節税は基本的に手元キャッシュを減らす行為で、節税に力を入れるほどキャッシュは社内から流出していきます。
会社の存続がキャッシュのあるなしで決まることを思えば、これは会社の倒産リスクを拡大させる行為で実は危険をはらんでいます。
節税は悪とはいいませんが、節税を行うのなら、会社が安全といえるキャッシュ残高の基準を満たしてからです。
無目的に行う節税は会社をリスクにさらすだけの愚かな行為です。
会社が資金ショートに耐えられるキャッシュ残高
会社が万が一の資金ショートなどに備えて、用意しておくべきキャッシュの額は、月商の2か月~3か月分といわれています(業種によります)。
なぜ上記金額なのかというと、通常の営業サイクルで必要になる運転資金は、月商の1.5か月程度かかります(こちらも業種によります)。
要は、仕入れから販売して代金を回収するまでに必要になるお金が月商の1.5月分程度ということです。
これに余裕を持たせて、月商の2か月~3か月程度のキャッシュ残高があれば、急な資金ショートなどに耐えられ、ひとまず安全域というわけです。
逆にいえば、月商の2か月~3か月分キャッシュが貯まってないのであれば、社外に流出させてしまう施策を行うべきではないのです。
しかし節税とは、基本キャッシュ流出させてしまう行為です。
節税の原則とは?
節税の原則は利益を減らすことです。
たとえば1,000万円の売上げがあり、原価と経費で600万円かかった場合、この会社の利益は400万円です。
法人税を30%とすると、納める税金は120万円で、手残りの額は280万円となります。
・(1,000万円-600万円)×30%=120万円
・1,000万円-600万円-120万円=280万円
「税金が120万円?売り上げの1割以上も払うのか!」と憤慨した社長は節税を考えます。
そこで200万円の節税対策を行い、経費を800万円計上しました。
すると法人税は半分の60万円にすることができました。
・(1,000万円-800万円)×30%=60万円
法人税が半分になって晴れて節税成功です。
しかしちょっと待ってください。
節税は成功しても手残りのキャッシュはどうなるっでしょう?
そうです、キャッシュは節税前より少ない140万円になってしまったのです。
・1,000万円-800万円-60万円=140万円
節税で納税額は減らせましたが、同時に手残りのキャッシュも減ってしまいました。
節税自体が目的になると道を間違う
会社の存続はキャッシュのあるなしで決まります(真の倒産は社長がバンザイしたときのようですが、ここでは一般的な解釈の存続です)。
であるなら、無用にキャッシュを減らしてしまう節税は控えるべきでしょう。
むしろ最初にお話しした通り、月商の2か月~3か月分は手元資金を置いておかないと危険なのです。
そもそも節税の目的とは、「無駄な税金の支払いを抑えて手元キャッシュを最大化すること」です。
税金の支払いを極限まで抑えることではないでしょう。
しかし節税を行なっていると、いつしか節税自体が目的になってしまい、当初の目的とは反対に手元キャッシュを減らしてしまう結果になってしまいます。
あなたが節税を行う目的は何?
あなたにとって節税を行う目的は何ですか?
その答えは社長によって「税金を払うのがもったいない」など様々あるでしょう。
そんな社長でも共通しているのは、「会社が万が一のときに備えてできるだけお金を残しておきたい」ということです。
どこで起こるかわからない、取引先の倒産、売掛金の焦げ付き、資金ショート、災害による被害など、大波が襲ってくればいつひっくり返ってもおかしくありません。
銀行は雨の日に傘は貸さないという言葉があるように、困ったときに必ずしもお金を貸してくれるわけではないでしょう。
そんなとき頼れるのは自己資金です。
それゆえ、万が一のリスクに備えて1円でも多く資金をプールしておきたい、これがどんな社長にも共通する節税を行うニーズではないでしょうか。
にもかかわらず、です。
いつしか節税が目的になって、手元資金を減らしてしまうのであれば、何が何やら、本末転倒とはこのことでしょう。
会社が潰れてしまえば節税はできない
わたしは何も節税が悪いことだとはいっておりません。
節税をして手元キャッシュが増えるのであれば、ガンガン行うべきです。
しかし現実の節税は、ただキャッシュを減らすだけで、何のリスク対策になってないことがほとんどなのです。
会社を守るためというなら、手元資金こそ厚くしておくべきで、節税効果があったとしても、キャッシュを手元から流出させてしまうのは基本的に採るべき財務戦略ではないのです。
そもそも会社が潰れてしまっては、節税もクソもないでしょ、という話です。
節税より優先度が高いのは、キャッシュを貯めることです。
節税は月商の2か月~3か月分を貯めてから
ですから節税を行うのあれば基準を持って行うべきです。
まず上述した会社の安全水域、月商の2か月~3か月分のキャッシュを目安にして、これを貯めるまでは節税は行わない。
月商の2か月~3か月分を超えるキャッシュが貯まったら、はじめて節税に取り掛かる、という風にすれば、会社を無用なリスクにさらすことなく、万が一の手元資金をプールすることができます。
無目的な節税、単に支払いを少なくしたい節税、これらは会社をダメにする節税です。
節税も財務戦略を持って行うことが肝心です。
その節税、対価に見合った見返りある?
ここからは余談ですが、節税を行うと一定期間、手元からキャッシュが消えてしまいます。
手元から消えてしまうということは、その分不自由になるわけで、それに対して等価となるのが金利です。
お金を預けて使えなくなる分、その利息を受取れるなら預けてもいいよ、という対価のことです。
であるなら、節税のために中長期間、手元キャッシュを預けるわけですから、それに見合う分増えて返ってこないとおかしいでしょう、という話です。
預けたお金が目減りして返ってくるのはもちろん、少ししか増えないのであれば、節税効果はあっても投資商品としては魅力がないということです。
節税を行うのであれば、投資商品としてきちんとした見返りがあるかも計算しておきたいところです。
まとめ
無目的に行う節税や、単に納税額を少なくしたいだけの節税は、手元キャッシュを減らすだけで意味がありません。
たしかに目先の支払いは少なくできますが、それ以上に失っているものがあることを認識しましょう。
節税を行うのであれば、月商の2か月~3か月分を貯めてから。
それ以下の残額しかないのであれば、節税を行うことで社外にキャッシュが流出し、万が一のときに資金ショートを起こす恐れが出てきます。
節税は部分解でしかありません。
全体を見て、バランスの取れた節税を行いましょう。
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