一人社長の最適な役員報酬の決め方とは?

社長の手取りを増やす方法

一人社長が役員報酬を決める場合、どの額が適正といえるでしょう。

これに対する解は、「人それぞれ」としかいえませんが、役員報酬を決める際のポイントは、社長が何に主眼を置くかで決まります。

それは要約すると、個人にお金を残すか、会社にお金を残すかです。

この基準で考えれば、役員報酬を決める際のヒントになります。

例題:一人社長のケース

たとえば次のケースで考えてみます。

【例題】

従業員はなし。自分一人の会社で、初年度の売り上げは1000万程度の見込み。経費と原価は300万円。

将来的に人を雇って会社を大きくする予定はなし。

借入れも考えてない。

内部留保する必要がないため、赤字になるギリギリに役員報酬を決め、万が一会社が資金不足の場合は、個人から借り入れるという形でも良い。

個人と法人の税負担を考えた場合に一番いい役員報酬額を知りたい。

「会社に残すお金」と「個人のお金」の違い

まず一つの考え方として、会社に残したお金と、個人のお金の違いについて理解しておきましょう。

会社のお金

会社のお金は、基本的に「会社のためにしか使えない」という制限があります。

この縛りを破って会社のお金を使うと、「役員賞与」や「役員貸付金」となってしまいます。

役員賞与は役員報酬で受け取るよりも税負担が重くなります。

役員貸付金は、自分の会社といえど絶対返さないといけない借入れで、利息も支払わなくてはいけません。

要するに、会社のお金を勝手に使うとペナルティが大きく、それゆえ会社のお金は「会社のためにしか使えない」という制限が付くわけです。

個人のお金

その一方、会社から役員報酬で受け取ったお金は、制限なく自由に使えます。

そのため例題にもあるように、万が一資金不足の場合は、社長個人から会社に貸付けることもできます(これを役員借入金といいます)。

要は個人のお金は使い勝手がいいということです。

自由で使いやすいお金があるということは、会社を守るうえでとても重要なことです。

ならば、借入れが必要ない売上規模やビジネスモデルなら、あえて会社にはお金を残さない選択も役員報酬を決めるうえでは大事な考え方になります。

3パターンで一人社長の役員報酬をシミュレーション

以上の点をまず踏まえて、役員報酬をシミュレーションしてみます。

1・全額役員報酬で受け取った場合

例題では、売上1000万円、売上原価と経費が300万円なので、利益は700万円です。

ただし、会社負担の社会保険料分を残しておかなくてはいけなため、役員報酬は610万円になります。

役員報酬で610万円で受け取った場合の手取りは次の通りになります。※40歳未満 基礎控除のみで計算 法人税は21%で計算

<個人>

  • 所得税(復興特別税含む):21万7900円
  • 住民税:31万8000円
  • 社会保険料:84万6300円
  • 手取り:471万3800円

<法人>

  • 90万円-84万9600円=5万400円
  • 法人税:5万400円×21%=1万584円
  • 手残り:5万400円-1万584円=3万9816円

<合計>

471万38000円+3万9816円=475万3616円

2・役員報酬を500万円、会社に200万円のケース

では次に役員報酬を500万円、会社に200万円お金を残す場合はどうでしょう。

<個人>

  • 所得税(復興特別税含む):14万4300円
  • 住民税:24万6000円
  • 社会保険料:69万3960円
  • 手取り:391万9740円

<法人>

  • 200万円-69万3960円=130万6040円
  • 法人税:130万6040円×21%=27万4268円
  • 手残り:130万6040円-27万4268円=103万1772円

<合計>

391万9740円+103万1772円=495万1512円

3・役員報酬400万円、会社に300万円のケース

最後に役員報酬400万円、会社に300万円残すシミュレーションをしてみます。

<個人>

  • 所得税(復興特別税含む):8万6800円
  • 住民税:17万7600円
  • 社会保険料:57万5484円
  • 手取り:315万6116円

<法人>

  • 300万円-57万5484円=242万4516円
  • 法人税:242万4516円×21%=50万9148円
  • 手残り:242万4516円-50万9148円=191万5368円

<合計>

315万6116円+191万5368円=507万11484円

経営戦略で会社にお金を貯める

3つのシミュレーションで見てみると、個人の所得を少なくして、会社にお金を残す方が、手残りのトータルのキャッシュは多くなることがわかります。

ただ会社にキャッシュを残す場合、やはり目的が必要です。会社にお金を残す目的をざっと挙げてみると

  • 自己資本を貯めて、潰れにくい会社にする
  • 銀行融資に備えて会社の財務状況を良くする(すなわち決算書の数値を良くする)
  • 事業を拡大するため投資用のキャッシュを貯めておく

というようなことになります。

このような目的があるのであれば、会社の未来のビジョンと合わせて役員報酬の額を決める必要が出てきます。

社長の生涯手取りを最大化するスキーム

例題のように事業拡大や融資が必要ないなら、会社に残さず、全額役員報酬で回収してしまうのもいいでしょう。

しかし、あえて会社にお金を残すことで、生涯手取りを最大化することもできます。

そこで使うのが退職金です。

退職金の税優遇を使って、会社に貯まったお金を、最小負担の税金で社長個人へと所得移転を行うのです。

そうすることで、法人税と個人の所得税率の差を利用しつつ貯めたお金を、社長の手元にごっそり還元できます。

生活費に余裕があるのなら、全額役員報酬で受け取るのではなく、意図的に会社に貯めて後でお金を引き出すというスキームで考えてみるのも方法です。

ただ単に会社と個人で手残りキャッシュが増えたとしても、それを最終的にどう所得移転するかまで考えておかないと、結局高い税率を掛けられて終わってしまいます。

赤字のときの役員報酬の支払い方

ちなみに、例題にあるように役員報酬を利益のギリギリで設定すると、売上の変動によっては赤字になり、役員報酬を支払えないというケースも出てきます。

そんなとき、役員報酬を支払わないという選択もできますが、役員報酬を損金(経費)にするためには、「定期同額給与」の条件を満たさなくてはいけないことがネックになってきます。

定期同額給与とは、毎月や毎週など一定期間に決まった一定額を支払う給与のことです(要するに普通の給与のことです)。

となれば、資金がないから役員報酬を支払わないとなると、損金に計上できなくなります(定期同額給与に当たらない部分が損金に計上できなくなる)。

そこで、いったん役員報酬を支払ったという形にし、そこから社長個人が会社にお金を貸し付けた(役員借入金)体を取ります。

こうすることで、とにかく「定期同額給与」の形を保つことができ、役員報酬を損金に計上できます。

ただし役員借入金が多額になってくると、後々大変な問題になってくるので、赤字は早めに解消し、会社からお金を返してもうらうようにしましょう。

まとめ

一人社長の役員報酬の決め方について解説してきました。

役員報酬は会社の経営戦略とも関係しているため、社長の考えで決め方は変わります。

ですから、まずは社長がどうしたいのかをはっきり決めることが必要です。

軸が決まれば、あとはその戦略に沿った、最適な役員報酬を決めることができます。

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