2020年の給与所得控除縮小で、社員・役員さんの社会保険料見直しが必要になる

人件費対策

社員さんや役員さんの中にも、「手取りを増やしたい」というニーズはあります。

とくに高額な給与を受取っているほど、税や社会保険料の負担感は大きくなります。

2020年からは給与所得控除は削減され、850万円以上給与収入がある人の手取りは減ることになります。

ということは「社会保険料を削減したい」という社長と利害が一致する可能性が高く、社会保険料見直しの提案を受け入れてもらいやすくなります。

高額所得者の給与所得控除が削減される

2020年より、給与所得控除が縮小されます。

給与所得控除の控除額は、給与等の収入金額により段階的に設定されていて、今回の改定で一律10万円引き下げられます。

そしてこれまで1,000万円超だった上限が850万円超に引き下げられ、そのうえ給与所得控除額が195万円まで縮小されることになりました。

No.1410 給与所得控除

ただし給与収入が850万円超の人の負担増を和らげるため、新たに「所得金額調整控除」が設定されました。

次の条件に該当する場合に適用されます。

  • 特別障害者に該当する人
  • 年齢23歳未満の扶養親族がいる人
  • 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる人

要するに2020年からは、850万円を超える給与所得の人は、今以上に手取り(可処分所得)が減るということです。

さらにこれに社会保険料の負担が15%ですので、税・社会保険の負担感は増すばかりです。

基礎控除も同時に10万円アップするが・・・

ちなみに、2020年の税改正では、基礎控除がこれまでの38万円から、一律10万円アップして48万円に引き上げられます。

そのため、給与所得控除が10万円アップしたとしても、税負担は変わらないことになります。

しかし基礎控除のアップの恩恵を受けられるのは、給与収入が850万円以下の人までです。

実は、所得金額の高い人にまで一律に控除を適用する必要性は乏しいのではないかとの指摘を受け、高所得者については段階的に控除額が引き下げられることになったのです。

そのため給与収入が850万円超の人は、23歳未満の扶養親族がいる人など所得調整控除の対象となる以外は、段階的に控除額が減るため負担増となります。

  • 改正前:基礎控除38万円+給与所得控除220万円=トータルの控除額258万円
  • 改正後:基礎控除48万円+給与所得控除195万円=トータルの控除額243万円

ですから、850万円超の給与がある大方の人は、基礎控除が増えても、実際は負担が増すことになるのです。

「手取りを増やしたい」ニーズの発生

社員さんや役員さんに、850万円超の給与を支払っている中小企業は限られているかもしれませんが、この税改正で社会保険の見直しを提案しやすくなります。

先述した通り、今回の税改正で850万円以上給与を受取っている社員さんや役員さんの手取り額は減ります。

そのため「手取りを増やしたい」というニーズが出てきてもおかしくないでしょう。

それ以外の850万円以下の方でも、手取りを増やしたいとい方はいらっしゃると思います。

通常、社会保険料削減の提案をすれば、一番抵抗するのは社員さんです。

しかし、税や社会保険の負担が重くなってくると、どこかを見直して手取りを増やしたいというニーズが切実になってきます。

これは社会保険料の負担を減らしたいという社長と利害が一致することになります。

社会保険料削減したい社長にとっては、今回の税改正は、ある意味提案しやすく受け入れられやすいチャンスとなります。

将来の公的年金の価値

もちろん、社会保険を削減すれば将来の年金や離職したときの雇用保険が少なくなることは、きちんと説明しておかなくてはいけません。

ですが、老後2000万円問題が示す通り、将来受け取れる年金の価値が、本当に見合うものかじっくり考えてみるべき時期に来ています。

重い負担だけさせられて、年金の支給額は減らされ、支給時期はどんどん延ばされる、60歳を超えて給与の高い人は、在職老齢年金で年金の支給調整に合ってしまうなどなど、これからの年金受給者には理不尽な仕打ちが待っています。

お金の価値はファイナンス理論でいえば、明日受け取る100円よりも、今手元にある100円の方が価値が高くなります。

今日と明日という1日の差しかありませんが、すぐ使える100円の方が価値が高いことはおわかりいただけるでしょう。

明日受け取る100円は、すぐに使えないというデメリットがあり、その分だけ価値が割り引かれるというわけです。

明日の100円より今日の100円の方が「現在価値」は高いのです。

これは年金にも同じことがいえます。

社会保険で強制的に徴収された保険料は、60歳以上にならないと使えることができません。

しかし手もとにお金があれば、それを自由に使うことができます。

そのお金で、事業を起こすのもよし、利回りの高い金融商品に投資するの良し、マンション投資するもよし、と自分で投資してお金を増やすことができます。

つまりその分だけ、社会保険料を見直して手元に残すお金の「現在価値」は高いということです。

もっとも、自分の投資が必ずしも成功するわけではありませんが、時間軸でお金の価値を考えると、公的年金がその価値に見合うかどうか計る指標になります。

従業員さんや役員さんにだって、選択する余地があってもよいのではないでしょうか?

まとめ

2020年の税改正で高額所得者の税負担は増え、手取りが減ることになります(社員さん役員さんだけでなく社長も同じですね)。

この税改正は社会保険料の負担と相まって、かなりの負担感になるでしょう。

そうしたとき、手取りを増やしたいというニーズが発生します。

それは会社負担の社会保険料を減らしたいという社長の利害と一致しまます。

この機会に社会保険見直しの提案を社員さん役員さんにしてみると受入れられやすくなりますよ。

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