未来の売上を完全に読むことはできません。
期の最初に予想した売上よりも業績が悪く、利益が出ないこともあります。
そんなとき、役員報酬を下げることもやむなしといった状況に陥ることもあるでしょう。
しかしただやみ雲に役員報酬を下げても、思いがけない税金を課せられてしまうケースがあります。
役員報酬を減額して何とか利益を確保しようとしたのに、これでは元も子もありません。
この記事では、役員報酬を減額する上で押さえておくべきポイントをわかりやすく解説していきます。
損金にするには定期同額給与を理解する
役員報酬を損金に計上するためには、「定期同額給与」というルールを守らなくてはいけません。
定期同額給与とは、役員に対し毎月同じ金額を支払う給与のことです。
それは、役員報酬も下げる場合も同じように適用されます。
役員報酬額を自由に設定できるようにしてしまうと、
- 利益が出ている会社は、役員報酬を増額して法人税を少なくできる
- 利益が出てない会社は、役員報酬を下げて個人の所得税を少なくできる
といったことが簡単にできてしまいます。
そのような利益調整をさせないための措置が定期同額給与です。
このような国税の意図を知らず役員報酬の減額を行ってしまうと、減額した部分が損金とならず、余分な税金が発生してしまうのです。
まずは役員報酬を損金に計上するためには、定期同額給与のルールを守らなくてはいけないことを、しっかり認識しましょう。
・No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
役員報酬を減額する2パターン
役員報酬の減額には、
- 事業年度開始日から3か月以内
- 事業年度の途中
で減額する2パターンがあります。
事業年度開始日から3か月以内
定時株主総会の決議や総会後の取締役会の決議などにより、事業開始の日から3か月以内に毎月いくら一定額支払うかを決定します。
その決められた一定額を毎月支払うことで「定期同額給与」となり、損金に計上することができます。
事業年度の途中
役員報酬の減額は、期首から3か月以内に行うのが原則で、その後変更することはできません。

やむなく減額する場合でも厳しいルールがあり、条件を満たすことができなければ、損金として認めてくれないのです。
その条件とは、
「その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」
となります。
役員報酬を減額しても損金と認められる条件
この業績悪化事由には「客観的な事情」が必要とされていて、具体的には次のことをいいます。
株主との関係
経営状況が著しく悪化したため、株主との関係上、経営上の責任から役員報酬を減額せざるを得なくなった場合。
取引銀行との関係
経営状況が著しく悪化したため、取引銀行とのリスケジュール(金利の引き下げ、返済期間の延期など)が行われ、その中で役員報酬の減額が要請された場合。
取引先等との関係
経営状況が著しく悪化したため、取引先等との信用を維持・確保する必要性から、経営改善計画が策定され、その中に役員報酬の減額が盛り込まれた場合。
得意先との関係
売上に占める割合が高い得意先が「1回目の不渡りを出した」「業績悪化により規模を縮小せざるを得ない状況だと判明した」など、数カ月後には売上が激減することが客観的に判断できる場合。
上記のような状況であると認められたときに、期の途中で役員報酬を減額した場合でも、損金として計上することができるのです。
事業年度の途中で役員報酬を減額し認められなかった場合
役員報酬の減額が、先述した理由以外の場合は、損金を否認されます。
たとえば事業年度の6月に定期株主総会で、役員報酬を80万円と決めたとします。
しかし何らかの事情で、事業年度の途中で60万円に下げたました。

このとき、減額分を否認されたときは、定期株主総会後から役員報酬が60万円であったとみなされます。
ただし定時株主総会前の4・5・6月の3か月分給与は損金になります。
つまり、7月から10月までの4か月間のトータル80万円が「損金にならない」のです。
・(80万円-60万円)×4か月=80万円

また、役員に対する個人の所得税は、「実際に受け取った役員報酬の額」で計算されるため、減額した部分にも所得税が課せられます。

要するに、損金として認められなかった差額分については、法人税と個人の所得税が課せられる、いわゆる往復ビンタを喰らうことになります。
とはいえ、図をみてもわかる通り、早い段階での減額は傷が浅いうちにできるといえます。
逆に時間の経過と共に、役員報酬を減額するデメリットは大きくなります。
減額する場合は、早めの決断が必要です。
事業年度の変更で損金対策
やむなく役員報酬を減額する場合でも、決算月を変えることで損金にすることができます。

事業年度の変更の手続き
事業年度は定款に定めるケースが一般的です。
定款に定めた決算期を変更するには、株主総会を開催して定款を変更すれば、決算期は簡単に変更できます。
事業年度は登記事項ではありませんので登記の必要はありませんが、税務署等には届け出が必要となります。
決算期変更の注意点
決算期を変更すると、事業年度が1年を超えることになるケースも生じますが、税務上は決算期の変更を行った場合であっても、1年を超えて税務申告期間とすることはできません。
期首から1年後までの期間で納税する必要があるので注意しましょう。
社会保険料の届け出も忘れずに
役員報酬の減額幅が大きいときは、社会保険の届け出を忘れないように行いましょう。
役員報酬の減額で、3か月平均して「社会保険の等級が2等級以上下がった」ときは、「随時改定」の手続きが必要になります。
随時改定は次の3つの条件を全て満たす場合に行います。
(1)昇給又は降給等により固定的賃金に変動があった。
(2)変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
(3)3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。
随時改定
社会保険料は原則として次の定時決定(9月)が行われるまでは変更しません。
しかし役員報酬が著しく変動すると、被保険者が実際に受け取る報酬の額に対して、社会保険料が高額になることがあります。
このため、役員報酬に大きな変動が生じた場合には、標準報酬月額の改定を行うことができるようになっています。
これが「随時改定」です。
ただし随時改定を届け出ても、社会保険料が下がるのは4か月後です。
したがってその間は、役員報酬が下がりつつ、社会保険料は高いままとなります。
役員報酬を減額する際の手続き
1・株主総会を開催
役員報酬を変更したい場合には、「株主総会の決議」を行わなくてはいけません。
2・議事録を作成
役員報酬の変更にあたっては、定時株主総会と臨時株主総会いずれの場合も、役員報酬の変更について決議した旨の議事録を作成する必要があります。
議事録の作成は、会社法第318条において「株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。」と定められていますし、税務調査対策としても重要です。
議事録などがなければ、税務調査に入られた時に、損金算入を否認され、追加で税金を納める可能性があるからです。
合同会社の場合は、社員総会で同意書または決定書を作成・保存しておく必要があります。
株主総会の議事録に記載すべき事項
株主総会の議事録には、以下のような記載事項が必要です。
- 株主総会を開会した日時と場所
- 株主の総数
- 発行済株式の総数
- 議決権を行使できる株主の数
- 議決権を行使できる株主の議決権の数
- 出席株主数
- 出席株主の議決権の数
- 変更する役員の報酬金額及び支給を開始する年月
- 株主総会を閉会した時間
- 議事録を作成した日にち
- 会社名
- 議長の氏名(代表印の押印が必要)
- 出席した取締役等の氏名(個人の実印の押印が必要)
議長の氏名の横には代表印の押印が、出席した取締役等の氏名の横には個人の実印の押印が、それぞれ必要となります。
まとめ
役員報酬を下げるときのポイントをまとめました。
役員報酬は下げる場合でも、気を付けないと損金に計上できなくなってしまいます。
ただし、損金に計上できないといっても、全額が損金に計上できなくなるわけではなく、差額分が損金にならないだけです。
仮に社会保険料削減目的などで役員報酬を減額する場合、削減で得られる金額と、損金計上できなくて損失する金額を対比してみなくてはいけません。
仮に社保を削減することで得られる金額が多ければ、あえて期の途中で役員報酬を減額しても、大した痛手にならないケースもあるのです。
いずれにしても、役員報酬の減額で損失にならないようにするためには、しっかりポイントを押さえておくことが必要です。
その他の役員報酬の詳しい解説は下記リンク先記事をご覧ください↓
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