住んでいる建物を取り壊すと「固定資産税が6倍になる」というお話を聞いたことはありませんか?
実際、居住用の建物を取り壊すと、6倍でなくても、2倍~4倍に増えてしまいます。
「今住んでいる住宅を取り壊す予定はない」という方も安心はできません。
もし居住用とは別に空き家を所有していると他人事ではなくなります。
その空き家が自治体から「特定空き家」に指定されると、同じように固定資産税がどんと上がってしまうのです。
親や身内から空き家を相続したといった場合、固定資産税が今の2倍~4倍に増える可能性があります。
居住用建物を取り壊すと固定資産税は2倍~4倍上がる
居住用の家屋を取り壊すと、その建物が立っていた土地の固定資産税・都市計画税は2倍~4倍高くなります。
居住用家屋の敷地として利用されている土地(住宅用地)については、税の負担を軽減する「住宅用地に係る課税標準額の特例」が適用されます。
しかし賦課期日(1月1日)の前に、居住用家屋を取り壊したり、土地の用途を居住用から変更したりすると、「住宅用地に係る課税標準額の特例」の適用が外されてしまうのです。
そのため土地の固定資産税・都市計画税が2倍~4倍高くなってしまいます。
これは空き家も同じで、空き家を取り壊すと固定資産税・都市計画税がぐんと高くなります。
固定資産税とは
固定資産税とは毎年1月1日に、土地、家屋など(固定資産)を所有している人に課せられる税金です。
税額は、固定資産の価格をもとにして算出されます。
都市計画税は、毎年1月1日に都市計画法による都市計画区域のうち、市街化区域内にある土地と家屋を所有している人に課せられる税金です。
居住用の住宅はもちろん、空き家を所有していることで、固定資産税および都市計画税の負担が生じることになります。
<固定資産税>
- 空き地(更地で建物もない状態) :課税標準額 × 1.4%
- 1戸につき200㎡以下の住居用地部分(小規模住宅用地) :課税標準額 × 6分の1× 1.4%
- 1戸につき200㎡以上の住居用地部分(一般住宅用地) :課税標準額 × 3分の1× 1.4%
<都市計画税>※土地の場合
- 空き地 : 課税標準額 × 0.3%
- 1戸につき200㎡以下の住居用地部分(小規模住宅用地): 課税標準額 × 3分の1× 0.3%
- 1戸につき200㎡以上の住居用地部分(一般住宅用地) :課税標準額 × 3分の2× 0.3%
なお、固定資産税・都市計画税ともに課税主体は、市区町村で、課税標準は原則として固定資産税評価額です。
市区町村によっては、都市計画税の課税がない場合もあります。
課税標準とは?
課税標準額というのは、国土交通省が年1回定める地価公示価格の70%を目途に計算された「固定資産評価額」に基づき算出される、課税の元になる価格です。
固定資産評価額は3年ごとに評価が見直されます。毎年5月頃に所有者の元に届く固定資産税の納税通知書に記載されていますが、自分で調べることもできます。
自分で調べる際は、固定資産税を納めている各市町村役場窓口で閲覧が可能です。
固定資産税の優遇措置がなくなる
上の表からも分かるように、土地に住居が建っている場合、更地に比べてかかる固定資産税は軽減されています(「住宅用地の特例」)。
特に1戸につき200㎡以内の空き家の場合、課税標準額の6分の1という優遇措置が取られています。
しかし居住用の建物がなくなり更地になることで、
- 200㎡以下の土地:1/6(都市計画税は1/3)
- 200㎡以上の土地:1/3(都市計画税は2/3)
という優遇措置が外されてしまいます。
その結果、1.4%という税率がそのまま課せられることになるのです。
最大で1/6の優遇措置がなくなるわけですから、固定資産税も3倍~4倍にドーンと上がってしまいます。
よく居住用の家屋を取り壊したら固定資産税が6倍に増えるという記事を見かけますが、実際は1/6の優遇措置がなくなるだけで、固定資産税はそこまで上がるわけではないことに注意しましょう。
固定資産税が2.4倍に
では具体的な数字でシミュレーションしてみます。※わかりやすくするため、ここでは固定資産税のみ
<条件>
- 200㎡の住宅用地
- 課税標準額(土地) 2,400万円
- 課税標準額(建物) 1,000万円
固定資産税:特例あり
- 土地:2400万円×1/6×1.4%=5万6,000円
- 建物:1,000万円×1.4%=14万円
- 合計:19万6,000円
固定資産税:特例なし
- 土地:2,400万円×1.4%=33万6,000円
- 建物:1,000万円×1.4%=14万円
- 合計:47万6,000円
計算の結果、固定資産税の特例ありと特例なしとでは、約2.4倍の開きがあることがわかります。
・47万6,000円÷19万6,000円=2.4倍
これが、住宅用の建物を取り壊した場合(空き家も含む)の固定資産税になります。
空家を所有している人は注意
さて空き家についてですが、相続で空き家を引き継いだ場合どうなるでしょう?
空き家を相続したからといって、家屋を取り壊さない限りは、特例が外されて固定資産税が上がることはありません。
しかし例外があり、行政(市町村)から「特定空き家」に指定されると、建物を取り壊さなくてはいけなくなり、その結果特例が外され、固定資産税が上がる可能性が出てきます。
特定空き家指定で固定資産税6倍
少子高齢化の影響により、今後、より一層空き家が増えると予測されています。
実際2020年で日本にある空き家は、5千700万戸にのぼります。
その対策として、2016年5月「空家対策特別措置法」が施行されました。
「空家対策特別措置法」は、手入れのされていない放置された空き家を防災、衛生、景観の保全、または活用促進のために作られた法律です。
これによって各自治体(市町村)が空き家の確認作業を行い、その結果「特定の状態が当てはまる空き家(特定空き家)」であると判断された場合、固定資産税の「住宅用地の特例」の優遇処置が適用されなくなるのです。
この特例については上述した通りで、最大1/6の優遇措置がなくなります。
特定空き家とはどんな状態?
特定空き家と判断されるのは、以下の状態にあると認められる空家になります。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
・「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)
具体的な特定空き家の状態を知りたい方はこちら
簡単にまとめると「放置されており危険な状態になっている空き家」で「周囲を不安、不快にさせている空き家」が特定空き家に該当します。
そして、特定空家に指定されれた後に自治体から改善の勧告を受けると、土地にかかる固定資産税の優遇措置が適用されず、更地の状態と同等の6倍となってしまうのです。
特定空き家に指定されるとどうなる?
行政より「特定空き家」に指定されたら、まずは自治体による立入調査が入り、助言、指導が行われます。
この立ち入り調査は拒否することができません。
次に所有者に対して自治体からの改善要望が届きます。
この段階で所有者側が修繕や解体などの行動をとろうとした際には、助言や指導なども受けることができ、改善が認められ場「特定空き家」指定から解除されます。
しかし改善が認められずに勧告を受けてしまうと、即「住宅用地の特例」の適応外になります。
その結果、固定資産税が6倍になるというわけです。
もし、立入調査を拒否した場合や、その後の市町村長の勧告を無視してしていると、それぞれ20万円以下、50万円以下の罰金を受けることになります。
また、改善命令にも従わず、猶予期間が過ぎても空き家を放置していた場合は、行政代執行となります。
行政代執行になると、所有者の代わりに強制的に空き家を解体撤去され、その解体費用は所有者負担です。
仮に費用が負担できない場合は、財産の差し押さえも行われることとなります。
相続した建物を面倒だからと放置していると、最終的にそのツケを行政から強制的に支払わされることになります。
人が住めないような特定空き家に指定される前に、家屋を取り壊して土地を売却する、賃貸に出すなど何らかの対策が必要になります。
空家撤去に自治体からの補助金・助成金が出る場合も
空家の撤去費用は、自治体で補助金・助成金を出してくれるケースがあります。
最寄りの自治体で、空き家の解体費用の補助金・助成金が実施されてないか問い合わせてみましょう。
空家の相続を放棄しても
ちなみに、空き家を相続したくないからと、相続財産を放棄した場合でも、その後に続く相続人がいない場合は管理義務が残ります。
そうなると、相続は放棄できても、管理費用を不動産が処分できるまで支払い続けなくてはいけなくなることにもなりかねません。
相続を放棄する場合でも、それで金銭的負担がなくならないことに注意しましょう。
まとめ
住居として使用している建物を取り壊すと、土地の固定資産税が上がります。
それ以外にも、所有している空き家が「特定空き家」に指定されるケースでも起こります。
空家を所有している場合は、賃貸に出す、誰かを住まわせる、売却するなどして対処しないと、固定資産税の増額、自治体からの撤去費用の請求などで返ってきます。
空家の劣化は時間の経過と共に進んでいきます。
空家を所有しているなら、早めの対策が必要です。
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