配偶者の役員報酬は二次相続対策になる。短期の節税対策だけで考えない

社長の手取りを増やす方法

配偶者(夫または妻)を役員にして、役員報酬を支払うことで所得分散になり、トータルで所得税を低く抑えることができます。

社長一人で1000万円の役員報酬を受け取るよりも、配偶者と分割して受け取った方が、家族単位での手取りは増えることになります。

これはよく使われる節税対策です。

しかし配偶者に資産を分配しておくメリットは、それだけではありません。

人によってはまだまだ先の話ですが、相続の二次相続税対策にもなります。

所得分散による節税効果

配偶者に役員報酬を支払うことは、所得の分散になり、所得税を節税する効果があります。

給与には「給与所得控除」があります。

1人で役員報酬を受け取るなら1人分しか給与所得控除はありませんが、2人で受け取るなら給与所得控除も2人分となるため、非課税の控除枠が広がります。

さらに所得が分割されることで、所得税率が下がり、税金自体も下げられます。

これが所得の分散効果による節税です。

短期的視野では問題が大きくなる

所得の分散効果による節税は、それはそれで大事なのですが、これはある意味、近視的な対策です。

毎年の所得税を抑える効果のみを見据えて、長期的な展望はありません。

つまり、配偶者に所得を移転することでどんなメリットがあるのか、その長期的展望です。

仮に短期的な節税対策だけに目がいってしまうと、税金や社会保険の扶養につける目的的で、配偶者の所得を抑えてしまったりしてしまいます。

短期的にはそれでもよいかもしれませんが、長期の展望に立てば、やはりそれだけでは問題が出てきます。

たとえばそれが二次相続の問題です。

二次相続で相続税がドカッとくる

二次相続とは、最初の相続(一次相続)で残された配偶者が亡くなったときに起こる二回目の相続のことをいいます。

たとえば最初に社長がお亡くなりになります。

その後残された配偶者が死亡したときに起こる相続のことです。

二次相続の何が問題かというと、一時相続ではそう増税を抑えられたとしても、二次相続ではドカッと相続税が課せられてしまうかもしれないことです。

つまり、ご両親が亡くなれた後に残された子供に、多額の相続税が発生するかもしれないというのが二次相続の怖さです。

仮に社長、妻、子供2人というケースを想定してみましょう。

相続には基礎控除があります。

基礎控除は次の式でも求めます。

・3000万円+(相続人の数×600万円)

一時相続では、相続人の数は3人ですので、基礎控除は4800万円になります。

・3000万円+(3人×600万円)=4800万円

しかし二次相続では人数が一人減りますので、基礎控除も4200万円になってしまいます。

・3000万円+(2人×600万円)=4200万円

基礎控除だけでも600万円のマイナスになります。

1億6000万円の罠

そしてもっと大きいのが、配偶者の税額軽減の特例です。

相続税には、「配偶者が相続した遺産が法定相続分以下もしくは1億6000万円以下であれば、配偶者に相続税は課税されない」という特例があります。

この特例は二次相続の時点で使えなくなります。

もし一次相続で配偶者に1億6000万円以上の遺産を相続させると、相続人全員の相続税の総額を少なくすることができます。

しかし、二次相続では配偶者の税額軽減の特例が使えませんので、一次相続で配偶者が相続した多額の遺産を子供たちが相続するため、相続税は高くなってしまうという現象が起こってしまうのです。

それを避けるためには、配偶者の特別控除があるからといって、それを最大限使わないような遺産相続の分配の仕方も考えなくていけなくなります。

二次相続対策のキーポイントは配偶者の資産の額

このような二次相続まで見据えた相続税対策を行うには、配偶者の財産がどれだけあるかも重要になります。

二次相続対策があるからと、配偶者に財産を少ししか分割しないとなると、それはそれで配偶者の生活に問題が出てきます。

お金がないことで、家族の中で居場所がなくなってしまうケースもあるでしょう。

やはり経済的、精神的ストレスを考えたら、ある程度まとまった財産は必要です。

そうかといって、二次相続に多額の相続税を課せられたら、それはそれで子供もたまったものではありません。

そう考えると、配偶者の資産がどれだけあるかが、二次相続の問題を解決するキーポイントになるといえます。

配偶者に自前の財産があれば、二次相続対策で打てる手も自由度が増します。

だからこそ、配偶者への役員報酬も、長期的展望に立って考えなくてはいけないのです。

冒頭で相続なんてまだまだ先の話と書きましたが、それなりの財産を形成するには、それこそ長期の期間が必要です。

今の手取りだけを考えて節税対策を行えば、後々家族に大きな負担を残すことになります。

まとめ

現時点での節税対策を考えることも大事ですが、それによる弊害も少なからずあるものです。

今一時だけのことだけに目を向けてしまうと、大きなリスクを内包してしまいます。

社長の年金復活プランがその良い例です。

配偶者への役員報酬も、所得の分散効果による節税だけでなく、長期の視野で考えましょう。

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