役員貸付金や回収見込みのない売掛金、売れない不良在庫など、これらが経営にとってよくないことは誰もが理解できるでしょう。
たしかに貸借対照表上では資産に計上されますが、キャッシュ化できない資産には価値はなく、事実上ほぼ無価値です。
しかしこれらの資産は事業承継時にも、円滑なバトンタッチの足かせになります。
不良資産は名目上でも資産に計上されるので、不必要に会社の株価を上げてしまい、事業承継がある際に無駄な税金を支払う羽目になってしまうのです。
経営効率も悪化する
役員貸付金や回収見込みのない売掛金、売れない不良在庫などは、ほぼキャッシュ化できないにもかかわらず、貸借対照表上は資産に計上されます。
キャッシュにできないのですから、経営を行うにおいても会社の資金繰りを圧迫します。
これらがないに越したことはないのは、いまさら説明の必要はないでしょう。
ちなみに、ROAという経営指標でみると、不良資産があることで、どれだけ経営に阻害になっているか簡単に理解できます。
ROAの表す意味は、企業がいくらの資産を用いて、どれだけの利益を稼いだかを見る指標です。
ROAは高い方がよく、数値が高いと効率良く稼いでいることを意味します。
ROAの求め方は以下の通りです。
・当期純利益÷総資産×100
上記計算式からもわかる通り、利益に対して総資産が小さいほど、効率よく経営を行っているということになります。
反対に利益に対して総資産が大きいほど、非効率な経営を行っていることを表します。
キャッシュ化できない不良資産は、無駄に会社の総資産を膨らませますので、これらの資産があるほど、経営は非効率なります。
ですから、キャッシュ化できない資産は、経営の面においても無駄となります。
実態以上に上がった株価が不必要な税金を招く
そして不良資産は、貸借対照表の資産に計上されますので、会社の株価も同時に上げてしまいます。
このことが事業承継時に響いてきます。
会社の株価が上げれば、贈与・相続・譲渡のいつずれの方法を採る場合でも、そこに多額の税金が発生します。
しかも実態以上の株価ですから、支払う税金も無駄なものが多く含まれることになります。
ここで、「特例事業承継税制」を使えば、「贈与をしても税金をゼロ円にして事業承継を行えるのでは?」と思われるかもしれませんが、この特例は特例でデメリットも存在するのです。
たとえば、事業承継を親族外の人で行う場合、先代社長(現社長)の相続財産の詳細が親族外後継者にも見られてしまうのです。
お亡くなりになった後は何も感じることはないとはいえ、かなりプライベートな部分を他人にさらけ出すわけですから、先代経営者にとってみれば大きな抵抗感となります。
残されたご遺族にとっても、相続した財産の内容を知られることになりますから、それもまた怖い話です(本来は性善説に立つべきですが、人の考えは立場が変わればコロッと変わりますからね)。
そういう意味では、やはり特例を使わず事業承継を行うのがベストです。
役員借入金・売掛金を貸倒れ処理するには
そんなとき、株価を不必要に上げてしまう不良資産の存在は、何かと事業承継のネックになります。
そこで、役員貸付金、回収できない売掛金、売れない在庫などを処分すれば、株価を下げることができます。
ただし、税務署は損失処理を簡単に認めてくれません。
回収できない売掛金、役員貸付金など、貸倒れと認められるには、かなり高いハードルをクリアしなくてはいけないのです。
貸倒れ損失と認められるには
金銭債権の全額が回収不能であること
を証明しなくてはいけません。
全額回収不能とは
・債務者の資産状況
・債権回収に必要な労力
・債権額と取立費用との比較衡量
・債権回収の強行による他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等
といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきもの。
最高裁、平成16年12月24日判決。
税理士見田村先生のメルマガより引用
ちなみに、「債権者の相続人に請求してない」「抵当権を処分してない」「連帯保証人に履行を求めてない」などの理由で貸倒れ損失の処理を「否認」された判例もありますので、「金銭債権の全額が回収不能であること」とは思う以上にハードルが高いと認識しておくべきでしょう。
不良資産の処分により会社の株価を下げることは大事ですが、簡単ではないことにも注意しておく必要があります。
まとめ
役員貸付金、回収見込みのない売掛金、売れない在庫といった、キャッシュ化できない不良資産は、会社の経営効率を落とすだけでなく、事業承継時に足かせとなります。
実態以上に膨らんだ資産は、不必要に株価を引き上げ、事業承継時に多大な移転コストとして返ってきます。
できれば、発生させないに越したことはないですが、あるなら金額が大きくなる前に処理しておきたいところです。
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