相続税の税務調査では「名義預金」が問題になることがありますが、生命保険も「名義保険」とみなされると相続税の対象となります。
名義保険とは聞きなれぬ言葉ですが、簡単にいうと「契約者と保険料負担者が異なる保険契約」のことを指します。
実は名義保険に関する申告漏れや課税逃れが増えていることを受け、相続税の税務調査では調査が厳しくなってきているのです。
この記事では「名義保険」にみなされないための対策を解説いたします。
名義預金とは
名義預金を簡単にいうと「契約者と保険料負担者が異なる保険契約」をいいます。
生命保険は、契約者=保険料負担者ではなく、契約者と保険料を支払っている人が異なることがしばしばあります。
そしてそれ自体、保険会社からしてみれば問題ではありません。
ただ、保険会社は問題なくても、税務上問題になるのが名義保険です。
たとえば、子ども名義の保険契約であるのに、実際は親が生前に保険料を支払っているケースです。
保険料を負担しているのが親であれば、本来は親から子どもへの生前贈与となり、贈与税が課税される財産です(この場合でも贈与が「法的に成立」していることが必要です)。
しかし、子どもが保険料を支払ったことにしているので、自分の財産としてカウントして、意図的、意図的でないにせよ相続財産から漏れてしまうことになります。
つまりこれが相続税の課税逃れにみなされるわけです。
上記のケースでいえば、保険料の実質的負担者は親なので、名義が子どもであっても親の相続財産になるのです。
ポイントは「誰が実際の保険料負担者なのか?」
なぜこのようなことが起こるかといえば、生命保険は保険料負担者が誰なのかによって、課税される税金が変わってくるからです。

たとえば上記表でいうと、「被保険者A 保険料負担者B 保険金受取人C」の契約形態だと、本来は贈与税の対象です。
しかし、実際の保険料負担者がAであるとしたなら、この保険の契約形態は、「被保険者A 保険料負担者A 保険金受取人C」となり、相続税の課税対象になることがわかります。

繰り返しますが、生命保険の場合「契約者=保険料負担者」でなく、それでも支払いを受ける保険会社は問題ありません。
しかし税務では、「誰が実際の保険料負担者なのか?」で判断されるのです。
実際、平成元年3月31日の国税不服審の裁決では、下記の通り判断されています。
税法上、保険金受取人の取得した保険金が、一時所得として所得税の課税対象となるのか、相続財産とみなされて相続税の課税対象となるのかは、その保険金に対応する保険料の負担者が何人であるかによって判定されるべきものであり、その保険料負担者とは単に保険契約者をいうのではなく、実質上の負担者をいうものと解される
国税不服審判所:長男の死亡に伴い父親が受け取った保険金は、被保険者である長男が負担した保険料に係るものであるから、みなし相続財産に該当するとした事例
上記にあるように、税務上の保険料負担者とは、「保険料負担者とは単に保険契約者をいうのではなく、実質上の負担者をいう」のです。
税務調査で名義保険とみなされないための対策
では税務調査で「名義保険」と指摘されないためには、どのような対策をすればいいでしょう?
それは次のような対策です。
- 毎年、贈与契約書を取り交わすなど証拠を残す
- 銀行口座間で贈与分のやり取りをする。
- 保険料の引き落とし口座を一緒にしない(子は子で管理する)
- 贈与を受ける側が生命保険料控除を申告する
- 贈与を受ける側は自分の通帳・印鑑で管理する
まず夫婦間、親子間といっても、財産は別管理が鉄則です。
なぜなら、財産は各人に属するものだからです。
それなのに、同じ口座から保険料が引き落とされていたら、「実質的に別の人が負担した」ことを証明するのは、それなりの根拠が必要で、現実的に証明するのはむずかしいでしょう。
実際に母親が「保険料の負担者は子ども」と訴えた国税不服審の裁決でも
- 保険料は母親の口座から引き落とされていた
- 生命保険の配当金も母親の口座に振り込まれていた
という事実が根拠の一つとなって、実質の保険料の負担者は「子どもではなく母親」と判断された事例があります。
引用元 国税不服審:請求人が受け取った養老生命共済金は被共済者の法定代理人である請求人が負担した共済掛金に係るものであるから一時所得に該当するとした事例
もちろん、保険料の引き落としや配当金の入金が母親の口座だったという事実だけで判断されるわけではないでしょう。
裁決でもその他の理由を述べられています。
しかし財産の管理が一緒だと、状況証拠として積みあがるポイントが大きくなることは間違いないのです。
だから財産の管理は別々に行うことが鉄則なのです。
タンス預金があるなら
ちなみに、タンス預金も誰の財産かきっちり分けておかないと、税務調査で名義預金の指摘を受ける可能性があります。
お互いの過去の収入で按分する方法もあるでしょうが、残された相続人が不利になっては意味がありません。
だから夫婦、親子間といえどあやふやにせず、財産はきっちり分けて管理しなくてはいけないのです。
名義保険で余分に支払う税金
もし税務調査で名義保険を指摘され、修正申告をした場合には、相続税の増額部分である本税のほかに、
- 過少申告加算税(本税の10%~15%、仮装隠ぺいの場合は35%)
- 延滞税
と、余分な税金を支払わなければなりません。
生命保険の相続税の評価額は?
生命保険の権利を相続した場合、その評価額は「お亡くなりになった日の解約返戻金相当額」になります。
解約返戻金が多く貯まっていれば、それだけ相続財産が増えることになり、反対に解約返戻金が少なければ相続財産も少なくなります。
人の死亡はコントロールできませんが(できたら何かしらの罪で捕まります)、生命保険の商品によっては、解約返戻金を一定期間低く抑え、その期間が過ぎるとドンと増えるものもあります。
これの意味するところは、被相続人の死亡の時期によっては、相続財産を生命保険に変え圧縮して子(相続人)が受け取り、なおかつ相続後の一定期間を過ぎた後にドンと増えた解約返戻金を手にすることができるということです。
もちろんこれは計算上の話であって、人の死亡時期をコントロールできない以上、絵に描いた餅で終わる可能性もありますが、生命保険にはこのような使い方もあるのです。
まとめ
生命保険の「名義保険」について解説しました。
相続税の税務調査で、名義保険とみなされないためには、保険料の負担が誰かを明確にしておく必要があります。
保険料の負担者があいまいであれば、否認されてもおかしくはないのです。
親子であっても夫婦であっても、財産は別に管理する、これが名義保険にならないための鉄則です。
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