妻や家族に支払う役員報酬はいくらにすればよい?

節税対策

妻(配偶者)や家族を役員にする場合、報酬をいくらにすればよいか?という疑問が出てきます。

妻や家族に役員報酬を支払う場合には、純粋に妻や家族に報酬を支払いたい、節税のために役員報酬を支払いたいなどの理由があると思います。

しかしそこで問題になるのは、「いくらまでなら税務調査で否認されないか」ということです。

高すぎる役員報酬は、税務調査で否認される可能性が高くなります。

そこでこの記事では、妻や家族に役員報酬を支払う場合の「報酬額」についての考え方を解説します。

いくらなら大丈夫という絶対値はない

まず「いくらだったたら大丈夫」という基準となる値はありません。

それは次の基準で役員報酬が適正額か判断されるからです。

  1. その役員の職務の内容
  2. その法人の収益の状況
  3. その法人の使用人に対する給料の支給の状況
  4. その法人と同種の事業を営む法人で、その事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況

たとえば1の役員の職務内容一つとってみても、仕事量や経営に携わっている度合も人それぞれで違います。

ですから、一概に「この金額なら否認されません」といえないのです。

役員と認められなかった例

妻や家族に役員報酬を支払う目安は、社長の報酬の60%~80%という考え方があるようです。

しかしこの数値も一つの目安であって、絶対に安全ということではありません。

問題なのは、実態が伴っているかどうかです。

たとえば次の例は常勤役員ではなく、非常勤とみなされてしまったケースです。

・経営方針の決定や資金繰りなどの重要事項に従事してなかった

・外部に委託した業務に従事することもなかった

・接待等で出社するも、月に数回程度

・会社への出社日数もわずか

・出社してない日は子どもの世話や家事をしていた

このように常勤役員として登記していても、実体が役員としての責任を全うするような業務内容でなければ、非常勤役員とみなされてしまうのです。

それ以外にも税務調査でもめて裁判まで行ったケースでは、

  • 妻名義の口座に振り込んでいなかった
  • 妻自身が、自分の年収を把握していなかった

上記のことが、役員として認めらない要件になったというものもあります。

ですから業務内容などだけでなく、

  • 本人の名義の口座に、毎月振り込む
  • 本人が年収を把握している

ということもポイントになります。

役員として認められる条件

では、逆に常勤役員として認められたケースをご紹介いたします。

・取締役会などに出席し、経営の決定に関わっていた

・会社の法人税の確定申告書を税務署に提出する前に、決算書を見てその内容を確認すなど、会社の業績について承知していた

・代表者から各従業員の勤務成績の説明を受け、これを基にして従業員の給与や賞与を決定していた

・従事する会社には、週に3、4回は顔を出し、代表者や従業員から、経営上はもちろん日常業務に関する問題点等についても聴取していた。

・日々のつり銭の交付及び売上金の管理並びに草取り、清掃作業を行っていた

このように明らかに役員としての業務実態がないと、役員として認められないのです。

役員として認められない以上、たとえ妻の役員報酬が社長の報酬の60%~80%以内に収まっていても、「不相当に高い部分」が損金に計上できなくなります。

相場と比べて高い

仮に妻に役員報酬100万円支払っていたとします。

しかし妻の業務内容は経理のみだけでした。

一般的に経理のスタッフを雇えば、多くても30万円くらいでしょう。

そうなると、経理の仕事に対して100万円の役員報酬は、高いと指摘されてもおかしくありません。

この場合、役員報酬を100万円と認めてもらうためには、その他の要件を満たす必要がでてきます。

たとえば先述した通り、経営方針の決定に関与している、取締役会に出席している、会社の業績を理解している、資金繰りに関わっているといった、経営に関与している度合が大切になってきます。

役員は雇用契約でなく委任契約です。

従業員のように労働時間で給与が決まるわけではありません。

役員の場合は、労働時間は関係なく(たとえば、残業したから報酬が増えることはないでしょう)、会社の意思決定に参加することが大事な仕事になるため、従業員より多くの報酬を受け取ることができるのです。

だからこそ、高額な役員報酬を受け取るためには、経営に関与している度合が重要になりま。

社長と同額の役員報酬を支払うことはできる?

では社長と同額の役員報酬を支払うことはできないでしょうか?

いいえ。理論上はできます。

役員報酬が適正かみる基準に、「役員の職務の内容」があるわけですから、社長と同等の職務や責任を負っていれば、妻や家族に同額の役員報酬を支払うことも可能になります。

とはいえ、一般的に役職に応じて報酬は変わります。

たとえば、代表取締役社長と専務取締役とでは職責に差があるものです。

それでも、妻も連帯保証人になっている、有している権限も社長と同じ、役職も同じ、といったことであれば、同額を支払っても問題ないといえます。

ただし、税務上問題となるのは「不相当に高い役員報酬」です。

  1. その役員の職務の内容
  2. その法人の収益の状況
  3. その法人の使用人に対する給料の支給の状況
  4. その法人と同業種・同規模の会社の役員報酬の支給状況

の4つと照らし合わせて、役員報酬が妥当な金額であれば、妻や家族に支払う役員報酬が同額であっても大丈夫となります。

同額であっても同額でなくても、いずれにしても大事なのは、お手盛りを疑われないための合理的な根拠を用意しておくことです。

極端な話、役員報酬の額が低くても、合理的な説明ができなければ、それは「高い」と指摘されてもおかしくないのです。

まとめ

妻や家族に高額な役員報酬を支払うときは、それを納得できる根拠が必要になります。

したがって「この金額なら大丈夫」という基準は存在しないのです。

また社長と同額を支払いたい場合でも、あえて差を付けておくことで、突っ込みしにくくしておくのも方法です。

社長と同額だと突っ込みもしやすいですが、役員報酬に差があれば、業務内容や権限や責任を考慮した報酬額となるわけですから、「ではいくらなら適正ですか?」と逆突っ込みを入れることができます。

そう聞かれれば、その根拠と共に金額を調査官が示さなくてはいけないわけですから、なかなか答えられるものではありません。

ただし、お決まりのセリフで申し訳ありませんが、ここで解説したのは、あくまでもわたしが調べた上での見解です。

具体的な役員報酬は、顧問税理士の先生と相談の上お決め下さい。

妻や家族に支払う役員報酬はいくらならよいか?について解説しました。

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