以前ご相談の中で、「社長(夫)から役員になってくれないか?」と誘われているが、「役員になるメリットてありますか?」というご相談がありました。

仮にご主人以外の会社の従業員なら、それを辞めてまで役員になるメリットはあるのか?あるいはご主人の会社でも、従業員の立場なら、そこから昇進して役員になるメリットがあるのかどうかについてです。

社長側から見た配偶者を役員にするメリットは記事にしたことはありましたが、役員になる側(親族や家族外の人)のメリットというのは記事にしたことはありませんでした。

そこでこの記事では、役員になる側から見た、役員になるメリット・デメリットについて解説します。

役員の決められ方

役員とは、会社法で決められた「取締役」のことであり、会社の方針を決めるのが仕事です。

ちなみに「代表取締役」とは、取締役会によって選ばれた役員(取締役)のなかで、会社の意思について対外的に示す権限を持つ人のことを指します。

代表取締役は会社を代表して業務を執行するとともに、対外的な「契約」などの行為に関わる権限を持っています

「社長」や「専務」や「常務」などは、あくまでも各会社が独自に定めている呼称です。

取締役は、株主から指名されて、株主総会の決議を経て就任します。

任命権があるのは、あくまで「株主」ですので、株をもってない社長には、社長といえど任命権はありません(中小企業の場合、株主と社長はだいたい一緒ですので、この場合は任命権はあります)。

役員の任期は原則2年です。

公開会社ではない会社は、定款で定めることで10年まで伸ばすことが可能です。

会社法第332条

従業員と役員との違い

株主総会で選任された役員は、会社と「委任契約」を結びます。

従業員の場合は、「雇用契約」になりますので、これが役員と従業員の立場の違いになります。

要は労働法の保護が及ぶ「労働者」ではなくなるということです。

ですから、通常の労働者が受けられる次のような権利を役員は受けることができません。

  • 残業をしても残業代は出ない
  • 委任契約を解除されても失業保険は出ない。
  • 労働保険の適用がなく、仕事中のケガに補償がない。
  • 会社の破産時に給与は優先的に保護されない。
  • 会社の倒産時、国の未払賃金立替払制度を利用できない。

この点から見ると、守られるべき権利を失うことになるので、あえて役員になるべきかよく考える必要がありそうです。

役員を辞めるとき

役員は株主総会で選任されますが、辞めるときも株主総会の決議を経て「解任」されます。

労働者のように「予告解雇」されるわけではありません。

ですが、労働者の立場が保護されていることを考えると、解任も労働者に比べ簡単にできてしまうといえます。

ただし、役員は株主総会の決議で解任できますが、何でも解任できるかといえば、そんなことはありません。

会社のお金を横領した、病気で長期入院して仕事を行えないなど、正当な理由以外の解雇の場合は、任期満了までの役員報酬を損害賠償できます。

その反対に、自分で役員を辞めるときは、任期の途中でも自由に行えます。

辞任の理由は特に問われませんし、会社側の承諾も不要です。

第651条

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

民法651条

しかし、取締役が会社にとって不利な時期(不利益となるようなタイミング)で辞任した場合で、会社に損害が発生したときには、辞任した役員は会社の損害を賠償する責任を負います。

役員の報酬

役員になるメリットといえば、従業員の立場よりも多く報酬を受け取れることです。

しかも役員は委任契約ですので、雇用契約のように時間ベースに縛られることがなく、労働時間は少なくても高報酬を受け取ることができます。

ただし、現実問題として、役員だからといって高報酬を約束されるわけではありません。

役員報酬をいくら受け取れるかは、その会社の利益によりますので、役員とは名ばかりで、従業員の給料より少し多いくらいといったケースもあるでしょう。

そう考えると、労働者より保護される部分は少なく、リスクに見合ったリターンがあるかは、よくよく考えてみなくてはいけません。

なお、役員も社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しなくてはいけません。

役員が負う責任

役員が負う責任は、会社へ対してのもと、第三者に対してのものの2つがあります。

会社への責任

役員(取締役)は会社に対して、善管注意義務・忠実義務を負っています。

これは、ある業務を委任された者がその分野の職業人・専門家として一般に期待される注意義務を意味します。

善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)とは、業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のことです。

忠実義務とは、取締役は法令・定款規定と株主総会会議を遵守し、会社のため忠実に責務を果たす義務がある、という規定(商法第254条の3)です。

善管注意義務・忠実義務を負っている役員は、会社に対して次の損害賠償責任を負う可能性があります。

  • 取締役の任務を怠った場合(任務懈怠責任)
  • 競業取引をした場合
  • 利益相反取引をした場合
  • 株主に対して利益供与をした場合
  • 分配可能額を超えて剰余金を配当した場合
  • 出資の履行が適法になされなかった場合
株主代表訴訟

取締役が会社に対して損害賠償義務を負う場合には、仮に会社が取締役に責任追及をしなくとも、一定の要件の下で株主が訴訟を提起されることもあります。

第三者に対する責任

会社法では一定の要件を満たす場合、取締役が第三者に対して責任を負うとされています。

第三者とは役員が所属する会社以外の第三者を意味します。

第429条

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

会社法第429条

役員が第三者に責任を負う場合は以下のとおりです。

  • 取締役がその職務を行うについて任務懈怠(義務違反)があったこと
  • 取締役に悪意又は重大な過失があったこと
  • 第三者に損害が生じたこと
  • 取締役の任務懈怠と第三者の損害に因果関係があること

取締役は会社法上、「会社に対して」善管注意義務・忠実義務を負っていることは先述しました。

ですが、これらの義務に違反するような「任務懈怠」があった場合には、その責任は会社だけにとどまりません。

任務懈怠によって損害を被った第三者(会社ではない)に対しても、責任を負うとされているのです。

この規定は実務上、倒産した会社の債権者が会社の取締役に対して責任を追及し、債権回収を図るために使われることが多いようです。

責任の免除

役員が会社に対して損害賠償責任等を負う場合であっても、一定の要件を満たせば役員(取締役)の責任の全部又は一部が免除されます。

役員の任務懈怠による損害賠償責任を免除するのには以下の方法があります。

総株主の同意(責任の全部免除)

  • 株主総会の特別決議(責任の一部免除)
  • 定款の定めに基づく取締役会の決定(責任の一部免除)
  • 責任限定契約(責任の一部免除)
  • 免除が認められない金額(最低責任限度額)

会社法では株主総会の決議によっても免除をすることができない金額が定められています。

これを最低責任限度額といいます。

最低責任限度額は、

  1. 1年当たりの報酬等の額に基づいて算定される金額
  2. 新株予約権を特に有利な条件で引き受けた場合の財産上の利益に相当する額

の合計額です。

この金額に、代表取締役は年報酬の6倍、それ以外の取締役は4倍、社外取締役は2倍と決められた数字を掛けて最低責任限度額を求めます。

仮に、代表取締役について損害賠償額が3億円で、役員報酬が2000万円なら、最低責任限度額は1億2000万円、最大免除額は1億8000万円となります。※新株予約権は保有せず

・2000万円×6=1億2000万円

・3億円-1億2000万円=1億8000万円

株主訴訟も現実として増えているようですから、役員になったら損害賠償に備えた保険に加入しておく、というのが解決方法です。

知恵の働く人はたくさんいますし、損害賠償を起こして合法的にお金を請求できるわけですから、新たな企業ゴロの手法となってもおかしくはないのです。

小さい会社だから大丈夫とタカをくくっていると、思わぬところで大きな損害賠償を起こされる可能性があります。

逆にいえば、損害賠償のリスクがあるわけですから、それを材料にして役員報酬を高くする交渉に使えます。

役員辞任後の競業避止義務

役員には在職時に競合避止義務がありますが、辞任後にはその義務はどうなるでしょう。

一般論として、人には職業選択の自由が認められているため、辞任後に何の仕事に就くかまで制約されるものではありません。

とはいえ現実問題として、役員に辞任後に同じ職業に就かれてしまったら、顧客やノウハウの流出といったことが起こってしまいます。

そこで会社側としては、「同一県内で○年間は競業行為はしないでください」と競業避止義務に時間や場所の制限を設けたり、退職金を上乗せして競業行為をしないように代償措置を講じたりします。

仮にこの合意に反して競合を行ってしまうと、損害賠償を問われる可能性が出てきます。

また会社側と合意がない場合でも、役員在任中に顧客や従業員の引き抜き、ノウハウの持ち出しなどを準備して、退任後に競業行為に出た場合には、在任中の忠実義務等に違反していることになり、違法な競業行為として損害賠償責任を負うことになるでしょう。

取締役としての責任の時効は10年

なお、役員としての責任の消滅時効は10年です。

在任中に起こした義務違反について、もう取締役を辞めたから関係ない、とならないことに注意しましょう。

会社が倒産した場合

会社が倒産した場合、原則として役員だからという理由だけで、会社の破産に伴って何らかの法的責任を自動的に負わされるわけではありません。

個人の家を売ってでも金を払えとか、迫ってくる債権者も中にはいるでしょう。

しかし、会社は会社、役員は役員というそれぞれ別個の主体なので、会社の破産で役員が法的責任を負うということは基本的にはないのです(とはいえ、任務懈怠を理由に損害賠償を起こされる可能性はあります)。

ただし、役員が債務(借金や買掛金)の「保証人」になっていたり、個人の不動産を担保に入れている場合は別です。

自分の個人財産を処分して債務を返済しなくてはいけなくなります。

仮に、社長から「役員だから連帯保証人になって」などど持ちかけられ、保証人になるのであれば、万が一のときは。その負債を全額返済しなくてはいけないことを覚悟しましょう。

その覚悟がなければ保証人の判子を押してはいけません。

まとめ

ここまでお読みになればわかると思いますが、役員は責任だけ重くて、それほどメリットがないように思えます。

もちろん、その責任に比例して役員報酬が高ければ、それに見合う見返りがあるといえますが、安い役員報酬なら世間的に聞こえが良いというくらいのメリットでしょうか。

従業員ではないので、時間に拘束されず自由に仕事ができるというのもメリットといえばメリットですが、その分シビアに見られるので、結果がでなければ即解任となる確率も高くなります。

役員になるのは、経営に参画したい、会社の後を継ぐためなど、会社経営に対して何らかの事情がなければ、役員になるメリットはそれほどないといえるでしょう。

役員に誘われたときは、この記事が参考になれば幸いです。


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