社長の相続財産にある「役員借入金」と「役員貸付金」の相続リスクを知る

事業承継対策

社長(被相続人)が亡くなった場合、配偶者や子(相続人)に社長の財産が引き継がれます。

その相続財産の中には、不動産や金融資産、自社株といったプラスの財産のみならず、「負債」も同時に引き継がれます。

会社経営だと、社長が個人保証をした銀行からの借入、社長が会社からお金を借りている「役員貸付金」などがあります。

これとは逆に、名目上はプラスの財産ではあるけども、相続人にとっては「負の財産」となる可能性のある「役員借入金」もあります。

配偶者、子に社長の財産を安心て引き継いでもうらうためには、生前にこれらのお金を処理しておく必要があります。

あなたが現役社長の場合ならなおさらですが、あなたがこれから会社を承継するのであれば、どんな財産を引き継ぐのか理解しておくこも重要です。

思わぬマイナス財産を引き継げば、知らぬ間に大きなリスクを背負うことになってしまいます。

社長の相続財産の種類

相続財産には、「プラスの財産」と「マイナスの財産」の2種類があります。

配偶者や子がもらってうれしいのが「プラスの財産」で、もらって困るのが「マイナスの財産」です。

仮にプラスの財産があっても、それを上回るマイナスの財産が多ければ、必然的に支払いの方が多くなるわけで、場合によっては相続を放棄した方がよいケースも出てきます。

ちなみに、生命保険の死亡保険金は「受取人固有の財産」となるため、相続を放棄した場合でも、社長が指定した受取人が死亡保険金を受け取ることができます。

つまり、マイナス財産を引き継がず、死亡保険金だけ受け取ることが可能なのです。

マイナスの財産が多い場合で、「この人に財産を残してやりたい」という社長の強い想いがある場合は、その渡したい人を死亡保険金の受取人にきちんと指定しておきましょう。

一般的に生命保険と聞くと嫌がられることが多いですが、生命保険を活用しないとお金を「確実に残す」ことはできません。

知識がないゆえに生命保険を毛嫌いするのは仕方ないことですが、お金を残したいなら生命保険の正しい知識を身につけておくことをおすすめします。

損するのはあなたとあなたの大切な人たちです。

相続の「プラスの財産」と「マイナス財産」

プラスの財産とは、不動産(自宅)、現金預金、有価証券(株式や投資信託など)、その他の資産(貸付金、死亡保険金、死亡退職金など)があります。

マイナスの財産とは、借入金や未払金などです。

借入金は、個人のカードローンや、住宅ローン、収益不動産のローンなどがあります。

住宅ローンや収益不動産ローンの場合は、死亡すると団体信用生命保険で残額を一括返済できますので、金額の大きい不動産のローンがあるときは団信に加入しておきたいところです(ただし、団信で解決できるのは、ローンの残債が0円になることまでです。相続で揉めないためには、誰にその不動産を相続させるかきちんと指定しておく必要があります)。

未払金は、支払いの終わってないお金です。

たとえば、手付金しか支払っていなく、残債が残っているケースです。

また、社長が個人事業主の場合、取引先相手からツケで購入している買掛金があれば、これもマイナスの財産となります。

さらに、社長が自社の借入や他人の連帯保証人となっている場合は、その連帯保証人の地位も相続人が引き継ぎます。

連帯保証人は、保証した人(借りた本人)が支払い不能にならないと実害がなく、わかりにくい負債ですが、借りた人が支払いできない状態になれば、相続人が保証人のハンコをついたわけでなくとも請求される(しかも拒めない)負債です。

連帯保証人があれば、しっかり相続人に伝えておくべきです

社長の相続にある2つの危険な財産

上記にあげた財産は、比較的わかりやすい財産です(連帯保証人以外は)。

しかし法人の社長の場合、これ以外にも気を付けておくべき財産があります。

それが「役員貸付金」と「役員借入金」です。

プラスの財産「役員借入金」

役員借入金とは、社長が会社に貸したお金のことです。

会社の経営が厳しいときなどに、社長の個人マネーで補てんすると、このお金が発生します。

自らの会社に貸したお金が「プラスの財産?」と思われるかもしれませんが、先述したように、第三者に貸したお金は「債権」というプラスの財産になります。

これは自分の会社に貸したお金も同じです。

中小企業の社長は、現実は法人と個人は一体ですが、法律上は別人格として扱われます(扱われないと公私混同でグダグダになります)。

したがって「役員借入金」は、プラスの相続財産になるのです。

プラスの相続財産ですから、相続税が発生します。

会社に貸し付けるお金は、一般的に大きな金額となります。

会社に多額の役員借入金を返せるキャッシュがあればよいですが、ない場合は、相続人が負担して相続税を支払わなくてはいけなくなります。

社長に個人資産が少ない状態で役員借入金があると、相続財産から賄えきれず、相続人の個人資産から手出ししなくてはいけない事態にもなります。

役員借入金がある場合は、生前に会社から返済してもらうか、法人保険で社長死亡時に会社に入る死亡保険金で清算するようにしておく必要があります。

マイナスの財産「役員貸付金」

役員貸付金は、会社が社長に貸したお金のことです。

役員報酬だけでは生活費が足りないときなどにに、社長が会社からお金を借りると発生するお金です。

「負債」というマイナスの財産ですから、相続人が負債を引き継ぎます。

相続人は、自分が使ったお金でもないのに、借金を引き継ぐという何とも腑に落ちないことになります。

役員貸付金は、自分の会社から借りたお金だからといって、簡単にチャラにはできません。

それを税務署が許してくれないのです。

会社から借りたお金を簡単にチャラにできれば、社長はいつでも税逃れをできてしまいます。

そんな安易な抜け道を、国税が許すわけがないでしょう。

役員貸付金の貸倒れ処理の基準は厳しい

ちなみに、税務上の「貸し倒れ」を認めてもらうには、非常に厳しい条件をクリアしなくてはいけません。

その基準は「債務者の資産状況、支払能力からみて全額が回収できないことが明らかになった」ときです。

具体的には、「債務者について破産、強制和議、強制執行、整理、死亡、行方不明、債務超過、天災事故、経済事情の急変等の事実が発生したため回収の見込みがない場合」です。

しかし、実際のところはこれらの事由に該当しただけでは、貸倒損失は認められないという現実があります。

たとえば、次の判例をご覧ください。

本件乙債権については、死亡した債務者には兄弟姉妹が存在しており、また、債務者の死亡、相続人の不存在は債権の消滅原因でないから、この点に関する請求人の主張には理由がなく、そして、平成9年3月期において、請求人が同債権の債務者の所有地に抵当権を設定したままであり、また、その連帯保証人にその履行を全く求めたことがないことから、同債権が回収不能となっていたとは認められない

いかがでしょう?

その債権に

  • 債務を引き継ぐ相続人がいる
  • 連帯保証人に履行を求めてない
  • 担保の処分をしてない

という事実があれば、支払い能力がないとはいえず、貸倒れを認めないという判決が出ているのです。

役員貸付金を簡単にチャラにできない(貸し倒れ損失処理)ということがよくわかる事例です。

つまり、役員貸付金を引き継いだ相続人が、「その資産状況、支払能力からみて全額が回収できないことが明らかになった」ことを「完全に証明」できないと、役員貸付金をチャラにできないわけです。

だからこそ、役員貸付金があれば、それを解消できるように生前に処理しておかなくてはいけないですし、相続人の立場であれば、現社長に処理してくれるようお願いしておかなくてはいけないのです。

役員貸付金の処理方法にはいくつかありますが、ここでも生命保険が役立ちます。

たとえば、終身保険ならいつお亡くなりなっても、契約時に決めた死亡保険が支払われます。

現役時代は法人契約で会社に保険料を負担してもらい、勇退時にその終身保険を退職金代わりとしてもらい、死亡時に死亡保険金で返済という方法もとることができます。

いずれにしても、相続人に迷惑をかけたくないのなら、役員貸付金を解消できるプランを早いうちから組んでおくべきです。

まとめ

社長の相続発生時は、一般的な相続財産以外にも、「役員貸付金」や「役員借入金」が含まれてきます。

このお金は、意外に相続人のリスクになります。

現社長の立場からでだけなく、あなたが会社を継承する立場も、この事実はしっかり認識しておくべきです。

でなければ、会社承継時に思わぬ負債や相続税の支払いを負うことになります。

会社経営者の相続の場合は、一般的な相続よりも複雑になることを認識しておきましょう。

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