社長の年金は70歳になるとどうなるか?

社長の年金

社長が70歳に達すると、厚生年金保険の加入資格を喪失します。

つまり、社長が70歳になると、厚生年金保険料を支払わなくてよくなるのです。

しかしだからといって、70歳になると「自動的に年金がもらえるようになる」わけではないことに注意しなくてはいけません。

厚生年金保険の「加入資格喪失」と、「年金を受取れる」ことは別なのです。

70歳で厚生年金保険料の支払いはなくなる

役員でも従業員でも、年齢が70歳に達すると厚生年金保険の加入資格を喪失します。

加入資格を喪失するわけですから、以後、厚生年金保険料を支払わなくてよくなります(健康保険はそのまま75歳まで加入して、75歳より後期高齢者医療制度に加入します)。

とはいえです。

厚生年金保険の加入資格を喪失したからといって、それが即、年金の受給資格を得ることとは別になります。

70歳以上で、厚生年金適用事業所(法人のこと)で働く人(役員・従業員)は、「70歳以上被用者」になり、在職老齢年金の対象となってしまうのです。

在職老齢年金とは、一定上の給与収入がある人が、老齢厚生年金の支給を調整される制度のことです。

つまり、70歳以上の会社の社長で一定上の収入がある場合、厚生年金の保険料は支払わなくてもよくなりますが、在職老齢年金の対象となるため、「年金を全額受け取れるわけではない」ということなのです。

月額47万円以上の役員報酬を受け取っている65歳以上の社長の場合、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止されてしまいます。

  1. 基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円以下の場合⇒全額支給
  2. 基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円を超える場合⇒基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2

65歳以後の在職老齢年金の計算方法

出社日数を減らしても年金は受け取れない

ここでよくあるのが、「出勤日数を減らせば年金を全額受け取れる」という勘違いです。

70歳以上の収入がある人でも、

  • 一週間の所定労働時間が正社員の4分の3未満
  • 一か月の所定労働時間が正社員の4分の3未満

という条件を満たせば「70歳以上の被用者」に該当しなくなるのですが、これはあくまで従業員の場合です。

社長や役員の場合、上記の基準でなく「実態」で判断されます。

具体的には以下の基準で総合的に判断されます。

  • 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか。
  • 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか。
  • 当該法人の役員会等に出席しているかどうか。
  • 当該法人の役員への連絡調整または職員に対する指揮監督に従事しているかどうか。
  • 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか。
  • 当該法人等より支払を受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって実務弁償程度の水準にとどまっていないかどうか。

ちなみに、これは「70歳以上被用者」だけでなく、社会保険の対象となる役員にも適用される判断基準です。

社会保険料逃れのために、登記上は「非常勤役員」にしていても、実態が経営にかかわっている状態なら「常勤役員」とみなされ、社会保険料の対象となります。

役員の社会保険、あるいは70歳以上被用者の対象かどうかの基準は、従業員とは違うということを認識しておきましょう。

社長が年金を全額受け取るには

70歳以上の社長で年金を全額受取りたい人は、

年金月額と役員報酬月額との合計額を47万円以下に抑える必要があります。

具体的には次の計算式で求めた金額を47万円以下にしなくてはいけません。

「老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額÷12+標準報酬月額」

※役員賞与がある場合は、役員賞与を含める

たとえば年金(報酬異例部分)が年間240万円(月額20万円)なら、標準報酬月額を26万円(役員報酬は25万円~27万円の間で設定)にすると、年金が全額支給されます。

それ以上だと年金を全部、または一部を支給停止されます。

※老齢基礎年金および経過的加算額は全額支給となります。

現在の収入を変えずに年金を全額受給したい場合は、「事前確定届け出給与」を使えば可能になります。

ただし、役員賞与を使った方法は退職前に行うと税務上のリスクを伴います。

したがって、たとえ年金を満額受給できるとして、70歳を超えてから行うべきではありません。

年金を満額受給するより、税務上のペナルティの金額の方が大きくなるかもしれないからです。

また、それ以外も、安易な年金復活プランで奥様の遺族厚生年金が0円になるリスクもあります。

年金を満額受給するために、極端な役員報酬の受け取り方をすると、それなりのリスクが発生することは認識しておきたいところです。

ちなみに、法人の規模が大きくないなら、あらためて法人事業の一部を個人事業に分割して、年金を満額受給するという方法もあります。

まとめ

法人の社長が70歳になると、厚生年金の保険料の支払いはなくなり、70歳以上被用者に移行します。

その際、70歳になれば自動的に年金を全額受け取れるのではなく、年金は収入によって調整されてしまいます。

70歳以上の被用者の対象になるかどうかは、経営に携わっているのかの「実態」で判断され、従業員基準の「正社員の4分の3未満」でないことに注意が必要です。

要するに、社長は出社日数を減らしても年金は全額支給されませんよ、ということです。

関連記事

この記事へのコメントはありません。

マニュアル・書籍


最近の記事

  1. 最高裁の判例から考える誤魔化しの残業代は通用しない時代

  2. 就業規則にない事由で従業員を懲戒処分にはできない

  3. 髭や金髪はあり?!社員の身だしなみはどこまで制限できるか?

  4. 業務命令を拒否する社員を業務命令に従わせることはできるか?

  5. 定められた手続きを踏まない36協定は無効になる

  6. 能力のない社員を解雇できるか?判例から読み解く解雇前に必要な準備

  7. 連帯保証解除に無借金と節税が「妨げ」になる理由

  8. 自宅謹慎を命じた社員の「謹慎中の賃金」は支払わなくてはいけないか?…

  9. 懲戒解雇・競業避止で社員の退職金は減額・不支給にできるか?

  10. 不祥事を起こした社員の退職金は損害賠償と「相殺」できるか?