役員賞与も活用の仕方によっては節税を行うことができます。
最近では社会保険料の負担も重くなってきているため、賞与を使った社保削減スキームを導入する社長も増えています。
ただし役員賞与で節税や社保削減を行う場合は、正しい知識を持って臨まないと、却って負担が増えることになります。
この記事では、役員賞与を使って節税する方法を解説します。
役員賞与とは
役員賞与とは、一般的なボーナスの意味もありますが、役員の場合は、会社からの債務の免除、低金利の貸付など、会社から受けられる「経済的利益」、要は特別扱いのこともいいます。
この役員賞与は、税法上「役員報酬」とは区別されています。
役員報酬は毎月一定額を支払えば損金算入できますが、役員賞与は、原則損金に算入できません。
役員賞与の損金算入を認めてしまうと、儲かったときに多額の賞与を支払うことで、簡単に利益調整されてしまうからです。
税金を取る側にとってみれば、これは何としても避けたいことです。
そこで役員賞与は原則損金不算入としているのです。
役員賞与を損金にする方法
しかし一つだけ例外があって、「事前確定届出給与に関する届け出」を所轄税務署に提出すれば、役員賞与を損金に計上することが認められます。
「事前確定届出給与」とは、役員への賞与を「いつ、いくら支給するか」について、あらかじめ所轄税務署に届け出ることによって、損金に認められるという制度です。
届出の期限は以下の通りです。
- 株主総会等の決議の日から1か月を経過する日
- 会計期間開始日から4か月を経過する日
- 設立事業年度の場合は、その設立の日以後2か月を経過する日
事前に決められた役員賞与の額であれば、利益調整に利用することはできませんので、「事前確定届出給与」については、損金として認めますよということです。
支給日・支給額がズレると否認される
ただし「事前確定届出給与」は、届け出た「支給日」「支給金額」がズレていると、全額損金算入できなくなります。
このとき注意しなくてはいけないのは、「届け出た全額が損金不算入になる」ことです。
たとえば、100万円届け出ていて、実際支給したのが110万円の場合、10万円の差額についてではなく、110万円すべてが損金に認められなくなります。
届け出た金額より、支給した賞与額が少ない場合も同じで、全額が損金不算入です。
※支給日については、届け出た日と異なると原則損金不算入ですが、資金繰りなどのやむを得ない事情がある場合は「数日のズレ」は認められるようです。
役員賞与はいくら支給できるか?
「事前確定届出給与に関する届け出」を行っていれば、高額な役員賞を支払っても問題ないかといえば、そんなことはありません。
あまりにも高額な役員賞与は否認される恐れがあります。
役員に支給した給与の額が、その役員の職務の内容、その法人の収益及び使用人に対する給与の支給状況、類似法人の役員に対する給与の支給状況等から見て、その役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合には、その超える部分の金額は過大な役員給与として損金の額に算入されない。
・No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)国税庁HP
どの程度の金額なら問題ないかといえば、明確な基準がないのが現状ですが、判断基準としては次のものが挙げられます。
- 役員の職務の内容
- 会社の収益状況
- 使用人に対する給与の支給状況
- 業種と事業規模が類似の会社が支給している役員給与の額
これらの条件を総合判断して、役員給与が高額かどうか判定されます。
賞与の額のみでは決まらない
役員給与が高額がどうかの判定は、毎月支給される役員報酬や事前確定届出給与の種類ごとに行うのではなく、支給された給与「総額」で行うこととされています。
したがって、事前確定届出給与の額のみで判定されるわけではありません。
また、仮に「事前確定届出給与」で届け出た賞与が高額だと指摘されても、それが過大でないと証明できれば問題ないのです。
その判断基準となるのも上記の4つです。
役員賞与の決め方
役員賞与は「株主総会」か「定款」によって決まります。
ただ定款で役員賞与を定めてしまうと、金額の変更のたびに定款も変更しなくてはいけないため、「株主総会」で決めるのが一般的です。
役員賞与を増額・減額したい場合は、原則として来期まで待って株主総会で再度決議しなくてはいけません。
役員賞与の現物支給は、労働協約によって事前の取り決めがある場合を除いて、原則現金で支払わなくてはいけません。
役員賞与の節税・社会保険削減効果
節税効果
役員賞与を損金に計上できることで、節税効果が生まれます。
仮に300万円の役員賞与を支払えば、法人税率30%で計算すると90万円節税することができます。
・300万円×30%=90万円
ただし、個人の側で所得税・住民税が課せられます。
所得税は超過累進税率ですので、所得が多くなるほど税負担は重くなります。
そのため、法人側で節税効果があっても、個人側で税負担が重くなり、トータルでの納税額が増えるということも起きてしまいますので、事前のシミュレーションで納税額を把握しておくことが大事になります。
社会保険料削減効果
事前確定届出給与で賞与を支払うことで、社会保険料を削減することもできます。
賞与に対してかかる社会保険料(健康保険・厚生年金保険)には、上限が設けられています。
- 健康保険:573万円
- 厚生年金:150万円
つまり、上記以上の賞与を支払った場合、それを超えた金額については、社会保険料が掛からないのです。
たとえば、800万円の賞与を支払ったケースでは、健康保険で227万円、厚生年金で650万円に対しては社会保険料はかかりません。
・健康保険:800万円-573万円=227万円
・厚生年金:800万円-150万円=650万円
したがって、役員報酬で給与を受け取るより、役員賞与の割合を増やしたて受け取った方が、社会保険料の負担は減るのです。
年間役員報酬1200万円の社会保険料をシミュレーション(東京都40歳以上で計算)
毎月100万円の役員報酬の場合
・健康保険料:11万3974円×12か月=136万7688円
・厚生年金保険料:6万2000円×12か月=74万4000円
・トータルの年間社会保険料:211万1688円
役員報酬毎月10万円、役員賞与1080万円の場合
役員報酬部分
・健康保険料:1万1397円×12か月=13万6764円
・厚生年金保険料:1万7934円×12か月=21万5208円
・合計:35万1972円
役員賞与部分
・健康保険料:66万6399円
・厚生年金保険料:27万4500円
・合計:940899円
トータルの年間社会保険料:35万1972円+94万899円=129万2871円
以上のように、総収入は同じでも役員賞与の割合を増やすことで、81万8817円の社会保険料を削減することができます。
極端な賞与額は問題にならないか?
このような極端な役員賞与の受け取り方をして、税務上問題ないかといえば、先述した通り、役員給与が高額かどうかは、トータルの収入で判断されるため、役員賞与の額だけで「高い」と判定されることはないようです。
ただし、これは税務上の問題で、社会保険とは別です。
年金事務所からの調査では、「なぜこのような給与の受け取り方をしているのか?」は聞かれるでしょう。
それについての合理的な説明を用意しておく必要があります。
たとえば、月の売上の変動が激しく、定額の役員報酬を支払うと赤字になるなどです。
年金事務所の調査に「社会保険削減のため」といえば、間違いなく否認されるでしょうから、気をつけてください。
また、期の途中で「生活費が足りないから」と、役員賞与分からお金を先取りすると、否認されますので、月々の役員報酬を極端に下げても生活費に困らないかもよくよく検討しておかなくてはいけません。
後々は問題になる
社会保険削減のための役員賞与を使ったスキームは、後々問題になってきますので注意が必要です。
それは役員退職金の支払い時です。
ざっくりいえば、毎月の役員報酬額が低すぎると、会社側で損金算入できる金額も小さくなってしまうのです。
退職金は金額が大きくなりますから、損金にできない部分が大きくなると、会社の資金繰りに深刻なダメージを与えます。
また、間違った手続きをして否認されれば、金額が金額なだけに会社の存続も危うくなるダメージを受けかねません。
社会保険料の削減だけを考えていると、税務上で足元をすくわれるかもしれないのです。
十分な注意が必要です。
役員賞与が否認された場合
役員賞与が否認された場合は、全額損金に算入できませんので、法人税の支払いが発生します。
賞与を受け取った個人についても、所得税・住民税が課せられますので、いわゆる「往復ビンタ」を喰らうことになります。
賞与を支払わなかった場合
事前確定届出給与で届け出た役員賞与を支払わなかった場合は、とくにペナルティはありません。
ただし、役員名で「賞与放棄通知書」を作成するか、株主総会で「不支給決議」をして議事録を作っておいたほうがよいでしょう。
というのも、所得税基本通達28-10で、
給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする。
と定められていて、支給が確定している給与については、受け取らなかったとしても課税されてしまうからです。
事前確定届出給与の賞与を支給しないときは、「賞与を受け取らない」ことを意思表明しておきましょう。
まとめ
役員賞与で節税や社保削減するには、「事前確定届出給与」を利用する必要があります。
ただしそのためには、役員賞与に対する正しい知識がなと、後々否認されるおそれが出てきます。
役員賞与で節税・社保削減するときは、この記事が参考になれば幸いです。
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