「修正申告」と「更生」の違いを知ることが税務調査で役立つ

節税対策

税務調査に備える場合、「修正申告」と「更生」について理解しておく必要があります。

なぜならそれが、税務調査で否認された場合に役立つからです。

とはいえ、小むずかしいことを覚えるのではなく、その「使い方」について理解しておけば十分です。

要は、「修正の申告」と「更生」の違いを知っておくことで、その後の交渉を有利に進められ、譲歩を引き出すことが可能になります。

選択は2つ。「修正申告」か「更生」

確定申告の期限後に、税額に誤りがあった場合に、「修正申告」をするか「更生」になるかの2択になります。

修正申告

修正申告書とは、すでに提出した確定申告の申告額に誤りがあった場合で、

  • 申告をした税額等が実際より少なすぎた場合
  • 還付される税金が多すぎた場合

に、これらの金額を正しい額に訂正するために提出する申告書です。

修正申告は、納税者が誤りを認め、自ら申告内容(税額)を修正し納税する手続きします。

税務調査で指摘事項があった場合は、この修正申告をもって終了となることが多いです。

修正申告には、延滞税、過少申告加算税、重加算税といった追加徴税も課されます。

修正申告している時点で、本来の申告期限を過ぎているため、延滞税が課せられます。

過少申告加算税とは、申告した税額が本来の金額より少なかった場合の追徴課税で、本来の税額に対し10%(場合によっては15%)加算されます。

さらに脱税など明らかに悪意を持って過少に申告したと認められる場合は、重加算税が課されます。

重加算税は、本来の税額に対し35%(場合によって40%)加算されます。

修正申告のポイント

修正申告は先述した通り、自ら誤りを認め、自ら申告内容を修正する手続きです。

そのため、自分で納得して修正したことになり、「不服申し立て」することができません。

何より、調査官にとっては、自ら書類や否認の根拠となる法令なども用意しなくてよいため、処理を楽に進めることができます。

更生

税務調査で調査官から否認された指摘事項を、納税者が納得できず修正申告に応じない場合、税務署側から下される処分を「更生」といいます。

更生の処分をされると、本来納めるべきだった正しい税額に加え、延滞税、過少申告加算税、重加算税が課せられます。

この点は修正申告と同じです。

更生のポイント

しかし「更生」は、「修正申告」と違って「不服申し立て」ができます。

不服申立てとは、税務署からの処分に納得できない場合、税務署長に対して再調査の請求を行ったり、国税不服審判所長に対して審査請求を行うことができることをいいます。

それで納得できないときには、裁判所に訴訟を起こすことも可能です。

修正申告は、自ら納得して提出するものであるため、救済措置である不服申立てはできないことは先に述べました。

しかし「更正」の場合は、税務署からの処分であるため、処分内容に納得できなければ、不服申立てすることができるのです。

調査官は「更生」を避けたい

税務調査で否認された場合、「修正の申告」で終えるか、「更生」で終えるかの2つになりますが、この2つの違いを知っておくことで、税務調査に役立てられます。

結論からいえば、税務調査官は「修正の申告」で済ませたく、「更生」処分はなるべく避けたいと考えています。

この心理の隙間に、交渉の余地が生まれます。

なぜ調査官は、「更生」でなく、「修正の申告」で済ませたいのでしょう。

納税者側にとってみれば、「更生」でも「修正の申告」でも、納めるべき税金は変わりません。

にもかかわらず、税務調査官は「修正の申告」をするように誘導してきます。

それは、「更生」に「不服申し立てできる」という違いがあるからです。

「厚生」には「不服申し立て」があるがゆえに、調査官は「修正の申告」で済ませようとするのです。

調査官が「修正申告」で済ませようとする3つの事情

税務調査官が「修正の申告」で済ませようとする理由は、次の3つの事情があるからです。

1・二度手間になるから

更生処分をされると、納税者からかなりの割合で不服申し立てされます。

不服申し立てをされると、税務調査に訪れた調査官とは別の調査官が再調査を行います。

その結果、処分を下すのに二度手間になり、税務署の仕事量が増えてしまいます。

2・手続きが面倒になるから

納税者が修正申告を提出すれば、基本的に調査官が上司(統括官)の決裁を得るだけで税務署内の手続きは終了します。

しかしこれが更正になると、手続きは一気に面倒になります。

更正をする場合は、統括官・副署長・署長と3人の決裁を必要となります。

この税務署内の手続きがとても面倒になるため、調査官はやりたがらないのです。

3・理由を付記しなくてはいけないから

「更生」で処分する場合、否認根拠を法令等で明確にしなくてはいけません。

税務署が納税者に対して、拒否処分や不利益処分を行う場合には、具体的事実及び根拠法令を明示することが法律で決まっています。

処分の理由附記について

税務署にとっては、この理由付記がとむずかしい作業で、納税者側の主張をあらためて否認するには、それなりの根拠を用意しなくていけません。

一つの例として「帳簿記帳がなされている場合、帳簿の記載内容自体を否認する帳簿否認の場合には、帳簿書類の記載以上に信憑性のある資料を摘示して具体的根拠を記載する必要がある」とあるくらいです。

これらの事情があるため、なるべく「更生」処分は避けたいという意識が調査官に働きます。

そこに譲歩が生まれる

税務調査において調査官が否認指摘をしたものの、その根拠が非常に曖昧であることが多くあります。

しかし修正申告であれば、その根拠がいくら曖昧でも、「納税者が納得して提出するもの」である以上、問題とならず、これで決着させたいというのが調査官の本音なのです。

この辺りの心理がわかれば、交渉の余地が生まれます。

もし、調査官の指摘に納得できなければ、安易に修正申告に応じず、主張を突っぱねたら、「今回は指導ということで」と譲歩のセリフを引きだすことも可能になるのです。

ただし、明らかに申告内容が誤っていたり、不正があった場合に修正申告を出さずにいれば、その期間が長くなるほどに加算税や延滞税が増えていくことになります。

悪質な場合には重加算税も課せられます。

修正申告に応じないのは、あくまで税務調査官の指摘に納得がいかないときだけにしましょう。

駆け引きをやり過ぎるとしっぺ返しを食らいます。

更生の請求

ちなみに、納税者側から税務署に対して更正を行うよう求めることもできます。

更正の請求書とは、

  • 納める税金が多すぎた場合
  • 還付される税金が少なすぎた場合

に、これらの金額を正しい額に訂正するために提出する請求となります。 

更正の請求書が提出されると、税務署ではその内容の検討をして、納め過ぎの税金があると認めた場合には、減額更正をして税金を還付することになります。

「更生の請求」は、法定申告期限から5年以内なら行うことができます。

さらに「修正の申告」をした場合、不服申し立てはできませんが、「更生の請求」を行うことができます。

たとえば、いったんは調査結果の内容説明に納得して修正申告を行ったものの、その後にその修正申告に誤りがあると考えられる場合、一定期間内(その修正申告の法定申告期限から5年以内)であれば「更正の請求」を行えます。

ただし、「更生の請求」をすることで、税務署の調査で寝た子を起こすケースもありますので、金額によっては避けた方が無難な場合もあることを認識しておきましょう。

まとめ

「修正の申告」と「更生」について解説しました。

むずかしいことはさておき、調査官は「更生」を避けたがることを覚えておきましょう。

なぜ避けるかは記事内でお話しした通りですが、この事情を理解していれば、交渉の余地が生まれたり、調査官との心理戦で譲歩を引き出すことに役立ちます。

知っている者が得をし、知らないものは損をする、これは税務調査でも同じことがいえるのです。

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