうか計る指標に「労働分配率」があります。
労働分配率とは、「付加価値額」に占める「人件費」のことをいいます。
会社でいう付加価値とは、一般的に売上げ総利益(以後、粗利益)のことです。
・労働分配率(%)=粗利益÷人件費×100
つまり労働分配率とは、粗利益に占める人件費の割合のことで、パーセンテージが高ければ非効率的であり、その逆にパーセンテージが低ければ効率的な稼ぎ方をしているということになります。
労働分配率の高低は業種によってそれぞれで、一概に低い方が良いとはなりません。
低すぎる労働分配率だと、過重な労働を押し付けている可能性が高く、その状態をそのまま続けるとサービスや品質の低下を招くからです。
ですから、これが正しいという労働分配率はありませんが、目安として
- 40%→優良
- 50%→普通
- 60%→効率が悪い
というものがあります。
そこで、仮に会社の一人当たりが稼ぐ粗利益が500万円、社員の中の一人の給料が年間300万円だったとします。
この場合、労働分配率は60%です。
・300万円÷500万円=60%
労働分配率は50%で普通ですから、このケースでは50万円も支払い過ぎている計算です。
・500万円×50%=250万円
・300万円-250万円=50万円
つまり労働分配率という定規に当てて測ってみなければ、毎年、毎年50万円ずつ利益が流出することに気づかないままになるのです。
支出にある隠れた意味とは?
支出には、単に支払いをする以外の意味があります。
それは「将来の収入を得る」という投資の役目です。
いわゆる「生きたお金」を使うということです。
支出した分より収入が上回らなければ、次第に先細りしていきます。
それすなわち企業の衰退を意味します。
支出は単に抑えればよいというものではありません。
だからこそ、労働分配率のような指標を使って、投下したお金以上に会社に利益をもたらしているかを計測しなくてはいけないのです。
支出とは単に経費を削減することをいうのではありません。
それも大事ですが、目に見えない費用隊効果をきちんと計測して、支出を抑えることも大事な経費削減です。
計測を伴わない支出は、費用対効果の悪い投資で終わってしまいかねないです。
貯蓄と支出という土台が資金繰りを安定させる
資金繰りは、収入→貯蓄→支出→収入という流れでできています。
中でも大事なのは、貯蓄と支出です。
つまり、貯蓄と支出というしっかりした土台があることで、それ以上の収入を得ることができ、土台がが弱ければ、収入があってもやがて先細って資金繰りは回らなくなってしまうのです。
資金繰りを回すとは、そのような意味があるのです。
資金繰りを改善するには、収入ではなく、貯蓄と支出にこそ鍵ありです。
まとめ
資金繰り改善と聞くと、収入を増やすことに力を置こうとするかもしれませんが、実はそれは間違いなのです。
貯蓄と支出という土台がしっかりしていなければ、収入を増やすことはできません。
遠回りのように思えても、資金繰りを改善するには、貯蓄と支出をきちんとコントロールすることです。
収入に力を入れると、いつまでも「稼いでもお金が残らない」ことになります。
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